第二章
第24話 8月 居酒屋
先月の買取り強化期間も、2月と同様、ポーションと毒消しの集まりが悪かったそうで、今月から薬類は1万円の買取り額のままになりました。やった――!
そして、8月のダンジョン攻略は、お盆明けに鹿児島県の鹿児島ダンジョンCを攻略することが決まりました。
攻略するダンジョンは、過去にスタンピードを起こしたダンジョンから選ばれるそうです。何度もスタンピードを繰り返すとダンジョンの規模が大きくなってしまい、更に攻略が難しくなるので、それを阻止するのが1番の目的らしく、失敗しても魔物を間引けるから問題ないとのこと。
僕が何故こんなことを知っているかと言うと、後藤さんと神田さんに誘われて駅前の居酒屋に飲みに来ているから。色んな話を聞いています。面白い!
※ ※ ※
昨日、後藤さんから『東山君、飲みに行こう~!』とメールが来ていたので、『はい、行きましょう。後藤さんの都合の良い日を教えて下さい。』と返信した。まだ、日時は決まっていない。
なのに、いつものようにダンジョンに来て、狩りを終えて受付に行くと、後藤さんと神田さんが珍しく私服で待っていた。後藤さんは、ラフな服装で紺のTシャツとチノパンだ。Tシャツの袖から筋肉が自己主張している……。
「東山君、明日休みだろ? 今から、飲みに行こう!」
「後藤さん、急ですね。今、ダンジョンから出て来た所ですよ」
「東山君、気にしなくて良いのよ。私達が勝手に待っていただけだしね~。着替えたら、行こう!」
あっ、決定なんですね。我儘な兄弟がいたらこんな感じなのかな~。まぁ、飲むのは好きだし断る理由もない。
「はい、着替えて来ますね」
ということで、駅近くの居酒屋で飲んでいます。
「東山君、この前は東山君のことを哀川隊長に言ってすまなかった。悪かったよ。今日は、俺の奢りだから飲んでくれ!」
「ホント、話してしまってごめんね~」
そうか、二人とも気にしてくれていたのか。
「あ~、いえ、ポーションや毒消しを換金に出している時点で、僕の幸運値が良いのは、受付の人も知っているでしょうしね。換金の履歴とか見れば分かることですから、もう良いですよ」
あの後、他のJDAの人から言われることもない。それに、他にも幸運60ある人がいると分かったし、僕はその人より少し良いだけ。折角の飲み会なので、その話は終わりにして貰った。
「じゃあ、「「乾杯~! ゴクゴク……」」」
後藤さんが、恵比寿ダンジョン攻略の時の話や、僕の知らないダンジョンの話を色々と話してくれて凄く楽しい。楽しいですが、神田さん……その合間に誘うのは止めて欲しい……。
「ねえ~。東山君、堺ダンジョンBに行ってみない?」
またか……。
神田さんの服装は、半袖の白いカットソーと明るい茶色のワイドパンツ。ラフな服装だけど、姿勢が良くてスタイルも良いからモデルみたいだ。顔も綺麗だしね。
「神田さん、僕は一般ダイバーだから、ダンジョンCまでしか入れないんですよ」
枝豆を齧りながら答える。
「神田~、東山君は、まだダンジョンBには入れないんだ。まぁ、東山君に、あの景色を見せたいけどね。東山君、堺には草原エリアがあるんだよ。ゴクゴク……」
「そうよ~、初めて見た時は感動したわ~。お姉さ~ん! 生ビールおかわり!」
「おっ、俺も! 2つよろしく!」
えっ! ダンジョンの中に草原エリアがあるんだ……寝屋川ダンジョンは迷路タイプだった。ダンジョンBは中の構造が違うのか。
「へえ~。それって、一面が草原って言うやつですか? ダンジョンAもそうですか?」
「ああ、ダンジョンによって違うが、森や沼地のエリアもあるんだ。それに、5階毎にワープもあるから移動も楽だしね」
それって、出て来る魔物が強いってことじゃないのか? それとも、1フロアが広いのか?
「そっか~、一般ダイバーはダンジョンCまでしか入れないのね。残念~。早く開放すればいいのにね~。東山君、ビールのおかわりは?」
「まだ、大丈夫です。それより神田さん、一般ダイバーをダンジョンに誘ったら又、哀川さんに怒られますよ?」
神田さんと後藤さんが、顔を見合わせて笑う。おかわりの生ビールを飲みながら、
「ハハ、それは大丈夫だ。無理やりはダメだが、休みに、一般ダイバーの友人や知り合いとダンジョンに入るのはOKになったよ。ゴクゴク……」
「ふふふ、そうなのよ~。哀川隊長か、そのエリアの隊長に先に言っておけば良いのよ。ゴクゴク……」
知り合いなら誘ってもokなのか、隊長に許可を取るなら無茶な場所には連れて行かないか……。
「でも、ダンジョンBは怒られるでしょう? まだ、一般には開放されていないですよ?」
「じゃあ、東山君~。私が哀川隊長に了解を貰うから、一緒に堺ダンジョンに行ってくれる~?」
神田さんが詰め寄って来る。う~ん、返事を間違えたら連れて行かれる。何て返そうか……ハッキリと断らないと。
「神田さん、ダンジョンBには行かないですよ。すみませんが、僕には無理です。箕面Cすらまだ行ったことないんですから」
「そう~、箕面ダンジョンもまだなのね。東山君が一緒ならボス戦が出来るのに、残念ね~。ゴクゴク……」
「そうか! クリアーしていない東山君と一緒だと、ボス戦が出来るのか……」
えっ!? ボス戦だって?
