第7話 12月 第1週~

 12月の第一金曜から3日間、大阪DWA本部で第二回のダイバーの初心者講習が始まった。それに、及川さんも参加する。今回の企業枠には、残念ながらうちの工場はハズレたようで、申し込んでいた太田さんが更に落ち込んでいた。


「東山~、何を持って行けばいいんだ?」

「えっ? 及川さん、通知の書類に書いてなかったですか?」


 お昼を食べながら、及川さんが聞いてくる。


「書いてあったが、筆記用具と写真付き身分証って少なくないか?」

「及川さん、それで大丈夫ですよ。僕もそれだけしか持って行かなかったですよ」

「及川さん、僕もついて行ったらダメですかね~?」

「太田、それはダメだろう~」


 田中先輩が、太田さんを窘める。及川さんだと、『付いて来ていいぞ』って、言いそうだよな~。


「うぅ。及川さん、講習頑張ってください!」

「おお! 太田の分まで頑張ってくるぞ!」


 及川さんは、有休を使って金曜日から講習に参加した。ダンジョンの現地実習は3日目の日曜日になるから、土曜日はいつも通りダンジョンに入れるな。



 土曜日、朝8時にダンジョンに入り、ワープで一気に10階に飛ぶ。凄いな~! 5~6時間かかるキョリが1分とかからない。そして、夕方の5時まで黙々と狩りをした。もちろん、魔法も使い切った。ステータスが、1つでも上がると思うと頑張ってしまう。


 流石に、9時間も狩りをすると疲れるな~。次からは、8時間までにしよう。しかし、換金額が41,800円。ポーションなしでこんなに稼げるとは! 魔石の買取り単価が500円と倍になったからだな。今夜も中華で豪華バージョンにしよう!



 週明け、朝一番の工場で、及川さんが目をキラキラさせて興奮していた。あぁ、僕もこんな顔をしていたのか~。


「おい! 及川、機嫌イイな~。この前の東山みたいだな。ぷぷ」

「田中さん、笑わないで聞いてくださいよ初心者講習の話!」


 及川さんが嬉しそうに田中先輩に絡む。


「及川さん! 僕、聞きたいです! 今後の為にも、聞きたいです!」

「あー、お前ら昼にしろよ~。仕事に差し支えるぞ~!」


 田中先輩のあしらい方は上手いな。教育係なのも頷ける。


 お昼は、及川さんのワンマンショーだった。座学のことはほとんど話さず、ダンジョンでの実践の話を熱く語っていた。ただ、実習の講師は、哀川さんではなかったようだ。


「東山~! お前いつダンジョンに入っているんだ?」

「僕は、最近土曜日に入っています。翌日ゆっくり休める方が楽なので」

「なるほど。東山は週一で入っているのか、俺も取りあえず土曜に入ってみるよ」


 及川さんは、早くダンジョンに入りたいんだろうな。目がキラキラしている。


「おい、お前ら。今月の恒例の飲み会は、第3金曜日にするぞ! 年末だからな」


 ああ、もう年末なのか……帰っても親父の顔を見るだけだしな。31日に帰って、元旦か2日に戻ってくるか。


「あ~、もう年末かぁ。ダンジョンのことで頭がいっぱいで、実家に連絡するのを忘れていたな……」

「及川さんは、奈良でしたよね。近いから、電車ですぐに帰れるじゃないですか。僕は大分だから、飛行機のチケットを予約しましたよ」


 飛行機で帰るのは面倒だよな~、僕なら帰らないかも。お盆と正月に必ず帰省する太田さんは偉いな。


「太田は帰ったら温泉三昧だな。良いな~。奈良には有名な温泉がないからな」

「太田さん、実家に帰ったら温泉に入るんですか? 大分には、温泉が色々あって良いですよね~」

「うん。近くの温泉に行くよ」


 温泉かぁ~、話だけで癒されそうだ。


「俺と東山は、大阪だから移動は楽だよな」

「はい、そうですね」


 そう、先輩と僕は大阪だから移動は楽だけど……。


◇◇

 そして週末の土曜日、いつもの通りダンジョンに行きワープで10階に飛んだ。今日は、何人か10階で狩りをしている人がいたので、9階に降りて狩りをした。前回の9時間狩りは疲れたので、今日は8時間でダンジョンを出た。換金額は35,400円だった。ポーション売りが無くても段々と稼げるようになって来た。


 今日も頑張り過ぎだけど楽しい。週一だから息抜きになっているのか?


