ミラ
俺がアルムの町に来てから二週間ほど経った日のことである。
「あの、グリンドさんに来客ですが」
「俺に?」
俺は呼ばれて受付に出ていった。この町には冒険者やギルド職員以外に大した知り合いはいないので、全く心当たりがない。
「ミラ?」
一体誰だろうと思って受付に出るとそこにいたのは旅装のミラだった。するとミラは泣きそうな表情でこちらを見る。
「一体何があったんだ?」
「実はデュークさんがグリンドさんに戻ってきて欲しいと言ってまして」
「嘘だろ?」
俺はデュークに嫌われていたので一瞬耳を疑った。
だが、ミラがわざわざ遠い町まで来て嘘をつくとは思えない。ということは本当なのだろうか。
「一体なぜ?」
「実は……」
そしてミラは今ギルドがうまくいっていない旨を説明する。
それを聞いて俺は頭を抱えた。確かに俺が辞めたら色々問題が発生するとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。
「すみません、辞めた後までご迷惑をかけることになってしまって」
ミラの方も申し訳ないやらどうしようもないやらですっかり悲しそうにしている。
「分かった。確かミラがずっとあそこで働いているのは給料がいいからだろう?」
「はい」
ミラは若くして両親が病で死に、一人で生計を立てていた。
この辺りで給料がいい職業と言えば専門的な知識を除けば力仕事ばかりだ。そんな中、ギルドの書類仕事であれば非力でも出来るため、彼女は理不尽な扱いを受けてもなかなか辞めることは出来なかった。
「それならいっそこの町に引っ越さないか?」
「でも、引っ越せるほどのお金はないです」
「幸い家は余っているから仕事が出来るならここのギルド長の口利きで安値で家に住めると思う。ミラは真面目に働いていたからきっと大丈夫だ」
「た、確かに。でも急にそんなことが大丈夫なのでしょうか?」
彼女も元の職場に戻りたくはないのだろう、俺の提案に期待する様子を見せた。
「分からない。だが一緒に頼んでみよう」
ミラをグリンドの元へ行かせてから数日後。
ただでさえ人手がないところからさらに一人を出張させたため、いよいよギルドは人手不足を極めていた。デュークも部下を怒鳴り散らしながら机に向かわなければならないことがどんどん増えていく。
その後一人新規採用をしたが、些細なミスをデュークが怒鳴りつけるとそれ以降出勤しなくなってしまった。
「くそ、どいつもこいつも無能ばかりめ。一度怒られたからといって来なくなるとは軟弱な。……にしてもミラのやつまだ戻らないのか?」
そんな時、デュークの元にアルムのギルド長から一通の手紙が届いた。さてはグリンドのやつめ、向こうでも問題でも起こしたか、と思いながらデュークは手紙を開く。
が、その文面に目を通すうちにデュークの表情はみるみる青ざめていく。
『貴ギルドの職員であるミラだが、当人たっての希望でこちらで雇用することにしたのでご一報入れさせていただく。なお、これは余計なお世話かもしれないが、貴ギルドでは労働環境をもう少し改善した方がよろしいのではないか』
「何だと!?」
手紙を読み終えるなりデュークは手紙をびりびりに引きちぎり、クズかごに叩きつける。
「おのれ、どいつもこいつも恩知らずな……」
しかしアルムのギルド長にそう言われてしまってはこれ以上どうすることも出来ない。
結局デュークは職員たちとともに遅くまで机にしがみつくようにして仕事をこなさなければならなかった。
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