「ええ! 後藤さん、堺ダンジョンBにはボス戦があるんですか?」
「ああ。ダンジョンAとBには、10階毎にボス戦があるんだ。ボスを倒さないと次の階には進めないから、初めはパーティーを組んでいないと進みづらいんだよ」
だから、一般にはダンジョンCまでしか開放しないのか? それとも、今後パーティーを組むことを条件に開放するのかな?
「そうなのよ~。東山君が一緒だったら、宝箱から良い物が出そうなんだけどな~。ステータスの攻撃力を上げる『赤い実』とかが出るのよ~。ゴクゴク……」
えっ、宝箱! へえ~、ステータスを上げる実があるのか。
ステータスを上げる実は4種類で、攻撃の『赤い実』と防御の『緑の実』、速度の『青い実』と幸運の『黄色い実』があるそうだ。
「東山君、他にもアイテムバックとか攻撃力アップのアクセサリーも出るんだぞ!」
「えっ! アイテムバッグが出るんですか!」
「アイテムバッグは、割と出ているわよ~」
アイテムバッグ! それは欲しいな! 宝箱、すっごく興味があるんですけど……うぅ、誘惑に負けそうだ。
「ははは。そんなことを言って、本当は別の目的があったりして……」
「ふふふ。さすが東山君!その通りよ~。ゴクゴク……」
冗談で言ったのに、神田さん、他の目的があったのか!
「ハハハ! 神田は、今度は一緒にジェネラルオークを狩りたいんだよ」
「そうなのよ~、ハイオークより少しだけ強いのよ~。ふふ。ゴクゴク……」
……それって、中ボスの魔物じゃないのか? ん? 神田さん顔が少し赤いけど、酔っぱらっている?
「えっ? 堺ダンジョンBには、そんな強そうなのがウロウロしているんですか? やっぱり、僕にはまだ早いですね」
神田さんが、またビールをおかわりしている。3つ来た……僕の分も頼んでくれたのか。残っているビールを飲み切らないと、ゴクゴク……
「東山君、ジェネラルオークは『スキル書』の『身体強化』をドロップするんだ。これなら、ソロの東山君にも使えるスキルだと思うよ。ちなみに、俺は持っている!」
おお、それは確かに魅力的なスキルだな。
「後藤、良いな~。もし、東山君が一緒に行ってくれるなら、東山君が先に覚えれば良いし、他のドロップ品もバイト代として全部貰ってくれれば良いよ~。まぁ、気が向いたらいつでも声を掛けてね。ふふ。ゴクゴク……」
全部って……僕も覚えるなら、ちゃんと分けましょうよ。
「はい、その時はよろしくお願いします」
「ふふ。東山君~、その時は私が守るからね~!」
神田さん、酔っぱらった顔で甘えないで下さい……仕方ないな~、行くならダンジョンBが一般開放されてからだな。決して、僕がキレイなお姉さんに弱いんじゃない! 宝箱に興味があるんだよ。
「おい、神田~、飲み過ぎだ。その辺でやめとけ」
「後藤うるさ~い。ジェネラルオークは、東山君が育つまでソロで頑張るわ~。ゴクゴク……」
神田さん、飲みすぎですよ……。
その後も、2人から聞いた他のダンジョンの話は面白かった。そして、飲み代は、後藤さんに奢ってもらった。
「東山君、又、飲みに行こう!」
「はい、今日は楽しかったです! 後藤さん、ご馳走様でした。2人とも、鹿児島攻略、気を付けて下さいね」
「ふふふ。東山君、またね~」
と言って後藤さん達とは駅前で別れた。他のダンジョンも面白そうだな。そうだ! お盆休みの連休は、箕面ダンジョンCに行ってみよう。去年は実家に帰ったけど、今年は特に予定はないからな。
親父からメールは来ていたがスルーしている。親父の選んだことを否定している訳じゃない。もう、怒ってもいない。本当に話すことがないんだよ。
もし、母さんが戻ってきたら……僕が部屋を借りればいい。親父は、選んだ道を進んで幸せになれば良いだけの話。ああ、そうメールを送っておこう。
————————————————————————
※あとがき※
拙い作品をこんなにも多くの方に読んで貰えるとは思ってもおらず……驚いています。★や応援のハートを沢山いただき、本当にありがとうございます。
更新済のエピソードで、気になった箇所を手直ししています。今後も手直しすると思いますが、内容は大きく変わりません。のんびりとゆるいままですが、ご容赦ください。
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