夫婦って、家族に決まってるだろ
「だから、ワタシはユートとケッコンしたいんです」
リリアナは、過去の出来事を俺たちに話すと、そう最後に付け加えた。
リリアナの親父さんが……。
知らなかったな。リリアナも、そんな様子見せなかったし。
「リリアナは、日本に来てよかったのか? 親父さんのそばに居た方が」
「毎日電話はしてますし、問題ないです。ワタシは、ユートとケッコンするまで帰りませんよ」
「リリアナさん……そんな事情言ったらユートは」
「憐れみでケッコンを受け入れてくれるならそれで問題ありませんよ。ワタシはユートとケッコンする、そのために来たんですから」
「じゃあ、なんで早く言わなかった? 親父が来る予定にないなら、このまま言わなかったんじゃないか?」
「だから初めて会った時言いましたよ」
リリアナと初めて会った時、リリアナは俺に抱きついてきて許嫁だと宣言した。
あれのことだったのか。
「でも、ユートには紬さんがいた。……そこに割って入ってまで、ケッコンを申し込むのは流石にワタシの心が傷んだので、様子見をしていました」
「そうだったのか……」
「そして、ユートのパパが来てしまった。これ以上隠す事も、引き伸ばしにする事も出来ません。だから、ワタシとケッコンしてください、ユート」
リリアナは、真っ直ぐ俺を見つめる瞳。
今日何度目かわからない、リリアナからの求婚。
俺はそれに、NOを突きつける。
「悪いが、俺はリリアナとは結婚出来ないし、海外にもいかない。ごめんな」
「どうして!」
「俺は、親父の思い通りにはならないよ」
「ワタシと、ケッコンしてくれないんですか?」
「……ああ」
「そんなに、紬さんが好きなんですか!? 何度好きと伝えても、決して首を縦には振らない紬さんが、そんなに!? ……中途半端な関係を続けて、キープしてる紬さんが、そんなに好きなんですか?」
俺はその問いには答えない。
だって、それは本筋ではないのだから。
紬が好き好きでない以前に、俺はリリアナと結婚しない明確な理由がある。
「……この、ユートのわからずや! あんぽんたん!」
そう言い残すと、リリアナは家から飛び出して行った。
あんぽんたんって……最近聞かねえな。
◇
その日の夜、俺の部屋へ紬がやってきた。
「入って良い?」
「ああ、いいぞ」
「じゃ、失礼しまーす」
紬は俺の部屋に入ると、ベッドへ腰掛ける。
「なんか結人の部屋入るの久しぶりだな」
「紬が俺を避けてたからなぁ」
「……ごめん」
「別に怒ってない」
「ほんと?」
「ほんと」
「ほんとのほんと?」
「嘘、少し怒ってる」
「ごめんって!」
そんなやり取りをして、フッと二人で吹き出して笑う。
この感じ、本当に久しぶりだった。
幼馴染関係から脱出し、新しい関係へと踏み出そうとした。
でもそれは不発に終わって、ギスギスして、食い違うことはあったけど、今は家族として新たに絆を深めたような気がする。
紬と俺の関係性、この数ヶ月の出来事は無駄ではなかった。
「それで? 紬、何のようだ?」
「うん、リリアナさんのことでちょっとね」
まあ、だろうなとは思ったけど。
「……結人は、リリアナさんの求婚にどう思った?」
「どうって?」
「どう思ったのかだよ。素直に答えて」
「なんで」
「良いから!」
むーっと、不満そうな顔をする紬。
……分かったよ、いえばいいんだろ?
「正直、悪い気はしなかったよ」
「そ、そうなんだ」
だって、美少女が、俺に求婚してくる。そんな人生に一度あるか分からない体験、そんなの嫌なはずがなかった。
「リリアナの言う通り、結婚して海外に住むってのも、悪くない選択肢だと思ったよ」
約束された幸せ。
夢のある生活。
それに心が揺れた。
……でも。
「俺が結婚したいのは、リリアナじゃないからな」
そして、紬の方を見る。
「へー、そうなんだー」
紬は、ポッと顔を赤くして俺から目を逸らした。
その所作に俺もだんだん恥ずかしさが込み上げてきて、心拍数が上がる。
「まあ、そんな感じだ。それに、リリアナの気持ちを聞いてないからな」
まだ一度も、リリアナの本音は聞いていない気がした。
リリアナは、父親の死の前に結婚した姿を見せたいと言った。そのために、結婚相手を探す。
……本当に、それはリリアナの幸せのためになるのか?
リリアナが、別の誰かと結婚を選ぶとしても、俺はそれを止める権利はどこにもない。
ただ、俺へケッコンしてほしいと望むなら、俺は抵抗する。
「……そっか。そうだね」
紬は、フッと優しく笑う。
「私も、リリアナさんと話してみるよ。何か、新しい解決策が見つかるかもしれないしね」
「そうか、ありがとうな」
「別に感謝はいらないよー。私がそうしたいだけ。私だけ、蚊帳の外なんて嫌だから」
紬は、立ち上がると「そろそろ部屋に戻るね」と扉の方へ向かう。
そして俺の方を振り向くと、俺の名前を呼んだ。
「ねえ結人」
「どうした?」
「私たちって、家族だよね?」
「紬がそう言ったんだろ」
「そうだね」
紬は、堂々と家族だと宣言した。大切な存在だと、しっかり認められたようで俺は嬉しかった。
「じゃあさ、夫婦も家族だよね?」
「そりゃあ、夫婦なんだから家族に決まってるだろ」
紬の質問の意図が掴めない。
そして、紬がある事を言って立ち去った。
「じゃあ、私たちが結婚しても、関係性は分からないって事かな?」
「…………は?」
俺と紬が結婚したら……?
そんな言葉を残して部屋から出て行った紬。
その言葉を理解し、俺はボッと顔を赤くする。
「あいつ、何言って」
どうやら、今日は眠れそうにない。
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