第34話 10月末 飲み会


 10月末の飲み会、いつものメンバーでいつもの居酒屋。


「「「えっ!」」」

「はい。10月から一般ダイバーが増えたので、企業ダイバーの活動を終了することになりました」


 佐藤課長が、ダイバーが増えて寝屋川ダンジョンのスタンピードも起こらないだろうと判断したそうだ。後は、各自で腕を鈍らせないようにと言われたらしい。


「太田~、もう金曜に入らないのか~?」

「はい。これからはフリーなので、休みに箕面ダンジョンへ魔法書を取りに行きますよ!」

「太田がフリーになったんなら、月に一回ぐらい3人でパーティーを組んで、堺ダンジョンに行かないか?」


 前にも話していたけど、及川さんがデートだったり、僕が箕面ダンジョン行ったりで、まだ実現出来ていなかったんだよな。ということで、来月から3人で堺ダンジョンBに行くことになった。





 土曜日、今日はスキル上げをしに寝屋川ダンジョンに来ている。


 ボワッ! ヒュ――バァ――ン!


 おかしい……Dランクのカエルが火魔法の一発で倒れた。火魔法のランクはCのままなのに、魔法の威力が上がった? あっ! 『回復魔法』を覚えて、知力が10上がったからか! さすがに、オークに火魔法一発は無理だけど、魔法と一太刀で倒せるようになった。余裕で倒せる! おお、僕も強くなったな。



 夕方、狩りを終えて寝屋川DWA支部に行くと、後藤さんを見かけた。


「後藤さん、こんにちは。箕面ダンジョンは終わったんですか?」

「おう! 東山君。俺たちは、神田が覚えていたから解放されたよ。臨時ボーナスも貰えたしラッキーだったよ」


 来月から堺ダンジョンに入ることになったので、後藤さんに注意点を聞いていたら、後藤さんのスマホがけたたましく鳴り出した。後藤さんは、画面をチラッと見て顔色が変わった。


「東山君、本部から呼び出しが掛かった。悪いけど行くね。また!」

「はい、後藤さん。失礼します」


 後藤さんは、慌てて寝屋川DWA支部を出て行った。呼び出しか。


 


 寮に戻ってTVを付けると、後藤さんが呼び出された理由が分かった。福岡の久留米市で、新しいダンジョンが発生したと報道されている。


「後藤さん、福岡に行くのか……神田さんもだよな」


 新しいダンジョンが出来たと聞くと、ドキッとする。一瞬で母さんのことを思い出してしまう。




 週明けの昼休み、新しく出来たダンジョンの話になった。


「今度は、福岡か~。毎回、いきなり発生するから怖いよな~」

「そうですね、何かしら前兆があれば良いのに……もし、俺の目の前に、ダンジョンが急に出来たら焦りますよ」


 そうだよな~。目の前にダンジョンが現れたら、どうすればいいか分からないな。後藤さん達も初めてのダンジョンに入って、見たことない魔物とか出て来たら怖いと思うのかな? そんなの関係なく、突っ込んで倒していそうな気もするけど……。


「僕は、大分の実家が気になって電話しましたよ。そっちは大丈夫か? って」


 僕も、後藤さんや神田さんと親しくなったから、強い人達だと分かっていても気になる。





 11月の第一土曜日に、3人で堺ダンジョンBに行くことになった。7時に玄関に集まる話だったのに、目が覚めたと及川さんに朝早く起こされて6時に寮を出た。


 あ~、早朝はもう寒いな……眠いし、お腹が空いた。


「及川さん、途中のコンビニで、食料を仕入れて良いですか?」

「あっ、東山君、僕も朝食べていないから行くよ」

「ああ、いいぞ~。ついでに昼飯も買おうか」


 コンビニで昼用も買い込んだ。ん? 太田さんは、お菓子まで買っている……まるで遠足だな。ふふ。




 堺のDWA支部に入ると、中の作りは他のDWA支部と同じだ。ただし、ここのレンタル装備が1万円もした。そして、武器は箕面DWAと同じで、オプションで変更できる。


 最近、ダイバー専用の装備や武器を売り出すメーカーも出て来た。デザインはカッコイイけど、持ち歩くのが大変そうだし値段も高額だから、僕はしばらくレンタル装備で良い。深階層に入るようになったら考えることにする。


