第20話 スキル書2


 キラキラした乳白色のクリスタルが見えたと思ったら、それを遮るようにハイオークが出て来た。


「最後の1体だな。東山君、魔法を撃ってくれ」

「はい」


 後藤さんの横に移動して、ハイオークに向けて火魔法を撃った。


 ボワッ、ヒュ――バァァ――ン!!


 魔法の合図と供に、2人が突っ込んで行く。


「ハイオーク! 『挑発』こっちを向け!」


 後藤さんが、ハイオークに『挑発』を入れて斬り付けた。そして、神田さんが止めを刺す。そして、倒れたハイオークが消えて、現れたのは魔石だった。


「残念。魔石だったな」

「そうね、1日で2つも出るわけがないわよね……」


 神田さんが残念そうに言う。そうですよ、レアアイテムは魔石のようにポロポロ出ないですよ。


「神田さん、また来週ハイオークを狩りに来ましょう」

「そうね! 東山君、ありがとう。後藤も手伝ってよ!」

「おう! 神田~、来週は30階にワープ出来るから、ハイオークを十分に狩れるぞ! 『スキル書』は来週も出るぞ! 東山君は、来週も『幸運の東山君』だしな!」


 なんですか、それ……。


「ふふふ。そうね、後藤の言う通りだね」

「後藤さん、変なあだ名を付けないで下さい。って、言っているじゃないですか……」


 僕は、のんびりダンジョンに入りたいから、ここでしっかりと釘を刺しておく。


「お二人にお願いがあります。僕のドロップが少し良いことは、誰にも言わないでください。神田さんの『スキル書』が出たら終わりですよ」


 これ以上、面倒なことに巻き込まれると困る。


「ああ、誰にも言わない。約束するよ。所で、東山君は、『挑発』欲しくないのかい?」

「後藤さん、僕は要らないですよ」


 今は、特に欲しいとは思わないな。パーティーとか組んだら欲しくなるのかも知れないけどね。


「ええ! 東山君、欲しくないの? 『挑発』よ!?」

「はい。それより、僕のことは言わないで下さいね」


 2人は何度も頷いてくれた。


 そして、ワープで1階に飛んだ時にステータスを確認した。


名前  東山 智明

年齢   21歳

HP  146/173

MP  35/117

攻撃力  82

防御力  79

速度   79

知力   82

幸運   67

スキル

・片手剣C ・盾C ・火魔法C


 今日は、魔法しか使っていないから、ほとんど上がっていないな。う~ん、HPはポーションを飲めば回復するからいいけど、MPはもう少し欲しいな。




 ダンジョンを出て、DWAの受付に向かうとJDAの哀川さんがいた。


「東山君、JDAの者が迷惑を掛けているようですまないね」

「こんばんは、哀川さん。いえ、大丈夫ですよ」


 白石さんが言ってくれたのかな? 両側にいる後藤さんと神田さんが固まっている。


「後藤、神田、応接室に来い」

「「はい、哀川隊長……」」


 隊長? 哀川さんは統括責任者で隊長なのか。凄い人だな。あれ、これって2人は怒られる、っぽい? ああ、一般ダイバーを(無理やり)ワープ取りに連れて行ったからかな?


「あの~、後藤さん、ドロップ品はどうしましょうか?」

「全部、東山君が貰ってくれ! 俺達は、要らないからな!」

「ええ、そうして頂戴……ね、東山君」

「はぁ~、良いんですか?」


 2人は引きつった顔で頷いて、哀川さんに付いて行った。


「東山様、良いんですよ。換金しますので、ドロップ品をお預かりします」

「はい、お願いします」


 にっこりする白石さんに急かされて、換金してもらったけど、僕が全部もらって良かったのかな?



 中華の豪華バージョンを食べて寮に帰り、田中先輩の部屋に報告しに行った。お土産に上質肉の塊を分厚いステーキに切って持って行く。及川さんと太田さんの分も取り分けて置く。


