幼馴染 VS 幼馴染


 数分前。別の教室にて。


「『放課後、話がある』ねぇ。なるほどねぇ……『告白以外なら、喜んで話聞くよ』っと」


 私、夏目紬は結人からのLINEに返事を返した。

 ……あの告白から数週間。

 私たちの関係は、元の幼馴染とは別の歪な状態になっていた。

 このままでは、幼馴染関係の維持すらも難しくなる。早く手を打ち、普通に話せる距離感に戻らないと行けないと思っている。

 だから、この連絡は素直に嬉しかった。


「ねえ、夏目さん知ってる?」


「うん?」


 クラス替えで新しく仲良くなった友達が、ある情報を持ってきた。


「二組に、海外からの転校生が来るんだって!」


「へー! 転校生! それは凄い」


 二組かぁ。結人のクラスだ。


「しかもね? ……めちゃくちゃ美人なんだって」


「それは凄いわね。漫画みたいな話」


「でしょでしょ? だからさ、休み時間ちょっと見に行かない?」


「えー、そんな野次馬みたいなことしても良いのかな」


「少しだけだから! ね! お願い」


 友達は手を合わせ、深く頭を下げてお願いしてくる。

 そこまでされたら、断れないじゃん。


「分かった。少しだけね?」


 結人の様子も気になるしね。話しかけるのには丁度いい。


「夏目さんありがとう!」


「どういたしまして。……それと、私のことは紬でいいよ」


    ◇


「フィアンセって……えぇ?」


「覚えていないんですか? 約束したじゃないですか、結婚しましょうって」


「いつの話だそれ」


「4歳の頃です」


「それはノーカンだろマジで」


「えっ…………」


 リリアナは、声を詰まらせると、悲しそうな顔をして涙を流し始めた。

 えっ……。


「待ってくれリリアナ、そんな泣かなくても」


「だって……ワタシ……そのために頑張ってきたのに」


「それはほんとごめん」


「……じゃあ、ワタシとケッコンしてくれる?」


「それは無理だ」


「oh…………」


 リリアナはさらに涙を降らす。


「ワタシのこと、ユートは嫌い?」


「嫌いではないよ」


「でもケッコンしてくれないんだ」


「もう十何年も前の話だからさ! 俺も飲み込めないのね? ……友達からなら」


「友達、イヤ」


「えぇ……」


「ワタシたち、幼馴染」


「幼馴染……なのか?」


 確かに、リリアナとは物心つく前からの知り合いだが、ここ十数年会っていない。

 それでも、幼馴染と呼べるのだろうか。


「ワタシたち、昔馴染み。だから、幼馴染」


「そう……なのか?」


「そうだよ」


「……ああ、分かったよ。俺たちは幼馴染だ」


「うん、ありがとう。ユート」


「結人な」



「おいお前たち、さっさと先に戻れ」


    ◇


 昼休み。


「ユート! ユート! ワタシと昼ごはん食べましょう」


「ああ、いいよ。リリアナはお昼ご飯持ってきたのか?」


「はい! バッチリです!」


「じゃあ、食堂で一緒に食べるか」


「ワタシも行くです!」


 俺とリリアナは二人で食堂へと向かう。

 廊下では、リリアナへ視線がみんな釘付けだ。

 金髪美少女。それだけで話題性は抜群。


 心なしか、いつもより廊下が広く感じた。


 食堂で俺はカツ丼を頼むと、空いてる席にリリアナと座る。


「リリアナはお昼はなにを持ってきたんだ?」


「これです!」


 リリアナは、大きな重箱を取り出す。

 ドンッと、効果音が鳴りそうな感じ。


「日本食勉強したので!」


 と、リリアナは重箱を開ける。

 おせちだった。お正月に食べるやつ。


「おせちじゃん」


「ハイ! 日本といえば、これだとお婆ちゃんに聞きました!」


「それはそうだけど……食べ切れるの?」


「もちろんですが?」


「大食いなんだな」


「食事と運動は、カラダを作り上げるのには必要ですからね!」


「頑張ってるんだな」


 泣き虫だったリリアナは、強く成長していた。

 その様子に、俺は嬉しさを覚える。


「それじゃあ、いただきます」


「いただきまーす」


 俺たちは、昼ごはんを食べようとした。

 その時。


「あ、結人。こんなところにいた」


 背後から、の声が聞こえた。


「紬……」


 突然で、俺は固まってしまう。

 ここ最近会話がなかったせいで、なにを話せば良いのやら。

 俺が困っていると、紬は何事もなかったように普通に会話を進めた。


「朝ちゃんと起きれたのね」


「美雪さんのおかげでな」


「お母さんの負担増やさないでよ〜?」


「分かってるって」


 前のような、普通の会話。少しぎこちなさは残るが、まあ良いだろう。

 紬は普通でいようとしてくれてるからな。俺も変に引きずってる場合じゃない。諦めたわけじゃないが、日常生活に影響が出るのは避けたかった。


「ユート、その人は知り合いですか?」


 おせちを頬張っていたリリアナは、箸を止め俺と紬を交互に見る。


「結人、もしかしてその子転校生の?」


「え? ああ、そうだよ」


「へー! めちゃめちゃ可愛いー!!」


「ありがとうござます」


「あなた、名前は?」


「私、リリアナ」


「リリアナさんね。よろしく。私は紬。こいつの幼馴染」


「oh……幼馴染! 私もユートの幼馴染です!」


「そうなんだ。私とおんなじ……………は?」


 紬は、笑顔のまま固まる。


「幼馴染仲間がいるなんて驚きました!」


「え、リリアナさん。幼馴染って言った?」


「言いましたよ? 私は、ユートの幼馴染です」


「何かの勘違い? 幼馴染って、小さい頃から知ってて」


「私、ユートが生まれた時から一緒です」


「えっ」


「それに、さっきユートはちゃんと幼馴染だって認めてくれました!」


「えっ」


 紬はどんどん表情を暗くする。


 そして、俺の方を見て一言。


「結人。説明して」


「あ、はい」


 こうして、俺の幼馴染二人が出会ったのだった。

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