 そして、装備を借りる時に忘れず地図も貰っておく。ここも20階までの地図をくれた。


「装備の値段が一気に倍になったな!」

「及川さん、これは良い性能の装備なんですよ」


 そうなのか。太田さんがそう言うけど、見た目は5,000円の装備と変わらない。少し色合いが違うだけだ。


「この装備には、ロックリザードの皮とかジャイアントスパイダーの糸を使用しているってDWAの公式サイトに書いてありましたよ」


 これ、ドロップ品で作った装備なのか。太田さんは、ちゃんと下調べているんだな。僕は、後藤さんから魔物の話を少し聞いただけだ。


「太田、公式サイトまでチェックしているのか。太田が調べてくれたなら、このままダンジョンに入りたい所だが、10階までの魔物とボスを調べに行くぞ」

「「はい。」」



 資料室で1~10階に出てくる魔物を調べると、ランクDまでの魔物が出て来る。スライム・スパイダー・コボルトのペアー、初めての魔物はバット(蝙蝠)とリザード。そして、10階のボス戦は、オークが2~3体出て来ると書いてある。


 ボス戦の宝箱には、魔石・オーク肉・オークの武器・ポーション・ステータスの実・アクセサリーがランダムで入っていて、実とアクセサリーが当りのようだ。


「追加の情報も特にないな。ボス戦はオーク2~3体なら、3人で余裕だが、取りあえず10階のワープを取るぞ」


 目標は10階のワープを通す。そして、時間に余裕があったら、10階のボス戦まですることになった。


「そうですね。それと、5階のワープを取り忘れないようにしないと」


 そう言えば、ここのダンジョンは、ワープ・クリスタルが5階毎にあるんだったな。




 ダンジョンに入ると、薄暗い迷路だった。10階までは迷路だと書いてあったが、他のダンジョンと比べて、広さは変わらない気がする。11階からの草原エリアが楽しみだな。


 先頭は及川さん、太田さん、そして僕。くの字型に並んで進んで行く。バットが出て来たら、太田さんと僕が魔法を撃って倒す。バスケットボールに羽が生えたような、大きいサイズなので当てやすいけど……う~ん、デカ過ぎて気持ち悪いな。


「飛んでいるのは、2人に任せられるから楽だな」

「バットは、僕と東山君に任せてください。及川さんは、突っ込んでくるのを頼みますね。東山君は、後ろも気を付けてね」

「はい。コボルトのペアーは、僕が1体取りますね」

「「了解」」


 太田さんは、地図を見ながら進む方向を指示してくれる。階段ごとに、少し休憩を入れながら進んだ。


「リザードだ!」

「「おお~!」カッコイイな!」


 体長1m程あるリザードが現れた。コモドオオトカゲに似た茶色い大きなトカゲ。動きが素早くないので楽に狩れそうだ。


「行くぞ! とりゃ!」


 及川さんは、躊躇ちゅうちょすることなく突っ込んで行き、一太刀で仕留めた。ドロップした皮を見て、太田さんが、初期装備に使われていると教えてくれた。リザードは、地方のダンジョンで良く出て来る魔物だそうだ。



 ダンジョンを進んで行くと、すれ違ったパーティーで魔法を使っている人を見かけた。及川さんも、最近、魔法を使う人を見かけると言う。『回復魔法』を使える人が増えたら、深階層を目指すパーティーも出て来るかもな。


 2時間程で、5階のワープ・クリスタルに到着した。


「ワープ・クリスタルは、寝屋川と同じだな。東山、箕面ダンジョンも同じか?」

「はい、箕面も同じでしたよ」


 乳白色のクリスタルだ。1階に飛べるかワープの確認をしてから、10階へ向かう。太田さんがナビゲーターをしてくれるから、迷うことなくどんどん進む。


「10階までは2人で余裕だから、太田はそのまま道を指示してくれ」

「分かりました。任せてください!」


 それから、途中の階段で昼休憩を取って、順調に10階へと進んでいった。3人いると、倒すのも早くて14時頃にはワープ・クリスタルに到着した。


 僕達はクリスタルに触れて、1階までワープ出来るか確認してから、10階のボス部屋へ向かった。





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