デュークの失脚
「それで伯爵の方の首尾はどうだった」
「はい、例の件をちらつかせて脅迫したらあっさり言うことを聞きました」
「よし。グリンドのやつめ……自分だけ成功しようなどと思いやがって。そんなことがうまくいくと思うなよ」
そう言ってデュークは意地の悪い笑みを浮かべる。その表情に、伯爵に手紙を届けにいった部下も思わず戦慄した。すでにギルドは崩壊状態にあり、日々様々なトラブルが起こっていたが、もはやデュークは立て直しよりもグリンドへの嫌がらせだけに執心していた。今も受付の方からは依頼人や冒険者の罵声が聞こえてくる。今受付に残っている職員はデュークに弱みを握られているか、脅されて辞められなかった数名だけだ。
「ゴルギオンの新支部が潰れればそっちにいった奴らもまた戻ってくるだろう。そしたらまたこき使ってくれる」
デュークの怒りはグリンドだけでなく、自分の元を離れて彼の元に向かおうとした職員たちにも向かっている。が、もはや彼に意見する者も残っていなかった。
「デューク様、人手が足りません!」
受付からは悲痛な声が聞こえてくる。
「仕方ない、うるさいクレーマーを黙らせて来るか」
冒険者や客の中にはこちらの人手が足りないにも関わらず文句を言ってくる者がいるが、普通の職員たちは委縮してしまいなかなか言い返すことも出来ない。それをデュークは苦々しく思っていた。
「おい、早くランク昇進試験が受けたいんだが!」
「すみません、もう少しお待ちください」
「そんなこと言って、もう一週間もたつじゃねえか!」
今も荒々しい風貌の冒険者たちが職員を怒鳴りつけている。それに対して職員は謝ることしか出来ない。デュークは大股でどすどすと足音を立てながら歩いていくと、冒険者の前に出る。そして鋭い眼光で睨みつけた。
「おい、見ての通り今うちは忙しいんだ。昇進試験をやるのには手間と人員がかかる。もう少し考えて物を言え!」
デュークは職員を怒鳴りつけるのと全く同じ調子で怒鳴る。
言っている内容は完全に逆ギレであったが、デュークの迫力にはさすがの冒険者もたじろいだ。そしてしばらく仲間と顔を見合わせると、吐き捨てるように言う。
「くそ、もう二度とこんなところ来るか!」
「勝手にしろ。お前もあんな奴にへこへこするな」
「すみません」
デュークは冒険者に吐き捨てると、今度は謝っていた職員に当たる。
職員は再びひたすら頭を下げる。
「すみません、あなたがデュークさんでしょうか」
そこへデュークに声をかけてくる男がいた。年齢は三十ほどで身なりはきちんとしており、デュークが荒れていても臆せず話しかけている。冒険者という雰囲気ではないが依頼者だろうか。
「そうだが、誰だお前は。見ての通り列が出来ているから守ってもらえないと」
言いかけたデュークの言葉を遮って男は答える。
「私は王都のギルド本部からやってきた者です」
「お、ようやく応援が来るのか?」
デュークは少しだけ表情が明るくなる。一応人手不足解消のため、デュークは本部に応援要請をしていた。いい返事は来ていなかったが、ようやく人材をよこす気になったか。
が、男は首を横に振って答えるえる。
「最近こちらのギルドの状態が良くないのでギルドマスターを解任して欲しいという通報が多数寄せられておりまして、調査に参りました」
「何だと!? おい、そんな調査をしている暇があったら仕事を手伝え。どこにでもなんにでも文句をつけてくる輩はいる。そんな奴らの言葉に耳を貸すな」
瞬間、デュークの表情は再び烈火のごとき怒りに包まれる。
が、男は全く動じずに続ける。
「そんな奴ら、というお言葉ですが魔術師ギルドのそこそこ偉い方からも同じような苦情が寄せられております」
「魔術師ギルド? 関係ないだろ」
魔術師ギルドと冒険者ギルドは別組織である。関係あるとすれば魔術師ギルドの魔術師が冒険者業務を行うことがあるという程度だろうか。
「はい、ですが無視する訳にもいかず実際に確かめにきたのですが……思ったよりも酷い状況で驚きました。基本的に受付は一時間近くの待ち時間がありますし、書類管理にもミスが散見されます。また、トラブルがあった際の対応も杜撰なものです。これではもはや営業出来ているとは言えません」
「仕方ないだろ。人が足りないことはある」
「ですが、調査によると人が足りない原因はあなたの威圧的な言動により職員が次々と辞めていくからだそうですが」
「違う! それは奴らの仕事が悪いから叱っているだけだ!」
デュークは近くのテーブルを拳で殴りながら叫ぶが男はそれを平然と聞き流す。
「それはこのギルドの離職率を見れば分かることです。何にせよ、調査の結果あなたはギルドマスターとしては不適切な人物であることが発覚しました。数日のうちに新任のギルドマスターが派遣されてくるので引継ぎの準備をお願いします」
「何だと? 貴様ふざけやがって」
思わずデュークは拳を握りしめるが、周りには職員や冒険者が多数いる。
ここで騒動を起こしても勝ち目はない。
「覚えとけよ!」
結局デュークはお手本のような捨て台詞を吐いて職員を見送るしかなかった。
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