 今回のダンジョンでようやく攻撃力が60になった! これで、ダンジョンCの開放条件を達成できた。目標達成できたので、今夜も豪華バージョンを食べるぞ!


名前  東山 智明

年齢   20歳

HP   86/109

MP   1/22 

攻撃力  60

防御力  58

速度   66

知力   67

幸運   67

スキル

・片手剣D ・盾D ・火魔法F



 月曜日、昼休みに及川さんが絡んでくる。


「東山~、週末にダンジョンに入ったが、魔物の数が少なくて稼げなかった」

「及川さん、僕、初めは赤字だと言ったじゃないですか~。何階で狩りをしたんですか?」

「土曜は1~2階で、日曜が2~3階だ。人が多かったからな……」

「ええっ! 2日とも入ったんですか?」


 及川さんは、気合が入っているな~。初心者エリアを卒業して良かった。直ぐに追いつかれそうだけど。



 そして、第3金曜日に変更になった恒例の飲み会だ。今回は忘年会も兼ねている。


「東山は、いつ実家に帰るんだ?」

「僕は、12月31日に帰って2日に戻って来ようと思っています。田中先輩は?」

「もっとゆっくりして来いよ~。俺も31日に帰って3日に戻って来るつもりだ」


 余り変わらないと思うけど……ちなみに、職場は12/28~1/4まで正月休みだ。及川さんも太田さんも1月3日には戻って来るそうだ。




 翌日の第3土曜日、今日は11階で狩りをするつもりだ。攻撃力が60になったので、先に進んでも大丈夫な気がするが、コツコツ上げて行こう。


 DWAの支部で調べたが、出て来る魔物はコボルト・狼・スネイク・キラービーだ。魔法が4回使えるから、キラービーが出て来たら火魔法を撃ってみようか。


 10階にワープして、11階に向かう。1時間程で11階に降りると、羽音が聞こえて来た。でっかいハチだ……サッカーボールぐらいある。火魔法を撃ったが倒せず、向かって来た所を剣で斬った。レアアイテムで蜂蜜(1,000円)をドロップするらしい。スネイクも大きい……1m以上あるよ。まぁ、大きい方が空振りしなくていいけど、ダンジョンで出て来る魔物はこっちの蜂や蛇とはサイズが違い過ぎるな。


 狩りを終えて、DWAの受付で換金して貰う。今回、キラービーからレアの蜂蜜を2個手に入れたが、初めてのアイテムなので換金してもらった。


「まあ! 東山様、蜂蜜が出たんですか! この蜂蜜、凄い人気で予約待ちなんですよ!」

「そうなんですか? 1個は、味見に持って帰りますので売るのは1個でお願いします」

「かしこまりました」


 換金額は、いつも通りに登録カードに入れてもらった。28,800円今日は、久しぶりにチキンのセットでも買って帰ろうかな。蜂蜜も味見したいしな。


 年末は27日が仕事納めで、28日から30日までダンジョンに入ったが、もう第2期のメンバーが数人追い越して行った。そんなに急いで進まなくてもと思うけどな。


 3日間で9万近く稼げた。一瞬、転職を考えたけど、50歳を過ぎたらダンジョン入るのは厳しそうだしな……ケガした時の保険もないしね。とりあえず、今のままでいいか。


 蜂蜜は合計6個出たので土産用に持って帰ることにした。前回の蜂蜜が美味しかったから。そして、火魔法のスキルがDに上がったお祝いに、中華で豪華バージョンを食べて帰ろう。



名前  東山 智明

年齢   20歳

HP   96/116

MP   2/29 


スキル

・片手剣D ・盾D ・火魔法D







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