第2話 ダンジョンへ

 初心者講習も終わり、普段の生活に戻った。ダイバーの登録をしたことは、誰にも言っていない。イジられるのはごめんだからね。


 ダンジョンは、その規模や魔物の強さによって4つのランクに分けられている。大阪には5つのダンジョンがある。梅田A・難波A・堺B・箕面C・寝屋川D、ダンジョンの規模が小さいのはDになる。だから、一般に開放しているのは、どこの都道府県もランクDのダンジョンだけ。せっかく講習を受けたので、週末には寝屋川ダンジョンに行くつもりだ。


 土曜日は独身寮でゆっくりして、日曜日に寝屋川DWAに来た。登録カードを提示して、1,000円のレンタル装備を借りる。安くて助かる、まぁ武器なんて持ったまま電車とか乗れないよな。


「東山様、ダンジョンを出られたら必ずこちらに立ち寄ってくださいね。登録カードをチェックしますので。それと、ドロップ品の鑑定と買取りも行います」

「はい、分かりました」

「それから、こちらが1階~5階までの地図になります。お持ちください。地図の再発行は、有料になりますのでお気を付けください」

「はい、ありがとうございます」


 地図があるのは助かるよな~。ロッカーで初心者装備に着替える。片手剣を腰に下げて、ちょっと大きな鍋蓋の腕輪のような盾を持って、ダンジョンに向かう。ダンジョンの入口では、DP(ダンジョン省所属の警察官)が登録カードをチェックする。支店の受付とダンジョンの入口、2か所でチェックしている。キッチリしているよな……


 1階で、スライム・ゴブリン・ウサギを狩る。2~3匹倒すと、魔石と呼ばれるビー玉みたいな石が出る。ウサギは肉と毛皮も出るけど、どれも買取り価格は安い。


 魔石が200円・ウサギ肉300円・ウサギの毛皮300円『塵も積もれば山となる』の世界だよ……せめて、ここまでの電車代とレンタル代は稼がないとな~。目指せ2,000円だな。


 初心者講習で一緒だった人が何人か来ているようだけど、顔や名前を覚えている訳でもなく、ダンジョンの中で出くわすと軽く頭を下げるだけ。



「東山様、お待たせしました。ドロップアイテムの換金額は、こちらになります。確認してください」


 【・魔石10個×200円=2,000円・ウサギ肉2個×300円=600円・ウサギの毛皮1枚×300円・ポーション2本×5,000円】


 へえ~、ポーションは良い値段で買い取ってくれるんだ。って、ことは出回っていないんだな。


「ポーションは売らないで持っておきます。それ以外は売ります」

「かしこまりました。現金にされますか? それとも登録カードに入金しますか?」


 この登録カードは良く出来ていて、身分証にもなるし、カードにチャージ出来てお財布代わりにもなる。


「登録カードに入金して下さい」


 今日の成果は、2,900円とポーション2個。初めてにしたら黒字だし十分だな。次にダンジョンに来る時は、このカードで支払いをしよう。ダンジョンの経費は、ダンジョンで稼いだお金で支払い出来ればいいな。


 週明け、黙々と仕事をこなし、休みの土曜日は買い物に行った。ポーションを入れて持ち歩けるショルダータイプのバッグを探しに行った。レンタルのリュックに毎回入れ替えるのが面倒だからな。


 バッグの専門店に行って、あれこれ見たが、使ってみないと使い勝手が分からないからな。取りあえず、ポーションと昼飯が入りそうな大きさのバッグを選んで買った。約1万円、先行投資だな……明日、ポーション2個取って売ればいい。


 翌日の日曜日、寝屋川ダンジョンDに向かった。電車代、コンビニのおにぎり代やお茶代は登録カードで支払う。装備のレンタル代金を払うと、登録カードの残金がもうない……まぁ、今日頑張るさ。


 着替えて、ダンジョンに向かう。ダンジョンに入ると、まず前回の狩りでステータス値が上がったのか確認する。小声で、


「ステータス・オープン」


 名前 東山 智明

 年齢   20歳

 HP/MP  53/7

 攻撃力  46

 防御力  44

 速度   37

 知力   59

 幸運   67

 スキル

 ・片手剣F ・盾F


 おお! 少し上がっているし、スキルが現れた! 本当にゲームみたいだな~。自分を育てるゲームか。これは楽しそうだ。


 今日も1階で狩りをする。無茶はしない、自分が強くないことは子どもの頃から知っているからな。安全第一だよ。地図があるから迷うこともないし、ゆっくり頑張ろう。


 今日も何人かのダイバーと出くわした。軽く頭を下げて、黙々と魔物を探して倒す。もちろん、ポーション狙いでスライム優先だ。1万円の赤字だからな。


 1時間に、3~4体しか魔物に出くわさない。だいぶ慣れて来たので、2階に移動しようか悩むところだ……。


 結局、ヘタレな僕は1階でコツコツ狩りをした。9時~15時までの6時間で倒した魔物は23体。そして、魔石が15個×200=3,000円、ウサギ肉300円×4個=1,200円、ウサギ皮300円×4枚=1,200円、そして、ポーション5,000円×2=1万円! 売る!


 DWA支部に戻って、ドロップアイテムを全て売ると言い、登録カードへの入金を希望した。


「東山様~、お待たせしました。ポーションが2個も出たなんて凄いですね。こちらが、アイテムの換金額になります。確認とサインをお願いします」


 15,400円、日当にしたら良い値段だな。晩飯もここから出そう。ポーションって、やっぱり出回らないんだな。みんな、出たら手元に持っておくよな~。


◇◇

 週明け、社員食堂で昼飯を食べていると独身寮の先輩が絡んで来た。いつも一緒に昼飯を食べているメンバーの一人だ。


「東山~、最近良いことでもあったか~?」

「ええ? 田中先輩ないですよ」


 僕より8つ年上の教育係の先輩だ。背は低めでポッチャリしている。そして、アイドル好きの世話好きだ。


「そうか~? 彼女でも出来たのかと思ったぞ! 最近のお前、機嫌が良いからな~」

「ああ、面白いゲームを見つけたんですよ」

「お前、ゲームとかじゃなくて……外に出て出会いを求めろよ! 彼女を作れよ~!若いんだから……そして、その友達を俺に紹介しろ~!」

「田中先輩。無理言わないでくださいよ……」


 良い人なんだけどな。無茶なことを言わなければ……。





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