悲報

「それじゃあ今日はパーティー結成初日ながらもワイバーンを倒せたことを祝って、ささやかながら乾杯!」

「「乾杯!」」


 ワイバーンを倒した後、俺たちは意気揚々と凱旋した……と言いたいところだが、初陣で思わぬ強敵と戦ったため、三人とも疲れ切っていた。

 ギルドに魔物討伐の報告をした俺たちは近くの酒場で祝杯を上げていた。目の前には香ばしく焼かれたチキンや肉がごろごろ入ったシチューなど普段より少し豪華な料理が並んでいる。

 俺も一人の時は質素な食事にしがちだったので、こういう料理を食べるのは久し振りだ。


「これまでしばらく一人でやってきたけど、やっぱりパーティーも悪くないわね」

「一人で魔物と戦ってきたなんて……すごいです」

「それはあなたが神官だからよ。前衛系の職業であればなかなか悪くないわ」


 俺たちはそれから他愛のない話をしながらゆったりと飲んだり食べたりを楽しんだ。メリアとセレンは性格が全然違うが、協力して強敵と戦ったためか少しずつ打ち解けていて、俺はほっとする。


 そして宴もたけなわになったと思ったときのことである。


「セレン様!」


 突然、ぼろぼろの旅装の男が酒場に駆け込んできた。

 そんな男を見るとセレンの表情が変わる。知り合いなのだろうか。


「あなたは確かレーゼに仕えていた……」

「はい、大変なことになりました。実は……」


 そう言って男は興奮した口調で話し始める。


「……と言う訳でレーゼ様は教会の腐敗を王都中に知らしめたのです」

「そんな……確かに大司教は悪い人だけどそんなことするなんて」


 セレンは元々穏やかな性格なのだろう、レーゼの報復の話を聞いて喜ぶというよりは動揺していた。

 そして男はさらに話を続ける。


「そして怒り狂った大司教はついに明確な証拠を抑えることなく私兵を派遣してレーゼ様の身柄を押さえたのです」

「何てこと……」


 セレンの表情が一気に蒼白になる。


「そして大司教は『もしセレンが戻ってきたらレーゼの身柄を解放する』と触れ回っているとか」

「そんな……私のせいでそんなことに」


 セレンは愕然とした様子でうなだれた。


「いや、セレンは悪くないわ。相手が悪いだけで気にすることはない」

「そうよ、気にすることはないわ」


 俺とメリアは懸命に励ますが、セレンの表情は変わらない。


「レーゼを助けるために私が行かなきゃ」

「そんな奴の言うことを聞かなくてもいいわ!」

「でも、私が行かないとレーゼが……」


 セレンが取り乱した表情で言う。その声は完全に震えていた。

 とりあえず落ち着かせなければ。


「落ち着けセレン。そういうことをする奴だ、ただのこのこ出かけていっても素直に解放してくれるとは限らない」

「でも、だったらどうやって……」

「それは分からない。だが王都に行くのは待ってくれ。何か方策を考えてから行こう」

「そうよ、そんな奴が大司教だなんて私も許せないわ!」


 メリアも顔に怒気を浮かべている。彼女は割と正義感が強いところがあるので大司教の悪行は話を聞くだけで許せないのかもしれない。

 俺も大司教の振る舞いには怒りがない訳ではない。しかしそれよりも、せっかく同じパーティーを組んだセレンが心を痛めていること、そして放っておけば一人で王都に戻っていきそうなことへの心配の方が大きかった。

 ちょうど、メリアが頼んでくれたおかげでギルド職員ではなく冒険者になっているというのもタイミングがいい。


「よし、どうすればいいか考えよう。まずは出来るだけ詳しく王都や大司教のことを教えてくれ……」


 こうして俺たちは今後のことを相談し始めたのである。

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