第10話 2月 ポーション買取り強化期間 


 2月に入り、ダンジョンのスライムエリアに向かったが予想通り人が多い。企業ダイバーを入れると90人ほどのダイバーが登録しているけど、1階から5階までに40~50人ほどダイバーがいるんじゃないのか……。


「これは無理だな……諦めよう」


 早めに諦めてワープして11階へ向かったが、ステータス値が70から上がらないんだった。HPとMPはまだ上がるだろうけど、これは、20階のワープを目指せと言うことなのか……今日は早めにダンジョンを出て、16階から出て来る魔物を調べることにした。


 DWAで換金する時、受付の白石さんに聞かれた。


「東山様、ポーションは狙わなかったのですか?」

「ポーション集めに協力したかったんですけど、1階から5階は人が多くて狩りが出来ませんでしたよ。40人以上いましたよ……」


 あそこで狩るのは無理だよな~、取り合いになって気まずい気分になるのはイヤだよ。


「はぁ~、そうですか……」

「大勢のダイバーが居たから、後でポーションを売りに来るんじゃないですか?」


 白石さんが、周りを見渡してこっそり教えてくれた。


「大きな声では言えないですが、今月に入って買い取れたポーションは3本です……」

「そうですか……。白石さん、これから皆さん売りに来ますよ! きっと……」


 お互いにニッコリと愛想笑いをする。2月に入って数日経つのに……僕が一日頑張って取る数だな、と思いながらDWAを後にした。



 週明けの食堂で及川さんが、


「東山~、スライムエリア凄い人だったな~。あれは、無理だな……」

「そうですね。僕も行きましたけど、すぐに諦めましたよ……」

「ん? お前ら、ダンジョンでイベントか?」


 田中先輩が興味津々に聞いて来た。太田さんも目を見開いて、


「えっ! 及川さん、東山君、ダンジョンでイベントなんてあるんですか!? 楽しそうですね」

「いえ、田中先輩、太田さん、イベントなんて楽しい物じゃないですよ……」

「だな~、弱いスライムが稀に出すポーションを、いつもの倍の値段で買い取ってくれるだけだ」


『いつもの倍』と言う言葉に2人は食いついて来た。


「「いつもの倍って?」いくらだ?」

「「1万円」」

「なに~! 1本1万円か!」


 田中先輩、声が大きいですよ。


「お~! 良い値段ですよね。僕も早くダンジョンに行きたいな」


 確かに良い買取り値段だけど、あんなに人がいたらスライムの取り合いだし数を狩れない。


「太田、俺12月からダンジョンに入って、まだ1本しかお目にかかってないレア物だぞ」

「ええ! 及川さん、それはレア過ぎますよね……」

「及川、ポーションはそんなに出ないのか……」

「はい、田中さん。レアアイテムですからね、滅多に出ないんですよ」

「「……」」


 僕は、顔を伏せて無言を貫く。もう少し拾っているとは言えない……やっぱり、ステータスの幸運値が左右するのかな。及川さんに、幸運の数値を聞けたら分かるんだけど、JDAの哀川さんがステータスは人に見せない方が良いって言っていたし……。


 2月の第2週になり、TVで東北のスタンピードがようやく治まったと報道されていた。一旦スタンピードが起こると、隣接する都道府県のJDAが応援に入ることになっているらしく、同時に数か所でスタンピードが起こると時間が掛かるようだ。



 第2土曜日、今日は試しに16階で狩りをしてみることにした。朝、受付で16階からの地図を貰ったが、地図を確認しながら進むので16階へ向かう階段に着いたのは12時半だった。


「うわ~、ここまで来るのに4時間以上かかっているな」


 16階のフロアーで2時間ほど狩りをした。初めましての魔物ばかりで、1体倒すのに時間が掛かる。出て来る魔物は、シルバーウルフ・スパイダー・カエル・オーク、ランクD~Cの魔物だ。


 DWAの資料室で魔物を調べたけど、オークなんて倒せるのかと不安だったが、運よく、16階で出会ったオークは1体だけで、時間は掛かったが火魔法を顔にぶつけながら何とか倒せた。魔石は落とさなかったが、なんとオーク肉が出た! おおお! ゲームや漫画に出て来るあのオーク肉だ! これは持って返って味見しないとな!


