第36話 11月第2日曜~

 

 翌日、魔法書狙いのダイバーが多かったのでスキル上げを諦めて寮に戻ることにした。帰りの電車に揺られながら、後藤さんに土魔法がやっと出たことをメールで報告した。『後、土魔法で4つ揃うんだろう?』と、言われていたから。


 食料を買い込んで、寮に戻ってTVを見ていると、メールが届いた。


『東山君、4属性獲得おめでとう!』


ブウゥ――、ブウゥ――、


 ん? また着信だ。


『東山君、神田が『スキル書』が出ないとうるさいんだ。一緒にジェネラルオーク狩りを手伝って貰えないか?』


 続けて、後藤さんからメールが来たよ。神田さんが後藤さんに詰め寄っている姿が目に浮かぶ……きっと、寝屋川DWAで見た光景だよね。


 神田さんは『スキル書』を取りに行っているのか? 久留米から帰って来たばかりなのに、仕事熱心と言うか……頑張り過ぎだよ。


 スマホでDWAの公式サイトを調べた。堺ダンジョンのジェネラルオークは21~30階の草原+林のエリアに出て来る魔物で、ランクBに格付けされている。そのエリアに出て来る魔物はランクCとB。神田さんは、こんな所でソロ狩りをしているんだ。凄いな。


 ジェネラルオークのドロップ品を見ると、レアアイテムの『スキル書・身体強化』と『帰還石』を出すと書いてある。『帰還石』の説明には、どの階層にいても使用すると1階にワープ出来ると書いてある。ただし、使用すると消える。へぇ~、1回だけしか使えないのか。でも、いざという時は便利なアイテムだな。


『後藤さん、僕はまだ10階のボス戦までしか行っていないので、来月だったら、お手伝い出来ると思います』これで良いかな、ワープ取りに連れて行くって、返信が来そうだな……送信。


ブウゥゥ――、ブウゥゥ――、ブウゥゥ――、


 ん? 今度は電話? ……後藤さんからだ。


「もしもし、東山です」

『東山君! 10階のボス戦は終わっているんだよね。20階のワープ取りを手伝うから、祝日の連休はダメかな?』


 やっぱり……えっ、祝日って来週じゃないか。う~ん、箕面ダンジョンを手伝って貰ったし、しばらくは、スキル上げするつもりだから良いか。


「あっ、良いですよ。後藤さん、僕もスキル上げしたいので、よろしくお願いします」


と、答えた。


 公式サイトで、堺ダンジョンBの10階からの魔物と、20階のボス戦を予習しておこう。それと、宝箱から出るアイテムもチェックしないとな。そうだ、ビジネスホテルを予約しておこう。




 週明けの昼休み、田中先輩が、嬉しそうに予定を話す。


「東山~、週末の祝日の連休だが、俺は有休を使って4連休にした。そしてだ!なおりんの、イベントに参加して来るからな~! ファンの親睦会もある!」


 なおりん? あぁ、先輩の押しのアイドルか……また、東京に行くのか。


「田中先輩、お土産を待ってますよ」

「おう~! お前、アレ好きなのか? 分かった、バナナを買って来てやる~。後、何かあったらメールしろよ~」


 先輩が、それしか買って来てくれないだけで……他のでも良いんですよ。アレも好きだけど。僕も連休は、知り合いと堺ダンジョンに行くことを伝えた。


「そうか。東山~、気をつけろよ~」

「東山君、気を付けてね。僕は箕面ダンジョンに行ってくるよ」


 太田さんは、『回復魔法』狙いで箕面ダンジョンに行くそうだ。ん? 及川さんが何だかニヤニヤしている。


「フフフ、俺はデートだ!」

「なっ! 及川~、そろそろ誰か紹介しろ~!」

「「及川さん……」それは、言わなくても……」


 田中先輩が、及川さんに小言を並べ始めた。あ~ぁ、及川さん、自分で何とかしてくださいよ。僕も太田さんも知らないですからね。




 祝日前の仕事終わりに、堺ダンジョン近くのビジネスホテルへ向かった。明日の朝8時に、後藤さんと待ち合わせをしているので、前乗りして2泊の予定。堺まで来るのに時間が掛かるし、朝早いと、電車の本数が少ないからね。


 翌朝、7時半頃に堺DWAに着いたが、既に後藤さんと神田さんが待っていた。いつもだけど、早い!


