第19話 スキル書
休憩中、後藤さんに指示された。
「東山君、26階からカエルは出て来なくなる。そして、ハイオークが徐々に出て来るから、カエルの時みたいに魔法を撃ってくれ」
「はい、分かりました」
いよいよ、ハイオークが出て来るのか。
「それと東山君、手長猿は石を投げて来るから気をつけてね。痛いよ」
「はい……神田さん、気を付けます……」
うわ~、投石してくるのか。神田さんがわざわざ痛いと付け加えるってことは、当たるとHPガッツリ減りそうだな。気を付けないと……。
26階のフロアーを進む。ポイズンスパイダーやポイズンスネイクは、大型犬ほどの大きさがある。手長猿は、顔はマントヒヒっぽくてゴリラぐらいの大きさ。茶色い毛並みで手が長い細マッチョ……キモイな。手長猿が出て来た時は、注意して石を避ける。
このフロアーはランクCかC+の魔物なのに、2人は一振りか二振りで倒してしまう。流石、JDAのトップ10ダイバーだ。
そして、目の前に27階への階段が見えた時、右手から大型の魔物が出て来た。後藤さんが嬉しそうな声で言う。
「東山君、出たぞ!」
「東山君、ハイオークよ。初めに魔法をよろしくね!」
神田さんまで嬉しそうに言う。まぁ、二人のお目当ての魔物だしね。
あれが、ハイオークか……普通のオークより筋肉ムキムキで、持っている武器が槍だった。僕は、後藤さんの横に並び出て、ハイオークの顔をめがけて火魔法を撃った。撃ったと同時に2人が突っ込んで行く。後藤さんが先に袈裟斬りし、続いて神田さんが胴体を斬った。
凄いよ! ハイオークはあっさりと倒された。そして、ハイオークが消えた後に魔石が転がった。
「そう簡単には出ないか……」
「後藤、当たり前でしょ。1体目で魔石が出ただけでも十分だわ」
う~ん、簡単にでるなら後藤さんがもう出していると思いますよ。
26階では1体しか出て来なかったハイオークが、27階のフロアーでは2体出た。持っていた武器が、槍じゃなくて片手剣と斧だったのに驚いた。オークの武器は斧だけだったけど、ハイオークの武器は色々違うようだ…。そして、ドロップ品は肉の塊が1個出た。
「おおお~! 上質肉が出た!」
「うわ~! 東山君の幸運は、本物なのね!」
「えっ、上質肉! 美味しいですか?」
非常に興味を引くドロップ品が出た! 上質肉もレアアイテムだったよな。是非とも味見をしなくては!
「ああ、旨いぞ~!」
「後藤さん! 肉は三等分して下さいね」
無理やり連れて来られたんだから、これぐらいは許して欲しい。
「ああ勿論だ。『スキル書』が出たら、俺の分を渡すよ!」
「ええー! 後藤さん、良いんですか?」
「ふふふ。東山君、出たらの話なのに。『スキル書』が2つ出たら私の分も渡すわよ」
「えっ、神田さんも? 良いんですか?」
「ええ。東山君、ドロップよろしくね。ふふふ」
僕が出す訳じゃないが、俄然やる気になって来た! ハイオークを10体も倒せば、レアアイテムの1~2個は出るはずだ。
低階層で肉と毛皮が同時に出ることもあるから、出るアイテムの種類それぞれにドロップ率があると思う。だから、レアアイテムもそうだと思うんだ。2種類のレアアイテムを落とす魔物は、ハイオークが初めてだから絶対とは言えないけど……。
28階へ向かう階段で早めのお昼にした。おにぎりを食べながら、HPの確認をしておく。
HP 152/173
MP 70/115
う~ん、HP-21か……まだ余裕あるけど、ポーション飲んでおこうか。
「後藤さん。僕、ポーションを飲んでおきますね」
「ああ」
「東山君、MPは大丈夫? まだ魔法を撃てるかしら?」
「はい、まだ撃てますよ」
マズイポーションを飲み終えて、28階へ降りて行く。このフロアーでもハイオークは2体出た。1体目は何も出さなかったが、2体目を倒した時、ダンジョンの床に1枚のスクロール(巻物)が落ちた。
「うおおお!!! 出たか!」
「えええ! うそ! 『スキル書』なの!?」
「やっぱり、『幸運の東山君』だ! 凄いな!」
「出ました? それが『スキル書』ですか?」
