第38話 終話・ダンジョンAの開放
昼からは、火魔法のスキルが上がったので、他の魔法をジェネラルオークに撃つようにした。そして、25階に着く頃には、ガルムを倒すのにも慣れて来て、二振りで倒せるようになった。
「神田!東山君、もう17時だ。そろそろ終わろうか」
「了解~」
「はい」
25階のワープ・クリスタルに移動してダンジョンを出た。
結局、ジェネラルオークは、あの後『帰還石』を1個落としただけで、二人とも『帰還石』は、持っているからと僕が貰った。
そして、3人で獲得したドロップ品の数が多くて……早速、アイテムバッグが良い仕事をしてくれた。オーク以外の魔石が1~3万もするので換金額が凄いことになった。なんと150万近くもあった!
「おっ、今日は良い数字になったな」
後藤さん、良い数字……? 凄い額ですよ!
「そうね。東山君、3等分しても良いかな?」
「神田さん、勿論です!」
3人で狩りをしたんだから当たり前ですよ。しかし、これは気を付けないと、金銭感覚がおかしくなる。はっ! 後藤さんも神田さんも、既におかしいのかも知れないな……箕面ダンジョンの時、いらないとか言っていたし。
「狩りも終わったし、東山君、飲みに行こうか!」
「賛成~。東山君、飲みに行こう~!」
ダンジョン終わりのビールは美味しいんだけど、明日から仕事だ。ここから寮まで2時間は掛かる。
「うっ、すみません。行きたいですが……明日仕事なので帰ります」
「そうか、それは仕方ないな。東山君、今日は一緒に手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
「いえ、こちらこそ、ボス戦とワープ取りを手伝って貰って、ありがとうございました」
今回は疲れたけど、ステータスも上がったし良い経験になったな。僕が失敗しても、二人がフォローしてくれるから安心して狩が出来たしね。
「え~、東山君、行かないの? じゃあ、今日のお礼に今度飲みに行こう! 私が奢るからね! 東山君、アドレス交換しよう!」
「ぇ、はい! 神田さん。今度、飲みに行きましょう!」
そして、僕は、神田さんのアドレスを獲得した!
寮に着いた頃に、早速、神田さんから『今日は、ありがとう。』のメールが届いたので、速攻で返信した! 『僕の方こそ、ありがとうございました。』と……その先の食事に誘う言葉なんて、僕には思い浮かばない。誰かに相談するとしたら太田さんかな?
翌日の仕事で、田中先輩が休暇中でいないのが変な感じだった。先輩がいないせいか、昼休み、及川さんの惚気話を聞かされた……先輩がいる時は話さないのにね。太田さんと顔を見合わせて、苦笑いをするしかなかったよ。
東京から帰って来た田中先輩が、何だか変だ……なおりんの、イベントに行って来たはずなのに……。
「東山~、悪い。土産を買うのを忘れた~」
「はい。先輩、又、東京に行った時にお願いします」
「ああ~、分かった。次は、買って来るな~」
それから、先輩は仕事中でも、ぼ~っと、しているかと思えば、真面目な顔をして何か考え事をしている。昼休み、みんなでコソコソ話をしているのに、先輩は気が付かない……おかしい……。
「田中さん、最近変だよね……」
「太田さんも、そう思います? 先輩、ぼ~っと、していますよね……」
「あれじゃないか、東京で可愛い子でも見つけたんじゃないか?」
「及川さん、僕もそうだと思います。きっと、田中さんは恋をしているんですよ!」
「えっ! 先輩が恋!?」
物思いにふけっていた先輩が、突然こっちを見る。
「お前達~、金曜の仕事が終わったら、俺は東京に行って来る……」
「「「!」」」
一瞬、みんなの息が止まった。
「田中さん、当たって砕けろ! だな」
「田中さん、ご武運を……」
「先輩! 骨は拾います!」
みんな、告白に行くのかと声をかけたけど、先輩は否定をしない。
「おう~! お前ら、祈っていてくれ~!」
マジか! 先輩、告白しに行くのか!