「東山君、おはよう! 今日はよろしく」

「やっほ~! 東山君。手伝いに来てくれてありがとね! ちゃんと、哀川隊長に報告しているからね!」


 神田さんは満面の笑みで、朝からテンションが高い。


「あはは! おはようございます。後藤さん、神田さん、よろしくお願いします」



 3人で10階に飛んだ。2人の後を、ドロップ品を拾いながら付いて行く。ボス部屋に入って奥の薄暗い通路を進むと、階段があった。


「東山君。ここから先はもう見たかい?」

「いいえ、後藤さん。前回はボス戦が終わって戻りました」

「そうか! じゃあ、東山君、前に出て景色を堪能してくれ!」


 後藤さんに言われて、先頭になって階段を下りて行く。すると、薄暗い階段の先から明るい光が差し込んでいる。


 おっ、草原のエリアか……心臓がバクバクして来た。早く、その先の景色を見たい衝動に駆られて、階段を走って下りてしまった。


 洞窟から光の先に飛び出すと、昼間のように明るくて……そこは一面の草原……


 風が吹いているのか? 膝丈の草が、少しなびいている……


 あぁ~、あのアニメの一場面を思い出すよ。


「うわ~! 凄い! ここがダンジョン?」

「凄いだろ! 俺はこれを見てワクワクしたよ!」

「うんうん、私も感動したわ~」


 見渡す限りの草原で、どこまで続いているのか分からない……どうなっているんだろう? 別世界だ! 感動してしばらく眺めていたが、ふと思う。これ……移動するのに時間かかるだろうな。


「さて、東山君。ここはランクDとCの魔物しか出て来ないから、どんどん進むよ! 今日で20階のワープは取りたいからね」

「この広さで、今日中に20階まで進めるんですか?」


ムリなんじゃないの?


「ふふふ。東山君、迷うことはないけど、頑張って付いて来てね! 急ぐわよ!」

「はい」


 ん? 頑張って?


「行くよ、東山君!」


 そう言って、後藤さんと神田さんは素早く移動し始めた。


「えっ!」


 慌ててついて行くが、二人とも歩きながら倒している……足が止まるのは、ランクCのオークとロックリザードが出て来た時だけ、だが一瞬だ。ふぅ~、僕が、ドロップ品を拾ってバッグに入れる方が時間が掛かるな。小走りで追いかける。


 後藤さん達について進むと、小さな岩山が見えて来た。その岩山には、ぽっかりと穴が開いている。中を覗くと、洞窟になっていて下へと続く階段があった。


「東山君、ここから下の階に移動するよ」

「はい……」


 2人に続いて岩山の階段を下りて行く。こんな岩山に階段があるんだ。不思議な作りだ。



 草原のエリアには、障害物が無いから真っ直ぐに進めるけど、1フロアー進むのに50分近くかかる。昼頃、15階のワープ・クリスタルに着いた。2人に、ついて行くのが必死だ……ハァ、ハァ、


「15階のクリスタルに着いたよ、東山君」

「東山君、この調子で20階のワープまで取るわよ!」

「はい、お手柔らかにお願いします……ハァ、ハァ、」


 15階のワープを確認して、20階に向かって進む。草原の中を進むのは新鮮だ。まるで外国に来たようだよ。


 途中で昼休憩を入れて、20階のワープ・クリスタルに着いたのは17時前だった。


「東山君、到着したよ! クリスタルに触って」

「やっと着いたわね。2人ともお疲れ~」

「後藤さん、神田さん、ありがとうございます。ハァ、」


 ワープ・クリスタルに両手で触れると、いつものように何かが流れて来る……そして、1階までワープの確認をした後に、20階のボス戦をどうしようかと言う話になった。 


「今日は、東山君が疲れただろうから、明日の朝一番にボス戦をやろうか」

「そうね。ボス戦は直ぐに終わるけど、ここからボス部屋までの移動に時間がかかるしね。続きは明日ね」

「はい、分かりました」


 今日は、2人の後ろからついて行くだけでクタクタだ。ステータスも上がって体力がついたと思っていたけど、まだまだだな……ボス戦を明日にしてくれて助かった。


「さあ、東山君、軽く飲みに行くぞ~!」

「後藤、賛成~! 東山君、近くに良い居酒屋があるのよ。行こう~!」


 えっ、これから飲みに行くんですか? 明日もダンジョンなのに……。


「軽く、ですよね? はい」


 換金したお金で打ち上げをすることになった。あぁ、ビジネスホテルを2泊で取っておいて良かった。



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