「田中先輩、無事に帰って来ました。これ、お土産の上質肉です」

「おう! 東山、無事に帰ってきたか~! 良かったな~」

「はい。JDAのトップダイバーだけあって、僕の護衛なんて余裕でしたよ。不安がっていた自分がバカみたいでした」


 本当に二人は強かったな。ハイオークへの攻撃も、僕が火魔法を撃たなくても2人の二振りで倒していたと思う。


「そうか~。東山、土産ありがとうな! この肉も旨いのか?」

「僕も食べたことないので、分からないですけど。JDAの人は旨いって言っていましたよ」

「そうか! 楽しみだな~、明日の昼にでも食べるよ」

「はい。先輩、良く焼いて食べた方が良いですよ。じゃあ、及川さんと太田さんにも

 渡して来ます」


 田中先輩の部屋から出て、2人にも上質肉のステーキ肉を渡しに行った。



 週明けの昼休みは、みんなでステーキの感想を言い合った。


「東山~、アレ凄いわ! ハイオークって豚だよな? オーク肉にも驚いたが、比べ物にならんな!」

「田中先輩、本当に旨かったですよね!」

「田中さん~、アレ、豚の味じゃなかったですよ! 東山、ハイオークは何階から出て来るんだ?」

「及川さん、ハイオークは26階から出てきましたよ!」


 及川さんは、ハイオークを狩りに行くつもりかな。オーク肉の次の目標にするんだろうな。


「東山君、アレ、霜降り肉より美味しかったよ!」

「太田さん、アレの換金額1万円するそうですよ」


 みんなに喜んでもらって良かったよ。今回、心配かけたからな~。来週も上質肉が出たらお土産にしよう、もう30階へは行かないだろうしね。


「「「1万円!!」」」

「おいおい! 店で食べると、いくらするんだ~!?」

「俺は、人生最高額の肉を食べたんだな!!」

「東山君、ありがとう!」

「いえ、みなさんには相談に乗ってもらったんで、喜んで貰って良かったですよ」


 ワイワイしていると、声を掛けられた。


「君たち、1万円の肉って何か教えて貰えるかな?」


 振り向くと佐藤課長が立っていた。ええ! えっと、何て言えばいいんだろう……。


「佐藤課長、東山の知り合いにJDAのダイバーがいて、その人から土産でもらった肉が、換金額1万円するらしいって話です。もらい物なので詳しいことは分かりませんが……」

「はい、そうです……」

「ほお~、1万円の肉を出す魔物がいるのか。興味深いな、調べてみよう」


 佐藤課長は、それだけ聞くと立ち去った。田中先輩は上手いな~。僕だったら、余計なことまで言ってしまいそうだ。


「田中先輩、勉強になります!」

「おう」



 その週の金曜、太田さんは佐藤課長に連れられて、オークを狩りに行くことになったらしい。1万円の肉に刺激されたんだな。




 そして、第2土曜日は再び『スキル書』狙いで30階の約束だ。2人は、既にDWAで待っていた。早いなぁ。急いで、装備に着替えに行った。


「後藤さん、神田さん、おはようございます」

「おはよう! 東山君」

「東山君、おはよう。今日はよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします。この前、哀川さんに連れて行かれて、大丈夫でした?」


 この前のことが気になる……僕に関係することだしね。


「ああ。東山君の幸運のことは言ってないから安心してくれ」

「ええ。ちゃんと約束は守ったからね。哀川さんに、一般ダイバーを無理やり連れて行くなと言われただけよ」

「そうですか、ありがとうございます」


 良かった。でも、哀川さんが隊長なら、2人が欲しがっている物なんて知っているだろうから、『スキル書』狙いで僕を連れて行ったってバレているだろうけどね。


 二人に前後に挟まれてダンジョンへと向かうが、周りの視線を感じる。今日は、僕に周りを見る余裕があるんだな。JDAダイバーに挟まれている一般人……目立つが気にしない……ことにする。


 30階にワープしてハイオークを探しながら狩りをする。ポイズンスネイクやポイズンスパイダーの毒は僕の場所まで届かないけど、手長猿の投石をかわすのはなかなか難しい、たまに欠片を受けてしまう。


 3時間が過ぎて、ハイオークが出したのは魔石が5個と上質肉が1個。少し早いが、お昼にしようと階段へ向かうと8体目のハイオークが現れた。


 僕の火魔法を合図に、二人が突っ込んで行く。先に神田さんが斬り付けて、後藤さんが『挑発』を入れてから斬り倒した。もう慣れた作業のようになっている。


 そして、倒れたハイオークが消えると、四角いスクロールが現れた。

 

「おおお――!」

「きゃ~~! うそ、出たよ! 嬉しい~!!」


 ようやく神田さんのお目当ての『スキル書』がドロップした。


「おっ! 出ました?」


 神田さんが、嬉しそうに『スキル書』を拾い上げて、僕に抱き着いて来た。うおお! 抱き着かれた! こ、これは……。


「東山君、『スキル書』を出してくれてありがとう~!」

「か、神田さん、良かったですね。僕が出したわけじゃないですよ……」


 ぼ、僕の手はどうすればいいんだろう……分からないから、されるがまま直立不動で声をかけた。


「おお! 『幸運の東山君』降臨だな!」

「ご、後藤さん、変なあだ名を付けないでくださいよ……」

「東山君、本当にありがとう~! 早速、使うね!」


 3人とも興奮している。僕は違う意味だけどね……ドキッとしたよ……。


 神田さんは僕から離れると、『挑発』の『スキル書』を使った。満面の笑顔です……。


「先週の後藤の気持ちが良く分かるわ~! 使ってみたい!」

「そうだろ~! 神田、早く使いたいだろ~」

「ええ、でもポイズン系には使わないわよ! 猿かハイオークにする」


 さすが討伐ダイバーというか、完全に武闘派だよな。


「先に、お昼にしませんか? 時間はまだあるので、昼からゆっくり試したらどうですか?」


 階段で昼休憩することにした。ふぅ~。神田さんの『スキル書』が出て本当に良かった。これで、僕は解放される~! そうだ、休憩している間にHPの確認もしておかないと、投石の欠片を受けたし、格上のエリアを歩き回るだけでも少しHPが減るみたいだ。


名前  東山 智明

年齢   21歳

HP  124/173

MP  77/119

攻撃力  82

防御力  79

速度   79

知力   83

幸運   67

スキル

・片手剣C ・盾C ・火魔法C


 HPが減っているな~、ポーションを飲んでおこうか。魔法しか使わないからか、MPと知力しか上がっていない。



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