第17話 6月 第二期 他府県ダンジョン開放
6月に入って、遂に及川さんに追いつかれた。
「及川さん。20階のワープも取ったし、他府県のダンジョン開放を申し込むんですか?」
「ああ、希望するよ。奈良のダンジョンに入れるようにしたいからな」
「お前ら、もうプロのダイバーだな。そっちで食べていけるんじゃないのか?」
何度か考えたけど、特に不自由はないし、彼女や家族が出来たら変わるかも知れないけど、今のままが気楽で良いな。
「田中さん~、1日2~3万稼げますけど、プロダイバーは目指していないですよ。小遣い稼ぎ出来る程度で良いすよ」
ええ? そんなにドロップの差があるのか。16~19階だと、レアアイテムを入れると、3万~4万はあるけどな。
「東山は? プロダイバーを目指しているのか?」
「いえ、スタンピードが起きた時に魔物の倒し方を知りたくてダイバーになったんで、プロとか考えていないですよ。保険ないですしね」
「東山君は、堅実だね。僕も週末だけ、のんびりダイバー出来たらいいんだけどな」
心なしか、太田さんの顔が暗い。やっぱり、3人でダンジョンに入るのは大変なのかな。
及川さんの他府県のダンジョン開放の申し込みも許可されたそうだ。次のお盆休みに、実家に帰って奈良のダンジョンに入るんだろうな。
僕は、相変わらず19階で狩りをして、HPが減ると11階辺りで狩りをする。
第2土曜日の狩りの後、今日も後藤さんが白石さんの受付にいた。
「後藤さん、こんにちは」
「おう! 東山君。いつもありがとな~」
毎週、後藤さんが待っているのは、もしかして白石さん狙いなんじゃないかと思えて来た。
「今日も2本でした。後藤さん、そろそろスキル上げ終わるんじゃないですか?」
「ああ、スキル上げは終わったが、ハイオークが欲しい物を落とさないからまだ籠るよ」
「ハイオーク! オークの上位種ですね」
何を落とすんだろう……後でDWAの資料室に見に行こう。ん? いつの間にか、後藤さんの後ろにJDAの制服を着た女の人が立っていた。
「後藤~、何しているの?」
「げえっ! 神田! お前こそ、ここで何している?」
「『げえっ!』って、何よ! あんたが最近コソコソしているから、何をしているのか見に来たのよ!」
「神田、つけて来たのか!」
綺麗な女の人だけど、腕を組んで後藤さんを睨んでいる。怖いな。
「ふ~ん、一般ダイバーに何を絡んでいるのかと思えば、毒消しを買い取っていたの?」
「お前には関係ないだろ!」
白石さんは、2人のやり取りを呆れた顔で見ている。そして、僕に目で合図をして来た。口パクで、『関わるな』って言っている……そっと、白石さんのカウンターに移動して、残りのドロップ品を換金してもらう。
「毒消しってことは、ハイオークの『スキル書』狙いね! 私も欲しいのに~! 後藤、ズルい!」
「休みの日に、ダンジョン入ってカエルを殴っているだけだ! ズルく無いぞ!」
「今、その人から買っていたじゃない!」
「友人から、譲ってもらっているだけだ! 問題ないだろ!」
僕は、後藤さんの友人なのか……。
白石さんに換金してもらい、後藤さんに合図をしてその場を離れた。そして、いつもの中華の豪華バージョンを食べている時に、後藤さんからメールが届いた。
『さっきは、ややこしいのが来てすまなかった。また、頼む』
あれは、後藤さんのせいじゃないよな。
『大丈夫でしたか? また、毒消しが出たらメールしますね』
と、返信しておいた。メールしたことないけど……。
第3土曜は毒消しが3本も出た。単に、19階で狩れる時間が増えたので、カエルを狩る数が増えたからだけど、毒消しを渡した時の後藤さんの眼差しがいつもと違う。
「東山君の幸運は凄いな! 一緒に30階でハイオークを狩って欲しいよ……アレが落とす『スキル書』を取りたいんだ」
「ええっ! 後藤さん。僕、弱いので30階なんて無理ですよ」
後藤さん、何を言い出すんだ。
「そう言わずに、東山君は見ているだけで良い。ハイオークを少し殴ってくれれば良いんだ。後は、俺が狩るから東山君は安全だよ」
やっぱり、殴るんじゃないかー!