二人は凄く興奮している。ハイオークが落とした『スキル書』は、ゴブリンが落とした魔法のスクロールみたいだった。あれは、『スキル書』って言うのか。確かに、覚えた火魔法はステータスのスキルの所に記されたな。
後藤さんは『スキル書』を拾ってご機嫌だ。満面の笑顔で神田さんと2人、まじまじと『スキル書』を見ている。『スキル書』は、黒い文字?記号?で魔法陣のような模様が描かれている。その中心にも何か模様が描かれていた。
「それは何の『スキル書』ですか?」
「ああ、これは『挑発』の『スキル書』だ! 東山君、ありがとう!!」
「後藤さんが欲しかった物ですか?」
「そうよ、私が欲しい物でもあるのよ。これ、なかなか出ないのよ。JDAでも『挑発』スキルを持っている人は数人しかいないの」
神田さんが、羨ましそうに見ている。あぁ、攻略部隊だから、わざわざみんなで取りに来ないのかもな。出ても誰が使うかでもめそうだし……個人で取りに行くしかないのか。
「東山君! 早速、使わせてもらうよ!」
「はい、どうそ」
後藤さんは、『スキル書』に手をかざして集中する……すると、『スキル書』が反応して浮かび上がり、吸い込まれるように手の中に消えた。
「おお~! 東山君、力がみなぎって来るよ!」
「後藤、いいな~。私も欲しい!」
ちなみに『挑発』の『スキル書』って、換金したらいくらになるんだろう。二人に聞いてみたけど、
「「換金に出されたことないから、知らない」」
と、言われた。もしかして……ネットで売っているのか? オークションサイトで高額で売れている気がする。
その後、『挑発』を覚えた後藤さんが、調子に乗ってポイズンスネイクから毒を受けた。一太刀で倒せるのに、わざとポイズンスネイクに『挑発』したからだ。
「後藤~、調子に乗り過ぎ! ポイズンスネイクに『挑発』する必要ないでしょ」
「すまない……使って見たかったんだ」
後藤さんは青い顔をして、さっき渡した毒消しを一気に飲んだ。
「後藤、東山君が出した毒消しを無駄遣いしないでよ!」
「東山君、すまないな……」
「いえ……」
29階へ向かう階段で、後藤さんは神田さんにしばらく怒られていた。その間に、僕はHPを確認する。
HP 157/173
MP 60/115
手長猿が投げた石の欠片が当たったせいか、HPが少し減っている。これでポーションを飲むのは勿体ないな~。持って来たスポーツドリンクだけ一口飲む。
後藤さんの受けた毒が消えて、体調が良くなって来たようだ。
「東山君、待たせたな。さあ、29階のフロアーに行こうか!」
「はい」
「後藤、もう調子に乗らないでね」
「神田~、悪かったって言っただろう」
3人で29階のフロアーを30階に向かって進んで行くと、明らかに出て来る魔物の数が増えた。二人が強いので、全く問題ないんだけどね。ただ、この階でもハイオークは2体しか出て来なかった。そして、落としたのは魔石1個だった。
「先に東山君のワープを取ってから、30階でハイオークを探すぞ。東山君いいかな?」
「そうね、まだ時間が早いものね。東山君、17時頃までいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
30階のワープを取る為に最短キョリを進んで来たので、ワープ・クリスタルに14時過ぎに着いた。まさか、こんなに早く30階に到着するとは思わなかったよ。確認の為に一旦、1階にワープしてから30階に戻って狩りを続けた。
「全部で上質肉が2個出たから、神田と東山君で1個ずつだな」
「後藤さん、帰って食べるのが楽しみですよ!」
「東山君、来週もハイオーク狩りを手伝ってくれないかな~? 後藤は強制ね!」
神田さんの『スキル書』が出るまで連れて来られるだろうな。
「おう! 神田には手伝ってもらったからな」
「いいですよ。後藤さん、毒消しの予備ありますか?」
「ああ、東山君から、譲ってもらったのがまだあるよ」
17時を過ぎたので、ワープ・クリスタルへ向かった。
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