第22話 7月 買取り強化期間なのに


 第3土曜、軽い足取りでダンジョンに向かった。


 今日は、毒消し狙いで19~20階で狩りをするつもり。今は買取り強化期間中で1個1万円! カエルを探すぞ!



 DWA支部に着くと、哀川さん、その後ろに後藤さんと神田さんがいた。まさか……。


「東山君、おはよう」

「哀川さん、おはようございます」

「「東山君……おはよう」」

「おはようございます。後藤さんも神田さんも揃って、どうしたんですか?」


 二人は気まずそうな顔をする。これは絶対に、アレだよな……。


「東山君、話があるんだが」

「えっと……哀川さん。2人が何か話したんですか?」


 二人は目を泳がせて顔を背ける。哀川さんが、軽く微笑み頷いた。


「ああ。東山君、奥の部屋で話をしていいかな?」

「はい……」


 『スキル書』の話だよね。哀川さんに付いて奥にある応接室に向かった。

う~ん、何かこれは、職員室か指導室に連れて行かれる感じだな。



 部屋に入って座ると、すぐに本題に入った。


「東山君、時間を取ってすまないね」

「いえ、話って何でしょうか?」

「ああ、2人から聞いたんだが、東山君は『幸運の東山君』と呼ばれているんだって?」


 後藤さんを見ると、うなだれている。


「それは、後藤さんが勝手に変なあだ名で言っているだけですよ」


 神田さんは、済まなそうな顔で僕を見ている。


「ふむ。単刀直入に聞くけど、『スキル書』を出したって聞いたが本当かい?」

「哀川さん、運良く出ただけです。僕が出したんじゃないですよ」


 数をこなせば誰だって出るんですから……たぶん。う~ん、まどろっこしい話はイヤだな。


「哀川さん、ハッキリ言ってください。何でしょうか?」

「そうだね。私も欲しいと思ってね。出来たら……」

「良いですよ。今から行きましょう。ただし、哀川さんの分で最後でお願いします」


 哀川さんの話を遮るように言ってしまった。どうせ、一緒に行こうと言われるんだろうからね。


「東山君、良いのかい?」

「これで最後だと、隊長の哀川さんが約束してくれるなら良いですよ」


 前回、最後に出た『スキル書』は、哀川さんに渡そうと思ったしね。アレ、僕が使わないで哀川さんに渡しておけば良かったよ。


「とりあえず、着替えて来ますね」


 装備に着替えて、4人でダンジョンに向かった。今日は更に視線を感じる……無視だ。そして、30階にワープした。


「30階でハイオークを探す。後藤、神田、ハイオーク以外はお前達で処理してくれ。ハイオークは私が倒す」

「「はい。隊長!」」


 うわ~、軍隊みたいだ。ん? 攻略部隊のメンバーだから、軍隊と変わらないのかな? 僕は後藤さんと神田さんに挟まれて進む。哀川さんは僕の隣だ。ちょっと緊張する。


 今日の二人は、哀川さんがいるからか緊張感が凄いよ。『挑発』で遊ばないし、出て来る魔物を速攻倒している。


「東山君、ハイオークだ!」


 後藤さんに呼ばれて前に行く。哀川さんも、すぐ後ろで剣を抜いて待機している。そして、いつものように火魔法をハイオークの顔に撃った。


「魔法だと――!」


 哀川さんが、叫びながらハイオークに突っ込んで一振り。哀川さんは一太刀でハイオークを倒してしまった。


「凄い……哀川さん、一撃だ!」


 哀川さんをまじまじと見てしまう。後藤さんより強いな。


 ハイオークは消えて、魔石を1個落とした。


「……東山君は、魔法を使えるのかい?」


 哀川さんは、真剣な顔をして聞いて来た。2人は、僕が魔法書を拾ったことは話していないのか?


