秋元奈緒の独白

 私は、昔から転校ばかりだった。

 私のお母さんは、結婚をしないで私を産んだ。だから、私はお父さんの事を全く知らない。お母さんは派遣社員で、忙しい人だった。それでも、私に沢山の愛を注いでくれた、と思う。今もそれは変わらない。

 転校するたび、人間関係は新しく生まれ変わる。何度も何度もゼロからのやり直し。時には、上手くいかなくて孤立することも良くある話だった。

 それでも、お母さんを悲しませないためにも、必死に友達作りを頑張った。

 そんな私を、本は満たしてくれた。不思議な冒険や、王子様とお姫様のお話。殺人事件に、魔法だって、その中では体験できた。

 特にお気に入りだったのは、恋愛小説。主人公の女の子が、沢山の男の子に囲まれて、事件を解決したり、冒険したり、ドキドキするの。素敵だなと思った。

 でも、私は女の子向けの本より、男の子向けの本をよく読むようになった。きっかけは覚えていない。でも、私の胸に大きく刺さった。

 だって、ヒロインは転校生だったから。私と同じ。美少女転校生が現れて、主人公の男の子と恋をする。転校ばかりの私と重ねて、何か惹かれたんだと思う。

 そんな中、私はライトノベルというものに出会った。本屋の一角に、大きく場所を確保され、沢山の本が並んでいた。「アニメ化決定!」「コミカライズ決定!」など、沢山出てて、私は興味を惹かれたのだ。

 そこから、ラブコメにハマるまでに時間は掛からなかった。パンを加えた少女が主人公とぶつかるとか、ありがちな設定とか、女の子はこんなに単純じゃない!と思ったこともあったけど、凄く面白かった。

 沢山の本を読んでいると気付く。


「なんで、主人公は幼馴染を選ばないのだろうか」


 幼馴染。ラブコメでは定番で、大体いる。何故かみんな主人公に恋をしてるけど、想いを伝えず、メインヒロインに取られちゃう。たまに、負けヒロインって言われてたりする。私は、転校ばかりで幼馴染なんて居ない。だからこそ、疑問だった。

 幼馴染ってズルいと思った。好きなのに、それを伝えず、嫉妬して。でも、幼馴染だからと近くにいる。主人公に甘えている、そんな幼馴染はズルいと思った。

 でも、幼馴染って誰でもなれるわけではないのだから。とても、憧れた。

 でも、絶対に幼馴染が現れることはない。


 カメレオンは、沢山の色に変わり、外敵から身を守る。周りに溶け込み、自分も同化する。凄い賢いと思った。周りに合わせて、自分の色を変えて、身を守る。

 でも、カメレオンはカメレオンだ。

 クマにも、リスにも、シカにもなれない。ヘビにもなれない。カメレオンであるということからは逃げることができない。

 きっと私はカメレオン。沢山の色に自分自身を染め上げて、逃げて守るズルい人。

 だって、昔の私を知ってる人なんて居ないんだから。例え、どんな私でも、それはその時の私。


 私は、幼馴染が嫌いだった。だって、とても傲慢でズルい。

 誰よりも知っていて、過去を共有していて、沢山見せれる相手。

 

 主人公を知っている幼馴染が、嫌いだった。




 私も、ヒロインになれるのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る