 16階で2時間ほど狩りをして、ダンジョンから出ると19時を過ぎていた。


 カエルが落としたレアアイテムの毒消し1つと、オークが出した肉の塊は持って返る。オーク肉はステーキにして味見をする! それ以外を換金したら、41,600円もあった。今夜は豪華バージョンじゃなくて、帰ってオーク肉を焼いて食べる!


 帰りにコンビニでビールとサラダを買って帰り、部屋でオーク肉の塊を分厚いステークのように切って良く焼いた。怖いから……良く焼いた! そして、オーク肉の味を確かめたいから味付けは塩コショウのみで食べる。


 いざ! オーク肉よ! お前の評価が下される……パクッ……


「うぅ……うっま――!!」


 焼いただけなのに、これはヤバイ。脂身が少なく、良く焼いたから堅いかと思えば柔らかい! 凄く旨味があって肉に甘みがある、いくらでも食べられるよ! ビールが進むな! プッハ~、ビールが旨い! これは、醤油をかけてご飯と食べてみたい……焼き肉のタレでもいいな。よし! 明日はご飯を炊こう! オーク肉の塊は2キロぐらいあるけど、あっという間になくなりそうだな~。2枚目のステーキ肉を焼きながら、明日の晩飯を考えた。



◇◇

 祭日は2~4階をウロウロして、スライムを探した。2月初めに来た時より人が少ない。朝から入って夕方4時頃まで頑張った。成果はポーション2本ドロップした。もちろん、全て換金に出した。


「東山様、ありがとうございます! 大変助かります」

「いえいえ、来月の攻略を応援しています」


 今日は初心者エリアだったから、ステータスは上がらないと思っていたけどMPが上がった。これは嬉しい誤算だ。


HP  130/134

MP  49/57



 週明けのお昼に、田中先輩が企業向けの第三回ダイバー募集の話を持って来た。


「おい! 今、課長に聞いたんだが、3月の第三回ダイバー募集では前回申し込んだ企業を優先するらしいぞ! DWAから確認の連絡があったらしいから、うちは確定なんじゃないかな」

「田中さん、本当ですか! 僕、事務所に申し込んできます」


 そう言って、太田さんは事務所に行った。早い……。


「太田さん、選ばれたらいいですね」

「俺が抜けたから、選ばれる確率は上がるだろう」


 事務所に行った太田さんが聞いてきた話では、雪国のスタンピードをTVで見て希望を取り下げる人もいたようで、工場内でのダイバー希望者は5人に減ったそうだ。太田さんは、選ばれる確率が上がって喜んでいた。



 2月の第3土曜日、今日は初心者装備じゃなくて、5,000円もする1つ上の良い装備を借りた。それでも、買い揃えることを考えたら安いよな。メンテナンスしなくて良いし、壊れても修理代もいらないから良心的だ。まぁ、ダンジョンの魔物を狩ってくれってことだよな。


 さあ、16階でオーク肉狙いだ! 先週持ち帰ったオーク肉は既に無くなった。あれは旨かった~、冷凍室に常備しておきたい肉だよ。


 ダンジョンに入って10階に飛び、新しい武器で魔物を狩って行く。おお! 高いだけあって剣の斬れ味が違う! 深く斬れるし、振り回しても軽い。スネイクやキラービーは一太刀で倒せる! 武器1つでこれ程違うのか!


「もっと早く、この装備をレンタルすれば良かった……」


 弱い魔物を狩るなら初心者装備で十分だけど、強い魔物を狩るなら装備も良い物をつけるべきだな。


 16階には、前回より1時間ほど早く着いた。3時間程狩りをして、オークは2体出て来たが、魔石が1つ(1,000円)とオーク肉1個(3,000円)のドロップだった。オーク肉と1個だけ出たレアの毒消し(3,000円)は売らずに持って返る。21階から毒の魔物が出て来るらしいからキープしておく。20階以上に行けるか分からないけど……。


「ステータス・オープン」


名前  東山 智明

年齢   20歳

HP  118/136

MP   2/57

攻撃力  72

防御力  70

速度   71 

知力   72

幸運   67

スキル

・片手剣D ・盾D ・火魔法D


 あれ? ステータス値の上がりが悪くなったな、70からは上がり難いのか……?まぁ、少しは上がっているから良しとしようか。


 今回の換金額は4万ほどあったが、これからはレンタル代金が高くなるからな。1日約1万円の経費になる。まぁ、それよりオーク肉が出たのが嬉しい、自然とにやけてくる。早速、寮に戻ってステーキを食べよう! ああ! ビールも買わないとな。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る