その後、みんなで、どんな女の子かと根掘り葉掘り聞いたら、照れながら先輩が答える。『ファンの懇親会で可愛い子がいた……』と、一目惚れしたそうだ。え~、先輩が照れている! ちょっと変な感じだけど、凄く新鮮だよ!
11月末の飲み会は、田中先輩が東京に行ったので、3人で飲んだ。話題はもちろん、先輩の告白がダメだった時に、どうやって励ますかだ! みんな、この前のボス戦より真剣だ……。
「その時はな、パーッとキャバクラで豪遊して慰めるのが良いんだよ!」
「及川さん! 気を紛らわすんじゃなくて、そっとしてあげるか、じっくりと話を聞いて上げるのが良いんですよ!」
及川さんと太田さんの激論に、経験値の低い僕は頷くしか出来なかった。だって、どっちが正解かなんて分からない。先輩の場合、両方な気もする……。
翌日の土曜日、寝屋川ダンジョンの21階でのんびり魔法のスキル上げをした。そして、今日は神田さんの奢りで飲みに行くことになっている!
『東山、土曜日ダンジョンに入るでしょ? この前のお礼がしたいから、その後、飲みに行かない?』
神田さんからメールが来た時はドキドキした……。
ソワソワするから、早めにダンジョンを出た。そして、着替えて掲示板を見ると、12月からダンジョンA開放の案内が掲示されていた。
えっ! これ、いつ貼り出したんだ?
開放条件を見ると、ダンジョンBで25階のワープが開通しているダイバーが対象。確認後、登録カードに表記され、制限なく(一人でも)日本中のダンジョンに入れるようになると書いている。
もしかして、後藤さんは、これを知っていて25階のワープに連れて行ってくれたのかな? どちらにしても有難いな。
ダンジョンAを開放すると、ソロで日本中のダンジョン巡りが出来るようになる。これをやるダイバーいるだろうな……時間があれば僕もやってみたい。手始めに梅田Aと難波Aからだな。うん! これは開放しておこう。
「東山君~! お待たせ~」
振り返ると、神田さんが僕を目掛けて近づいて来た。明るい茶色のダウンコートにモフモフのマフラーをしている。モデルみたいにキレイだけど、にこにこして可愛いな。
「神田さん、今日はご馳走になります!」
「ふふ。東山君、先に行って飲んでよう~。後藤は、後から来るからね~」
あっ、二人じゃないのか……。
……そうだ、神田さんに梅田と難波のダンジョンの話を聞こう!
「はい。神田さん、店に着いたらダンジョンのことで聞きたい話があります」
「えっ! 東山君、何かな~? 私で分かることなら何でも聞いてね~。ふふ」
居酒屋で、神田さんと先に乾杯をした。そして、12月にダンジョンAが開放されるので、梅田と難波ダンジョンについて教えて欲しいと言った。
「やったね! 東山君、遂にどこでも入れるようになるんだ。ふふ、私が案内するから任せて~。ゴクゴク……」
神田さん、分かってますよ。『私が案内する』と言って、後藤さんも一緒なんですよね。
「この前、神田さんと後藤さんに25階のワープまで連れて行って貰ったから、僕でもすぐに開放出来そうですよ。神田さん、ありがとうございます」
「ふふふ、良いのよ~。ゴクゴク……」
30分程で後藤さんも合流した。そして、二人のお薦めダンジョンの話で一気に賑やかになった。神田さんのお薦めは、北海道のダンジョン。ドロップ品でカニ身が出るらしい。
「東山君。俺は、沖縄のダンジョンもお薦めだな! ゴクゴク……」
「へぇ~、沖縄ですか。海の魔物が出て来るんですか? ゴクゴク……」
沖縄か~、長期の休みじゃないと行けないな。北海道もだけど。
「後藤……東山君にエロイ魔物を教えるな! ゴクゴク……」
「えっ?」
なんだって、エロイ魔物……気になるじゃないか。
「あはは! 神田~、怒るなよ。男なら誰でも一度は見てみたいぞ。まぁ、深階層だから、なかなか行けないけどな! ゴクゴク……」
後藤さんが言うには、沖縄ダンジョンの深階層にはラミアがいるそうだ。そうか、あの半身蛇のラミアなら、確かに見てみたいな。マンガや小説と同じなのかな……ゴクゴク……
