僕は、ダンジョンに入る

Rapu

第一章

第1話 ダイバー募集

 世界中にダンジョンが出現して2年になる。


 日本では、東京と大阪にダンジョンが出現した。その後、日本全国に次々とダンジョンが現れ、今では各都道府県に2つ以上はある。


 国は専属の機関、ダンジョン省を立ち上げダンジョンの管理・調査をしていたが、ダンジョンの魔物が増え過ぎると外に出て来るようになった。いわゆる、スタンピードだ。ダンジョン省所属のJDA(自衛隊)とDP(警察)だけでは、ダンジョンの魔物を討伐するのが追い付かなくなり、国は一般人への開放を考慮し始めた。


 現に、日本のあちこちで、ダンジョンから魔物が溢れてパニックになる事件が起きている。要は、ダンジョンが増えすぎて自衛隊と警察だけでは足りなくなった。


 世界では既に、一般人にダンジョンを開放している。遅ればせながら、日本も登録制で一般人にダンジョンを開放することになった。



 ※    ※    ※



 僕は、18才で実家を出て会社の独身寮に入った。その後、母さんが行方不明になり、もうすぐ1年だ……


 去年、親父から母さんが居なくなったと連絡があり、慌てて実家に帰ったらテーブルの上に母さんのスマホが置いてあった……。


 駅前のバス停でダンジョンが出現し、母さんが乗っていたバスが半分穴に落ちて、乗客も数人落ちる事故があった。落ちた乗客は助けられたが、その中に母さんはいなかった。だが、穴の側に母さんのスマホが落ちていたそうだ。母さんが落ちるのを見た人もいる。何故か、母さんだけが消えてしまった。


 その後、駅前に出来たダンジョンは、中を調査されたが何もなく、ただの空洞で異常なしと判断されて埋められた。今では、元通りになっている。


 消えた母さんの手掛かりは何もない。遺体もなく、残されたのはスマホだけ……母さんが死んだという実感もなく、ただ何処かで生きていて欲しいと願っている。毎月、必ず実家に帰っていたが、母さんのいない家には、だんだん足が向かなくなった……。




 【第一回ダイバー募集・各都道府県在住者30名

 ・登録資格①犯罪歴のない18歳以上の健康な男女。②初心者講習を受ける。

 ・申し込み期間:20XX.4.20.~ 5.20.

 ・書類選考の上、6月下旬に初心者講習の日時をお知らせします。 

 主催:ダンジョン省・DEA・DWA】


 TVで、ダンジョンに潜るダイバー募集のニュースが流れていた。


「ダイバー募集か、自衛手段として魔物を倒すノウハウを教えて貰えるならアリかもな。いつ、魔物が溢れてくるか分からないし……」


 最寄り駅の数駅先にダンジョンがあるしな。一回目の30人の枠には難しいだろうけど、二回目の募集に考慮されるかも知れない。応募しておこうか。




 7月上旬、僕は、初心者講習を受けに大阪のDWA(ダンジョン省西エリア)本部に来た。そう、何故か書類選考が通った。だから、有給を使って参加したが、他の参加者を見ると体格の良い人が多い。何故、中肉中背の僕が通ったんだろう。


 金・土・日の3日間行われる初心者講習の最終日は、ダンジョン省所属のJDA(自衛隊)による、ダンジョンでの実践だった。集合場所は、寝屋川ダンジョン前。


 各ダンジョンの側には、ダンジョン省管轄(DWA・DEA)の支部がある。ダイバー登録をしていれば、1日1,000円で初心者用の武器と防具、リュックまでレンタルしてくれるそうだ。シャワー室やロッカールームまであり、至れり尽くせりだ。勿論、有料だけどね。


 寝屋川のDWAで、初心者用レンタル装備に着替えてダンジョン前で待つ。ガタイの良いダンジョン省所属のJDA(自衛隊員)が講師のようだ。


「JDA所属の哀川です。今日は、ダイバーを希望する皆さんに、ダンジョンでの魔物狩りを実体験してもらいます。この寝屋川ダンジョンは、Dランクのダンジョンに指定されており、1~5階が初心者向きのエリアになります」


 30人のダイバー希望者を5人ずつ、6つのグループに分かれて、それぞれにJDA隊員が2人ずつ付いた。


 本部での講習で魔物の狩り方は習ったが、実戦となると緊張する。ダンジョンに入ると、空気がヒンヤリしていて迷路のような作りになっていた。


「東山さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「そうですよ。ダンジョンの1階~5階までは、弱い魔物ばかりですから。力を抜く位でいいと思いますよ」


 2人のJDA隊員は軽く言うが、魔物とは言え『殺す』のだから緊張するよ……。


「ハハ。そうですか、分かりました」


 出て来る魔物は、スライム・ウサギ・ゴブリンのランクEの魔物だった。午前中は、グループでそれらの魔物を狩り、お昼を挟んで午後からは各個人で魔物を狩ることになった。


 ウサギを倒すのは可哀そうだなと思っていたけど、いざ出くわすと襲ってくる表情が尋常ではないから、すんなりと剣を振り下ろせた。スライムはこちらから刺激しないと襲ってこないし、ゴブリンは背が低めで顔は怖いけど強くはない。


 3時の休憩の後、JDAの哀川さんが初心者講習者を集めた。


「みなさん、お疲れ様でした。最後に登録カードを渡して、初心者講習はこれで終わりになります」


 やっと、終わった……


「カードを渡す前に、みなさんのステータスを確認してもらいます」


 うん? ステータス? みんな、ザワザワしだした……


「フフ。実はダンジョンの中で、ゲームの様に自分のステータスを見ることが出来るんですよ。『ステータス・オープン』と言ってみて下さい」


「「「「ステータス・オープン」」」」


 みんな、一斉にステータスを見始める。


「「「「おお!」」」」


「この画面は、自分にしか見えません。見せようと意識したら、見せることも出来ますが、おススメしません。最後に質問を受け付けます」


 一緒のグループだった人が手を上げた。


「質問です! 今後、このステータスを見せろと、言われることはあるんですか?」


「そうですね~。あなた方は今現在、大阪の寝屋川ダンジョンDにしか入れません。今後、格上ダンジョンに入る資格を取る時に、ステータス値を見る形になると思います。経験を積めばステータス値は上がって行きますが、無理せずにゆっくり狩をすることをお勧めします」


 なるほどね。格上ダンジョンを目指さなければ、ステータスなんて気にしなくていいのか。それは、良いな。


「次そこの人、質問をどうぞ」


「はい。このステータスの数字ですが、自分がどの程度なのかが分からないのですが……」


「ああ、そうですね。私達が持つステータスのデーターは、訓練している自衛隊の数値なので、公表は出来ないのです。今後、色々なデーターが分かり次第、DWAのホームページ・各DWA支部に情報を公開していきますので、そちらを見て下さい」


 登録カードを貰い、ダンジョンを出る前にステータスを見てみた。


「ステータス・オープン」


 名前 東山 智明

 年齢   20歳

 HP/MP  52/5

 攻撃力  45

 防御力  43

 速度   36

 知力   59

 幸運   67


 これは、良いのか悪いのかも分からないな……













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