第3話 7月の終わり 2階へ
毎月恒例の飲み会に行った。月末の金曜日に駅前の居酒屋に集合だ。メンバーは、田中先輩と6つ年上の及川さん、背が高くて細マッチョの元高校球児。そして、同期だが大卒の太田さん、眼鏡を掛けていて温厚な人柄。そして僕。みんな、独身寮に住んでいる気心の知れたメンバーだ。
乾杯後、田中先輩が僕の機嫌が良いと言い出すので根掘り葉掘り聞かれて、最後はいつもの通り上司の愚痴で終わる。田中先輩と及川さんが2次会のキャバクラに誘うが、太田さんと僕は毎回参加しないで寮に戻る。女性は好きだけど、僕にキャバクラは敷居が高い……。
土曜日はゆっくりして、日曜日にダンジョンに来た。DWAの支部で登録カードをチェックしてもらい、レンタル装備に着替えてダンジョンへ入る。そして、ステータスの確認をした。
名前 東山 智明
年齢 20歳
HP/MP 54/8
攻撃力 47
防御力 45
速度 39
知力 59
幸運 67
スキル
・片手剣F ・盾F
おお! また少し上がっている! 成長しているのが、数字で分かるのがいいな~。今日も頑張ろう。
今日も安全第一で、午前中は1階でコツコツ狩りをする。昼からは、2階に降りて様子を見る。階段近くで狩りをして、危ないようだったら直ぐに1階に戻れるように狩りをする。体感としては1階も2階も変わらない。どれぐらい魔物の数が増えるのかと思えば、1時間に5~6体で少し増える程度だった。
「東山様、お待たせいたしました。換金額の確認をお願いします」
魔石17個、ウサギ肉4個、ウサギ皮4枚、ポーション2個、合計15,800円
「はい、カードに入金してください」
今日も、ポーションが出たから良い値段になったな。毎日2個出るなら、ダンジョンに入る方が稼げる気がしなくもない……後、ボーナスと寮があれば転職するのに。
それから1か月後、TVのニュースで10月に二回目のダイバー募集をするらしいと報道されていた。募集要項は各都道府県在住者30名と企業所属のダイバー希望者。ダンジョン近くの企業優先(スタンピードが起きた時の対処方法を講習)
9月に入り、その募集のポスターがDWA支部に張り出された時、僕はまだ5階辺りでのんびり狩りをしていた。
「これは、第2回のメンバーが来るまでに5階を卒業しろと言うことかな。企業が参入して来たら殺伐としそうだな~」
一人ポスターに向かって呟いていた。5階は良い稼ぎになるんだけどな~。第2期のダイバーが来るまでは、5階に居座ろうかな……
毎週日曜だけダンジョンに入り、お盆休みは実家に顔を出した以外はダンジョンに入った。9月に入って、5階でウロウロしているのは僕ぐらいだが、一日4万近く稼げるのだから動けない。最近本格的にダイバーになろうかと悩むほどだ。ステータス値が上がり、狩りが楽になってきたのが大きいな。
「ステータス・オープン」
名前 東山 智明
年齢 20歳
HP/MP 96/12
攻撃力 50
防御力 50
速度 55
知力 61
幸運 67
スキル
・片手剣E ・盾E
攻撃力と防御力は50になってから一向に上がらず、HPばかり上がって行く……きっと5階の魔物では、これ以上あがらないんだな。
寮に戻ってTVを付けると、東京で魔物のスタンピードが起きたと速報が流れていた。
「えっ!?」
思わず声がでた。
品川ダンジョンCの魔物が溢れたと報道している。ダンジョン省のJDA(自衛隊)の部隊とDP(警察)の部隊が討伐・封鎖に当たっているが、怪我人も多いようだ。沈静化するには、時間が掛かるだろうとTVのコメンテーターが言っている……
う~ん、ダンジョンCの魔物なんて強いんだろうな……そんなのが町中に出て来たら……やばい、金策よりステータス値を上げるのが優先だな。
翌日、職場でもスタンピードの話で持ち切りだった。
昼休憩の食堂で、ここでも品川のスタンピードの話だ。田中先輩が、
「もし、寝屋川ダンジョンがスタンピードになったら、ここまで魔物は来るかな?」
「ええ~、ここまでは来ないんじゃないですか? 田中先輩」
「東山は、楽観視し過ぎだな」
「及川さんまで心配しているんですか? あそこのダンジョンは、一般公募のダイバーが入っているから、スタンピードは起こらないんじゃないですか?」
「「なるほど」」
二人が納得していると、太田さんが手を上げて宣言する。
「僕が、ダイバーになって倒しますよ!」
「えっ! 太田ダイバー募集に申し込むのか?」
「太田、無理だろ~、30人だぞ!」
「企業枠で行けそうな気がするんですけどね……田中さんも及川さんも、どうですか? 申し込むのは無料ですよ!」
温厚な太田さんが、ダイバー希望とは驚いた!
「う~ん、俺は運動神経がないからパスだな。及川は向いてそうだな。うちの本社は申し込むかな~? ここの工場なら申し込むかもな」
「よし! 太田が申し込むなら、俺も申し込むぞ!」
及川さんも申し込むと言い出した。元高校球児だった及川さんなら、体格も良いし受かりそうだな。メガネの太田さんは、僕と同じ中肉中背だ……
「及川さん、一緒にダンジョン行きましょう~!」
太田さんは、もう受かった気でいる……
「おー!? 及川まで、申し込むのか?」
「はい、田中さん。俺、申し込んでみますよ! 東山、お前も申し込んどけ。3人で申し込むぞ!」
「えー! ぼ、僕は……」
あ~、バレるのも時間の問題かな……、自分からカミングアウトしておこう。
「もう、申し込めませんよ……」
「東山、どういう意味だ?」
「「うん?」」
はぁ~、仕方ないよな。
「はい。1回目に申し込みました……」
「何!!」
「え? 1回申し込んだら、もう申し込めないのか?」
「東山君、そうなの?」
及川さんは、そう解釈しました?
「おい、東山! もしかして、第一回目のダイバー募集に通ったのか?」
「田中先輩、大きな声を出さないでください……」
「東山、マジか!」
「東山君に先を越された……」
それから、3人に根掘り葉掘り細かく質問された……1日の換金額は、流石に個人差もあるので言わなかったけどね。僕が、ダイバー登録したことは内緒にしてもらった。親しくもない人に、アレコレ詮索されるのも面倒なので。
及川さんと太田さんは、俄然やる気になって翌日申し込みに行ったそうだ。
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