第26話 箕面ダンジョン2


 地図を見ながらなので時間が掛かってしまったが、15時頃に目的のワープ・クリスタルに到着した。


 クリスタルは寝屋川と同じ乳白色で、キラキラと輝いてそこに鎮座している。クリスタルに触れて、確認の為に1階にワープしてから、10階に戻ってゴブリンメイジ狙いで狩りを続けた。


 17時頃まで狩りをしたけど、『スキル書』は出なかった。今日は終わりだなとワープに向かったら、途中で佐藤課長を見かけた。あれ?


 佐藤課長は、壁伝いに歩いていて酷い顔色をしている……えっ! まさか毒を受けている? 後藤さんが毒を受けた時と同じような顔色だ……毒消しは飲んだのかな? 走り寄って声をかけた。


「佐藤課長! どうしたんですか?」

「ああ、東山君……毒消しを……1本、持っていないかな……? はぁ、手持ちの……毒消しを……飲み切って、しまってね……」


 息遣いも荒く、話すのもやっとのようだ。これは、マズイじゃないか!


「えっ! 課長、これを飲んでください!」


 慌てて持っていた毒消しを渡した。毒消しを飲み終えた佐藤課長に、肩を貸して近くの小部屋に入る。課長には部屋の奥に座ってもらい、僕は部屋の中央で入口を見ながら警戒する。


「佐藤課長、毒が抜けるまで休んで下さい。それから一緒にダンジョンを出ましょう」

「ありがとう……東山君……助かったよ……」


 佐藤課長は、ちゃんと毒消しを3個持って20階を目指したそうだ。そして、16階で毒キノコの毒を受けて薬を飲んで戻る途中、運悪く立て続けに毒キノコやポイズンスネイクに出くわしたらしい。


 そうか、16階だと進んでも、出て来る毒の魔物が増えるだけだから戻る方が良いのか。そうすると、20階のワープ取りは、ソロだと毒消し3本じゃ足りないな。


「東山君、ありがとう。もう大丈夫だ、行こうか」

「はい」


 振り向くと、佐藤課長の顔色はすっかり良くなっていて、ポーションも飲んだみたいで、空ビンを僕に見せた。そして、一緒にダンジョンを出ることにした。


 途中で、ラットやゴブリンが出て来たけど、太田さんの言う通り、佐藤課長の剣裁きは凄く綺麗だった。流れるような動きで、JDAの後藤さんと言うより神田さんに近い。


 佐藤課長にお礼にと食事に誘われた。これは断れないのでついて行き、課長の泊まっている豪華ホテルでステーキ懐石をご馳走になった。ステーキ懐石だ!


「佐藤課長、凄く美味しかったです。ご馳走様でした!」

「こんな物では、お礼にならないがね。東山君に助けてもらわなければ、ダメだったかもしれない……感謝しているよ」

「いえ、課長が無事で、本当に良かったです」


 あそこで課長と出会わなかったら……間に合わなかったら……あの時、断らずについて行けば良かったと、僕は後悔していたと思う。


「東山君、ありがとう」

「いえ、当たり前のことをしただけです。課長、ご馳走様でした!」


 佐藤課長が、僕をじっと見て言うから照れ臭い。課長は明日の朝帰るそうで、『帰って妻に怒られるな』と笑いながら別れた。




 翌朝、田中先輩からメールが来ていた。『佐藤課長に怒られたら、「蜂蜜取って来い!」の刑だぞ~』ふふ、田中先輩への、奉納用の蜂蜜は既に部屋に置いてある。が、今回は大丈夫なはず。


 手早く準備して、ダンジョンに向かう。今日は、出るか分からない魔法書取りをする。今日一日狩りをして、出なかったら諦める。


 ダンジョンに入り、10階にワープして、地図を見ながら隅々までメイジを探す。そして5時間後、メイジがやっと『スキル書』を出した。


「やった!!」


 ふふ、嬉しくて声が出てしまった。やっぱり出るんだ! 素早く拾い上げた『スキル書』には、黒い魔法陣のような模様が描かれていて、その中心に渦のような模様が描かれていた。


 覚える前に、模様をスマホで撮っておこう。火魔法の時も撮っておけばよかったな。そして、僕は『スキル書』の中央に手をかざして集中する……『スキル書』は反応して、吸い込まれるように手の中に消えた。


 そうだ、ステータスが上がっているか確認しないとな。『ステータス・オープン』


 名前  東山 智明

 年齢   21歳

 HP  104/186

 MP  56/134

 攻撃力  87

 防御力  82

 速度   81

 知力   90(+5)

 幸運   67

 スキル

 ・片手剣C ・盾C ・火魔法C ・挑発 ・水魔法F


 うお! 知力が+5も上がっている。水魔法を覚えたのか! スキル欄の水魔法Fが輝いて見えるよ! うわぁ~、これは嬉しい!


 試しに、出て来たラットに向かって水魔法を撃ってみる。


 プクプク……ヒュッバシャン! 


「えっ? 水魔法、弱っ!」

『チュー!!』


 怒って向かってくるラットに、火魔法を撃って倒す。水魔法、いくらFでも弱すぎる……。


 その後もメイジ狙いで狩りを続けたが、魔法の『スキル書』は出なかった。1日狩れば、普通のレアアイテムなら2~3個は出るけど……『スキル書』は超レアだな。



 翌日の最終日、ホテルをチェックアウトして、荷物を持ったまま箕面DWAに来た。ダンジョンから出たら、そのまま寮に帰るので、ロッカーに荷物を預けてダンジョンに向かった。


 今日も10階で、ゴブリンメイジを探しながら水魔法を使う。水魔法は見るからに弱くて、これで倒される魔物がいるのか? もしかして、飲み水用か? と思うほどだよ。


 お昼を過ぎてそろそろ帰ろうかと思った頃、背中に攻撃を受けた。


「ぐぅっ!」


 慌てて振り返るとゴブリンが向かって来ていて、ゴブリンメイジは次の魔法を撃とうとしている。即座に火魔法をメイジに撃ち、向かってくるゴブリンを斬る。そして、そのままメイジに向かって止めを刺した。


 そして、メイジが消えた場所に1枚のスクロールが落ちた……えっ!


「嘘だろ……」


 昨日拾った水魔法の画像と見比べるが同じ模様だった。念の為に『スキル書』の中央に手をかざして集中するが、何も起こらない。やっぱり水魔法だ。う~ん、これはどうしようか……。


 ダンジョンから出て、『水魔法』以外を換金することにした。箕面DWAで換金に出して、時間が掛かるからまた来いと言われるのは面倒だし。これは持って帰って、寝屋川DWAで出そう。


 そう言えば、後藤さん、もう攻略予定の鹿児島に行っているかな? 後藤さんにメールしよう。


『こんにちは、後藤さん。もう鹿児島ですか? 攻略、頑張って下さい』


 よし、これでいいかな。寝屋川DWAに寄ってから帰ろう。


 




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