第27話 スキル書『水魔法』



 寝屋川に向かう電車の中で、後藤さんから返信のメールが届いた。まだ大阪にいるらしく、飲みに行くことになった。僕が、寝屋川DWA支部に行く用があるので、そこで待ち合わせをすることにした。


 寝屋川DWA支部に着いたら、既に後藤さんがいた。


「後藤さん、こんにちは。ちょっと待って下さい。『水魔法』が出たんで換金に出して来ます」

「えっ! 東山君、『水魔法』が出たのかい? ちょっと待って」


 後藤さんは、『水魔法のスキル書』を見たいと言うので、応接室に行くことになった。さっきまで、ここで鹿児島攻略の準備をしていたそうだ。


 トントン、


 後藤さんがノックをすると、中から声が聞こえた。


「どうぞ」


 奥の応接室には、哀川さんが何か資料を見ていた。


「哀川隊長! 東山君が、『水魔法』を見つけたそうです。見せて貰おうと思って、部屋を少し使わせてください」

「ほお、『水魔法』とは、珍しい物を拾ったね。私も見せて貰おう」


 哀川さんは、仕事をしていたんじゃないのか?


「こんにちは、哀川さん。忙しい時にお邪魔します」

「ああ、こんにちは。東山君、早速だが見せてくれるかい?」


 哀川さんに言われて、カバンから『水魔法』を取り出しテーブルに置いた。


「この『水魔法』は、箕面ダンジョンで10階のゴブリンメイジが出したんです」

『「えっ! 10階のメイジが、」落としたのか!』


 二人の声が重なったけど、後藤さんの声がデカイ。


「東山君、この魔法書の写真を撮らせて貰っても良いかな?」

「はい、どうぞ哀川さん」

「隊長、この『水魔法』は『挑発』と変わらないですね。『スキル書』って、どれも似ているから、パッと見ただけでは区別が出来ないですよ」

「ああ、そうだな。見ても何の『スキル書』か、分からないのが困る」


 二人の言う通り、中の模様が違うだけで見た目ほとんど同じだ。魔法陣? 文字? が読めないし、写真を撮って見比べるしかないよね。


「東山君は、これを覚えられなかったのかい?」

「後藤、東山君はもう覚えていて、たぶん2枚目じゃないのか」


 哀川さん正解です。覚えたから、僕はこれが『水魔法』だと知っているんですよ。


「はい、僕はもう覚えたんですよ。これは、2枚目なので換金に出すつもりです。でも、換金に時間が掛かる気がして、それなら寝屋川DWA支部で出そうと思って、持って帰って来たんです」


 箕面の資料室で調べた時、メイジのドロップ品で魔法書は書いてなかったから、初めての換金だと思ったんだよね。あっ、他のダンジョンで出ているかもしれないのか……。


「そうか、分かった。東山君の言う通り、換金額は直ぐには決まらないから少し待って貰えるかな? この『水魔法』は、私が預かるよ」


 やっぱり時間がかかるんだ。いくらになるかな? 『挑発』くらいの値段になると嬉しい。


「はい、お願いします。ちなみに、それ『水魔法』のFです。育てないと使えない弱い魔法です」

「東山君、『水魔法』の換金は初めてだよ。覚えている者はいるがね」


 そうなのか! まだ、換金はされていないのか。良い値段で換金してくれるかな?


「東山君、『幸運の君』の二つ名は、伊達ではないね!」


 後藤さん、なんかカッコイイあだ名になっていますが……。


「後藤さん、お願いですから普通に呼んでください」

「アハハ! 良いじゃないか、名前が分からない方がいいだろ?」


 後藤さん、良くないですよ。


「哀川さん、攻略前の時間をありがとうございました。ダンジョン攻略、頑張ってください!」

「ああ。東山君、魔法書をありがとう」

「じゃあ、東山君、行こうか!」

「はい、後藤さん」


 頭を下げて後藤さんと部屋を出ようとしたら、哀川さんが、さっき見ていた資料を掲げながら教えてくれた。


「そうだ、東山君。お盆休み後、魔石の換金額が変わる。取りあえず、ランクDまでの魔物が出す魔石が一律1,000円になる。後は、魔石の大きさで値段が違ってくる。ただし、素材はそのままだ」

「ええ――! 哀川さん、魔石だけでも嬉しいニュースです! ありがとうございます!」


 僕が喜んでいると、哀川さんが優しく微笑みながら、


「ああ、素材の方も研究が進めば、買取り額も上がるだろう。」

「おぉ! 楽しみにしています!」


 なんでも、やっと魔石をエネルギーとして利用出来るようになったので、魔石の換金額が値上がりすることになったそうだ。


 スライムの魔石でも1,000円になるのか! 帰ったら、及川さんと太田さんに知らせないと!



 後藤さんと駅前の居酒屋へ行った。鹿児島には、明日の午後から行くらしい。明日からはしばらくお酒を飲めないからと、後藤さんは前の時より飲んでいた。


「後藤さん、飲み過ぎると明日に障るんじゃないですか?」

「東山君、これぐらい問題ないよ! ゴクゴク……」


 後藤さんは、お酒が進むと陽気になるけど酔っぱらった感じがしない。僕なら3杯でストップだけどな。


 後藤さんに、『鹿児島ダンジョン、気をつけて下さい。』と言って、駅前で別れた。あんなに飲んで、二日酔いにならないのか? 羨ましい……。


 


 寮に戻って、及川さんの部屋へ向かうと、廊下で帰って来たばかりの太田さんに会った。


「太田さん、お帰りなさい」

「ああ、東山君ただいま。今、帰って来たんだ」


 荷物を抱えた太田さんに、簡単に伝える。


「太田さん、ダンジョンの魔石の換金額が変更されるそうですよ! 今から及川さんに伝えに行く所です」

「ええ――! 僕も行くよ!」


 そのまま二人で、及川さんの部屋に押しかけた。


「おいおい、どうしたんだ? 二人して?」

「及川さん、ただいま帰りました」

「及川さん、お帰りなさい。報・連・相です!」


 早く教えたくて、うずうずする。


「及川さん! 太田さん! 今さっきDWAで、哀川さんに聞いて来たんですが、お盆明けからランクDまで魔石が1,000円に上がるそうです!」

「何――! 薬だけじゃなくて、魔石も上がるのか!」

「うわ~、次から換金額が一気に上がるね!」

「そうですよ! 200円だったスライムの魔石が、1,000円になるんですよ!」


 太田さんの言う通りだ。これからは低階層で狩りをしても良い金額になるな。


「ああ、楽しみだな!」

「「はい!」」


 3人で換金額が上がると喜んだ。




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