第16話 5月 第4週~
週明けの昼休み、太田さんの顔が憂鬱そうだった。
「太田さん、どうしたんですか?」
「東山君、聞いてよ。この前の金曜日にダンジョンに行ったんだけどね。人が多すぎて、全然狩りが出来なかったんだ……」
ああ~、ポーション集めで、初心者エリアに行った時も人が多かったな……。
「ああ、解放してすぐはそうだったな。俺の時もそうだったぞ」
「及川さん、僕達の時と違って人数が3倍になっているから、酷い状況だと思いますよ……」
「そうなんだよ~、東山君」
「そうか! 今回は一般90人と企業90人だったな。全員じゃないだろうが、確かに人が多すぎるな。まぁ、その内に落ち着くと思うぞ」
「太田~、それで課長たちと飲み会になったのか?」
「田中さん、そうです。ダンジョンで思うように狩りが出来なかったので、3人で飲みに行って愚痴を言っていましたよ」
その飲み会は、参加したくないな。悪酔いしそうだ……。
金曜日、後藤さんからメールがあった。恵比寿の攻略が無事に終わって、大阪に帰って来たので、また毒消しが欲しいと言う内容だった。土曜日にダンジョンに行くので、ドロップしたらメールしますと返信した。
週末の第4土曜日、いつものようにダンジョンに行き19階で狩りをした。4時間狩りをして、HPを確認する。
HP 81/164
MP 27/107
うん、徐々にHPの減り具合がマシになっている。1時間でHP-20位として、後1時間ほど19階で狩りをしよう。
そして、その後いつものように11階でキラービーを追いかけた。MPが少し残っていたので、火魔法の威力をキラービーで試してみた。その結果、魔法2回で倒せたけど、MPが多くないので魔法で倒すのは勿体ないな。
ダンジョンを出て、受付に向かうと後藤さんが待っていた。毒消しが出たとメールをしていないのに来ているし……。
「後藤さん、こんにちは。遠征お疲れ様でした」
「おう! 東山君、ありがとう。その顔は、毒消しが出たな?」
後藤さんは、遠征から帰って来て、まだ間がないのにダンジョンに入るつもりなんだ。凄いな、さすがヒーローだ。連日ダンジョンに入るなんて僕には出来ないよ。
「はい。今日は、いつもより長く19階で狩りが出来たので3本出ましたよ」
「な、なんだって! 3本も出るなんて、東山君はどうなっているんだ……」
「今日は、運が良かったんですよ。はい、どうぞ毒消しです」
そう言って、後藤さんに毒消しを3本渡して現金9,000円をもらった。
「東山君、本当に有り難い! 何か困ったことがあったら、何でも言ってくれ! 出来ることは、協力するからな!」
「はい、その時はよろしくお願いします」
JDAの後藤さんを、頼らないといけないことが起きない方が良いんだけどな。
「東山君、来週の第5土曜日もダンジョンに入るかい?」
「はい。急用が入らなければ入ると思います」
「分かった。来週もここで待っているよ」
来週もって……せっかくの休みを毒消し待って潰すなんて勿体ないよ。
「えー! 後藤さん、ドロップするか分からないですよ?」
「いや、今の所100%だから、『幸運の東山君』なら大丈夫だよ!」
「後藤さん、プレッシャーを掛けないで下さい。それと、変な呼び方もしないで下さいよ……」
「アハハハ! 東山君、期待しているよ!」
ダンジョンの攻略で頑張っている後藤さんには勿論協力するけど、プレッシャーを掛けないで欲しいな。
ダンジョンから帰って部屋でTVを付けていたら、恵比寿の新ダンジョンの調査が無事に終わったと報道されていた。発生初期で規模も小さかったらしく、ダンジョン・コアも壊すことが出来たらしい。アナウンサーが、ダンジョンに落ちた人も無事に救助されたと言っている。良かったな。
月末恒例の飲み会は、太田さんの愚痴を聞く会になった。
「聞いてくださいよ~。佐藤課長が、『人が多すぎて、狩りができないから進むぞ!』の一声で10階まで進んだんですよ!」
「「「ええっ!!」」」
うわあ~、上司命令か! 逆らえないよな。
「ワープが取れたのは良いですが、傷だらけになりましたよ……3人の中で、僕が1番弱いですから……」
いくら佐藤課長が有段者だと言っても、初心者3人で無茶だよな……自分はソロで良かったと、つくづく思う。
「課長は、武闘派だったのか……いつもは温厚な人なのにな~」
そう言えば、田中先輩は大丈夫だと言っていたな。佐藤課長は、〇〇持ったら別人ってタイプだったのか?
「僕、10階のワープ取るのに4か月以上かかったのに……」
「俺でも2か月かかったな。東山は、のんびりし過ぎだ」
「及川~、それが東山らしさだぞ」
「はは……」
その通りだから何も言い返せないけど、ダイバーになった動機が魔物の狩り方、スタンピードが起きた時の対処の仕方を知りたかっただけだしな。
「田中さん、今後も佐藤課長が強行しそうな時どうすればいいですか?」
「う~ん、まずは当事者の長谷川に相談しろ。長谷川も佐藤課長派だったら考えようか。及川、東山~、お前らも考えておけ」
「「はい……」」
佐藤課長に意見するなんて出来ないですよ。僕だったら、どうするだろう……。
飲み会の翌日は、いつもはのんびりスライム狩りをするんだけど、後藤さん待っているって言っていたよな。
「仕方ないな~、毒消し探そうか」
今日も、19階で4時間ほど狩りをして毒消しが2本出た。その後スライムエリアに移動したが、まだ人が多くて余り狩れなかった。ポーションは1本しか出なかったけど売ろう。5月最終のステータスをチェックしておこうか。『ステータス・オープン』
名前 東山 智明
年齢 21歳
HP 83/166
MP 2/109
攻撃力 79
防御力 76
速度 76
知力 79
幸運 67
スキル
・片手剣C ・盾C ・火魔法C
攻撃力が上がって、三振りで倒していた魔物が二振りで倒せるようになって来た。全てじゃないけどね。それと、魔力も上がったようで、スライムエリアの魔物は火魔法の一発で倒せるようになった。これは、知力が関係するのかな? ふふ、これが面白くて、MPを使い切ってしまった。
DWAの受付に向かうと、やっぱり後藤さんがいた。僕に気が付いてニコニコしている。
「おお! 東山君、待っていたよ」
「後藤さん、出なかったら待っている時間が無駄になりますよ……」
早速、毒消しを2本後藤さんに渡した。そして、他のドロップ品を白石さんに渡して換金してもらう。
「おお! 東山君、助かるよ!」
「東山様、ポーションありがとうございます」
「何ー! ポーションまで取って来るのか! やっぱり『幸運の東山君』だな!」
後藤さんが、目をむいてポーションを見ている。
「後藤さん、変な呼び方しないで下さいって……」
「う~む。東山君、マジで凄いな……」
二人に喜ばれるのは嬉しい。弱い僕でも、役に立っていると思えるからね。今日の換金額は、後藤さんの現金を合わせて44,000円程あった。帰りは、豪華バージョンにしよう!
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