パーティー結成 Ⅱ
「あのワイバーンはおそらく特異種だ。もし遠距離からブレスを吐いてくるようであればセレンは防御魔法を頼む。突っ込んでくるようであれば俺が迎え撃つからメリアはどうにか背後をとってくれ」
「分かりました」「分かった」
俺が急いで指示を出すとワイバーンは大きく口を開く。そして口の中に大きな火球が生まれたかと思うと、キェェェェッと絶叫しながら俺の身長ほどの太さもあるファイアブレスを吐いてくる。
やはり特異種だけあって普通のワイバーンよりも強そうだ。
「ホーリー・シールド」
それを見てセレンが後ろから防御魔法を飛ばす。
俺の前に魔力の壁が生まれ、そこにブレスがぶつかる。
ブレスと防壁がぶつかりまばゆいばかりの閃光が辺りを照らすが、少しずつ魔力の壁にひびが入っていく。
このままでは長くは持たないだろう。ワイバーンが空からブレスを吐いてくる限りどうしても一方的な戦いになってしまう。
「くらえ!」
そこで俺は足元に落ちていた小石をワイバーンに向かって投げる。小石はワイバーンの顔面の固い鱗に阻まれて地面に落ちていく。
それを見たメリアはあきれ顔になる。
「ワイバーンにそんなものが効く訳ないわ」
「分かってる。だがあのワイバーンは激怒している。そこにこんな子供だましの攻撃をすれば怒って急降下してくるだろう。そうなれば剣の攻撃も出来るようになる」
「そんなものなの?」
メリアは首をかしげる。
が、次の瞬間ワイバーンは俺に向かって一直線に急降下してくる。ワイバーンは体格や魔力には優れており誇り高い種族だが、知能は高くない。元から俺に対して怒り狂っていたのもあって、狙いは的中した。
「すごい……本当に降りてくるなんて」
「今のあいつは俺しか眼中にないはずだ。俺が戦っている間に背後をとってくれ。セレンは俺に強化の魔法を頼む」
「分かった」
「はい、エンチャント・ソード」
セレンの魔法で俺の剣が強化される。そこへ激怒したワイバーンが牙を剥きだしにしながら急降下してくる。日光を浴びてきらりと光った太い牙は触れただけで俺のことを真っ二つにしかねない鋭さだ。
俺はサイドステップを踏んで牙をかわすと、ワイバーンは右の鉤爪を繰り出す。俺はそれを剣で受け止めた。キイィン、と甲高い音が響いて爪と剣がぶつかる。
本来ならワイバーンとの打ち合いにも負けるつもりはなかったが、完治していない左手に力が入りきらず、俺は後ずさってしまう。そこへワイバーンの左の爪が俺の側面から襲い掛かる。
俺がすぐに避けようとすると、
「ホーリー・シールド」
セレンが防御魔法を展開してくれる。メリアと戦っている時に横から敵が来たら防御して欲しいと言ったが、それを俺にも行ってくれたらしい。
「ありがとな」
避ける必要がなくなったので俺は反撃に転じ、ワイバーンの右手に剣を振り降ろす。ズブリ、という鈍い感触とともにワイバーンの指が一本斬り落とされる。
その痛みにワイバーンは絶叫し、俺は思わず耳を塞ぎたくなる。
「覚悟!」
その隙にワイバーンの背後に回り込んだメリアが下腹部の辺りに剣を突き立てる。
ガキン、と鱗と剣がぶつかる鈍い音が響き渡ったがメリアの剣はワイバーンの体内深くに食い込む。パッと鮮やかな鮮血が飛び散った。
「よくやったメリア!」
「グェェェェェェェッ」
ワイバーンは悲鳴を上げると全身を激しくばたつかせる。剣から手を離すのが遅れたメリアはそれに対する反応が一瞬遅れ、ワイバーンが振り回した尻尾がぶつかる。ワイバーンの苦し紛れの一撃に、メリアの小さな体はボールの吹っ飛ばされていく。
「危ない!」
俺は慌ててメリアの落下点を目指す。
「きゃあっ」
そして間一髪でメリアの体を受け止める。メリアの体は俺の腕の中にすっぽりと収まった。
「ありがとう」
メリアは少し恥ずかしそうに礼を言う。
「大丈夫か?」
「ええ、吹っ飛ばされたからダメージはそんなに。でも剣が……」
確かにメリアの剣はワイバーンの下腹部に刺さったままだ。
「大丈夫だ、すでに奴は痛みと怒りで動きが出鱈目になっている。後は任せてくれ」
言うが早いか俺はのたうち回っているワイバーンに向かって駆けだす。ワイバーンは俺に向かって無我夢中で爪や尻尾を振り回してくるが、出鱈目な動きであるため避けるのは容易である。
攻撃の軌道は手に取るように分かったので、俺は止まっている障害物をよけるようにワイバーンの懐に飛び込む。
「喰らえ!」
そして必殺の一撃をワイバーンの心臓の辺りに繰り出す。
セレンの魔法で強化された剣がまっすぐにワイバーンの固い鱗を貫く。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」
ワイバーンは一際大きな断末魔の悲鳴を上げるとその場に倒れた。
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