「後藤さん、すみませんがお断りします……僕が足手まとい過ぎます」
いくら後藤さんがトップ10のダイバーでも、二人で30階なんて無茶ですよ。帰り際、背中がゾクリと寒気が走った。嫌な予感がする……気のせいだといいけど……。
月末恒例の飲み会。乾杯の後、太田さんの報告があった。
「ダンジョンの攻略の件で、長谷川さんに相談しました」
「「「それで?」」」
「長谷川さんも、僕にはキツイだろうと佐藤課長に言ってくれたんです」
「ほお~! 長谷川、課長に言ったのか!」
「あいつ、なかなかヤルな!」
「凄いですね。長谷川さんは頼りになりますね」
及川さんの同期だったよな。上司に言えるなんて凄いなぁ。
「それが、佐藤課長に『オークを狩れるようになるまでは頑張るぞ、太田!』って、言われました……」
「ん? 太田~、どういうことだ?」
「おい、16階まで進むってことか?」
「えっ! まだ、2か月も経ってないですよね? ステータス足りないんじゃないですか?」
HPと防御力が、まだ低いんじゃないのかな? 攻撃は、有段者の佐藤課長と長谷川さんに任せればいいけど……危険だよな。
「はい。16階まで行ってオークを狩った後、それぞれステータスを上げることになりました」
「「それ、順番が逆じゃないのか!?」」
田中先輩と及川さんの声がハモった。
「太田さん、僕もそう思います」
「ですよね~。僕もそう言ったんですけど、佐藤課長はオークを基準にしているみたいで……」
「課長は、オークを狩ってみたいんだな~」
「そうか、自分の腕を試したいのか……」
はぁ~、困った上司だ……「一人で行けばいいのに……」
「「だな!」」
「東山君、ありがとう!」
「!」
あっ、声に出てしまった……。
翌日の土曜日、DWA支部の掲示板に貼り紙があった。8月にDWAエリアのダンジョンを攻略すると書いてあった。そして、7月はポーションと毒消しの買取り価格が1万円になると書いてある。2月と同じで、買取り強化期間になるようだ。
7月からか、今日は売らないで持って返るべきだよな。スライムエリアはもう人が多そうだな~。あ、後藤さんは来るのかな?
今日も19階で狩りをする。MPが無くなったので、階段でHPの残量と月末のステータスを確認した。『ステータス・オープン』
名前 東山 智明
年齢 21歳
HP 88/173
MP 0/115
攻撃力 82
防御力 78
速度 79
知力 81
幸運 67
スキル
・片手剣C ・盾C ・火魔法C
う~ん、MPがもっと欲しい。
ダンジョンから出てDWAの受付に向かった。支部に入って直ぐの所に、後藤さんと、この前のJDAの女の人がいた。
「東山君! ちょっと話があるんだ」
「後藤さん、こんにちは。話ですか?」
何だろう……後藤さんに、奥の応接室に連れて行かれた。
「東山君、彼女を紹介するよ。俺が入っているJDAの攻略部隊のメンバーで、神田だ」
ええ! 後藤さんと同じ攻略部隊ってことは、DWAのトップ10のJDAダイバー! 女性なのに凄いな! 10人の内の2人が目の前にいる。
「この前、会ったよね。私、後藤と同じ攻略部隊の神田、よろしくね」
「僕は、一般ダイバーの東山と言います。よろしくお願いします」
姿勢の良い、綺麗な顔をしたショートカットのお姉さん。上品な見た目と違い、勝気な性格だと知っている……前に後藤さんと言い合いしているのを見ているからね。嫌な予感がする……。
「実は、この前言っていたことなんだが、一緒に30階に行って欲しいんだ」
「ええっ! 後藤さん、無理だって言ったじゃないですか。僕は、20階から先に行ったこともないですよ……19階もやっと長時間狩りが出来るようになったばかりです」
無茶を言わないで欲しい。
「後藤……20階から先に行ったことないんじゃ、HPがキツイんじゃない?」
そうですよ、やっと19階でまともに狩りが出来るようになって来たんですよ。
「自慢じゃないですけど、僕、弱いですよ」
なんで、こんなことを言わないといけないんだろう。
「東山君、30階までは俺と神田が連れて行くから。大丈夫だ!」
「まぁ、私と後藤なら、東山君を護衛して連れて行けるけど。そこまでする程なの?」
後藤さんは、ニヤリとして僕に聞いて来た。
「東山君、今日は毒消しを何本売ってくれる?」
今日は、4本出たけど1本は来月の強化買取りに回しますよ。
「えっと、3本です」
「な! 何ですって! 君、本当に3本もドロップしたの?」
本当かと聞かれたので、リュックから3本出して並べた。途端に、神田さんの顔色が変わった。
「東山君、次にダンジョンに入れる日を教えてくれるかな?」
「ええっ!」
神田さんの態度の変わりようが怖い。
「神田~、東山君の幸運は凄いだろ~! 秘密だからな!」
「ええ、これは秘密ね」
2人が見合って、ニンマリとしている。これは……僕が危ない? 毒消し1本だけにしておけば良かったか?
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