「えっと、2人から魔法のことは聞いてないんですね? 10階のワープを取りに行った時に、魔法を使うゴブリンが落としたんですよ」


 魔石を拾いながら答える。


「聞いてないな……後藤・神田?」

「「はい……報告していません……」」


 哀川さんは2人を威圧している。2人ともビクッとして直立不動ですよ。一般ダイバーのステータスのことだから、報告の義務とかないよね? だったら、言わないよね。あぁ、一緒に狩りをするなら必要な情報か?


「えっと、2人から魔法を使うのは問題ないと聞きましたが、人前で使わない方がいいですか?」

「いや、かまわないよ。東山君が使えるとは知らなかったから驚いただけだよ」


 ゴブリンが落としたから、魔法を使える人は普通にいると思っていたからな。僕も魔法が使える人が少ないって聞いて驚いたよ。


「良かったです。魔法が使えないと、僕がハイオークにダメージを与えるのが難しいですから。じゃあ、このままハイオークに火魔法を撃ちますね」

「ああ、よろしく頼むよ……」


 その後、狩りを続けたけど、午前中のハイオークは魔石と上質肉しか落とさなかった。階段で、昼休憩をしている間にHPを確認しておこう。おにぎりを頬張りながら、ステータスを見る。


 名前  東山 智明

 年齢   21歳

 HP  148/173

 MP  74/121


 まだ、ポーションを飲まなくても良いな。あっ! MP量が上がっている。嬉しいな。


「ところで、東山君『スキル書』は何個出たんだい?」

「えっ? 哀川さん、後藤さん達が報告したんじゃ……?」


 2人を見ると、諦めたような顔をして項垂れている。う~ん、本当のことを話しますよ。


「えっと、初日に1個出て。先週2個出たので、最後の1個は僕が使いました」


 哀川さんにと言う話はしないでおこう。気まずくなりそうだし。


「東山君、そんなに出たのか!」

「哀川さん、たまたま運が良かっただけですよ」


 哀川さんは凄く驚いた顔をしている。何個出たって言ったんだろう?


 昼からは、29階で狩りをすることになった。程よい緊張感の中、ハイオークを探す。


「東山君、右手の部屋にハイオークだ!」

「はい! 魔法撃ちますね」


 僕が魔法を撃ったと同時に、哀川さんが突っ込んで行く。そして一振りで倒してしまう。明らかに、後藤さんと神田さんより格上だ。これだけ強いんだから、哀川さんも攻略に参加しているんだろうな。


「「「おおー!出た!」」」


 そんなことを考えていたから、ドロップする所を見逃してしまった。


「えっ! 出ました?」


 ハイオークが消えた部屋の中央に、お目当てのスクロールが現れていた。


「東山君は、凄いな!」

「「隊長、凄いでしょ!!」」

「いえ、僕が出している訳じゃないですよ。数をこなせば誰でも出ると思いますよ。ただ、ちょっと運が良いだけだと思います」


 哀川さんは嬉しそうに『スキル書』を拾って眺めている。みんな、嬉しそうな顔で『スキル書』を見るよね……うん、出て良かったよ。


「哀川さん、早速『挑発』を使って下さい」

「ああ。東山君、そうさせてもらうよ」


 哀川さんが、『スキル書』の中央に手をかざして集中すると、『スキル書』は反応して浮かび上がり吸い込まれるように哀川さんの手の中に消えていった。


「なんだか、力が湧いてくる感じがするな」

「隊長! 『挑発』を覚えたら、ステータスの攻撃力が上がりましたよ!」

「ええ! 後藤の言う通りです!隊長、ステータスを確認してみてください」


 ええ、なんだって! 攻撃力が上がるのか! HPとMPしか見ていなかったな。『ステータス・オープン』


名前  東山 智明

年齢   21歳

HP  134/173

MP  54/121

攻撃力  87

防御力  80

速度   79

知力   84

幸運   67

スキル

・片手剣C ・盾C ・火魔法C ・挑発


 おお! 攻撃力が5も上がっている。もしかして、火魔法を覚えた時も、どれか上がっていたのか? おや……『挑発』もスキル欄にあるよ。



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