「東山君、危ないから行こうなんて考えたらダメよ! 魅了されて、すぐに死んじゃうわよ……ゴクゴク……」
「はい、分かりました……」
怒られた。見てみたいと思ったけど……これ以上ラミアの話を続けると、神田さんの機嫌が悪くなりそうなので、梅田と難波ダンジョンの話に戻した。
そうか、沖縄ダンジョンにはラミアが出るのか……覚えておこう。
12月に入り、早速、ダンジョンAを開放しに行った。午前と午後の2回に分けて、ワープの確認があるらしい。
堺DWA支部の受付で申込書に記入して、ダンジョンに入って25階にワープする。そこにDWAの職員が待っていて、登録カードを確認して書類にハンコを押してもらう。受付に戻って、ハンコの確認をした後、冒険者カードに開放の表示をして貰って終わりだ。
これで、ダンジョン巡りが出来るようになった。全国のダンジョンの情報も公開されるだろうから、良さそうなドロップ品を調べておこう。
「東山~、今週末も東京に行ってくるな~」
「はい。先輩、行ってらっしゃい」
「おう!」
先輩の告白は、振られてはいないけど『田中さんのことを知らないので、お友達からでお願いします。』と、言われたそうだ。それは、振られたんじゃないのかな?それでも、先輩は諦めずに東京に通っている。
「田中さん、余り貢いだらダメですよ」
「及川~、それも俺の個性だ!」
田中先輩……及川さんの言う通りです。その個性は抑えた方が良いですよ。
及川さんは、元カノと来年の春に結婚式を挙げることになった。元カノとは言え、付き合って半年で結婚とか、早くないのかな? 及川さんは、結婚を機に工場を辞めて、地元の奈良でフリーのダイバーになるそうだ。確かに稼ぐなら、仕事を掛け持ちより、毎日ダンジョンに入る方が効率が良いしね。
「あはは! 可愛い子に貢ぐなんて、田中さんらしいですね」
「太田、そうだろう~」
太田さんは、まだ、付き合ってはいないけど、箕面ダンジョンに通う間に、受付の女の子と仲良くなったそうだ。知っているのは僕だけ。
後藤さんは、やっぱり白石支部長がお目当てのようで、寝屋川DWA支部で良く見かける。
そして、僕は神田さんに誘われて、休みが合う日に二人でダンジョンに行くようになった。
格上の魔物を倒す時、神田さんが前衛で僕が魔法で攻撃しながら倒す。息が合って良い感じで狩りが出来るんだ。今日も、梅田ダンジョンAに来ているけど、これはデートだよね? うん、この関係ものんびりと育てば良いなと思っている。
神田さんが振り返って、にっこり笑った。可愛いな……。
「東山君~、今度は一緒に北海道のダンジョンに行こう~! カニが食べたいわ」
「えっ! は、はい! 神田さん、喜んで!!」
これは! のんびりとはしていられない? 男として頑張れと言われているのか!?
あっ、ステータスは頑張ったよ。神田さんとダンジョンに入るようになって、守って貰うのが嫌だったからね。『ステータス・オープン』
名前 東山 智明
年齢 21歳
HP 373/373
MP 327/327
攻撃力 135
防御力 129
速度 128
知力 177
幸運 67
スキル
・片手剣A ・盾A ・火魔法A ・挑発 ・水魔法B
・風魔法A ・回復魔法B ・土魔法B ・身体強化B
最近、魔物によっては、剣で攻撃するより魔法で攻撃する方が、ダメージが強かったりする。のんびりしている僕でも、目標があると頑張れる。
そして、これからも……
僕は、ダンジョンに入る。
———————————————————————————
★あとがき★
のんびりと始まって、38話で完結とさせて頂きます。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。のんびりした作品に★と応援のハートを本当に感謝しています。沢山のコメントありがとうございました。
僕は、ダンジョンに入る Rapu @Rapudesu
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