パーティー結成 Ⅰ
「この方が噂の聖女セレン?」
二人がギルドの待合室に現れると、メリアはセレンをまじまじと見つめる。そんな彼女にセレンは礼儀正しくぺこりと頭を下げる。
「初めまして、セレンと言います。よろしくお願いします」
「私は剣士のメリア。よろしく」
メリアの方も頭を下げる。
「それでは早速パーティーメンバーの件なんだが、実はギルド長から足りないなら俺が加わるよう言われてな」
「い、いいんですか?」
セレンは驚いたようだが、メリアは無反応だ。まるであらかじめ予期していたかのように。そんな彼女の反応を見て俺の中で何かが繋がる。
いくらギルド長でもいきなり俺に冒険者に戻るよう勧めるだろうか。それにメリアとは一度冒険者の仕事とは違うが、ヴェントレットを一緒に倒したこともある。
「もしかしてメリアがギルド長に言ったのか?」
「そうだけど。だってあなたが一番適任だから」
「そ、そうか」
そう言われると返す言葉もない。
「だが、俺はギルドの仕事もある。ずっと一緒にパーティーを組めるかは分からないぞ?」
「えー、パーティーメンバーがちょこちょこ変わるの良くないと思うけど」
メリアは不満そうに言う。それはそれでもっともだが、かといってずっと冒険者を続けると確約することは出来ない。
「とにかく、とりあえずは弱い魔物相手にお互いの連携を確認しよう」
「何と戦うの?」
「とりあえずはウルフだ」
ウルフは平原をうろうろしている魔物で、初心者が一番最初に戦うことが多い。魔物と言ってもほとんどただの動物で、強さも大体はFランクである。そんなウルフの名前を挙げたのでメリアは不満そうな顔をする。
「私、一人でももっと高ランクの魔物を倒せるけど」
「他人と力を合わせて戦うのは最初のうちは一人で戦うより難しい。メリアのことだし、ヴェントレットたちと一緒に戦った時よりも今の方が楽に戦えると思っているんじゃないか?」
俺の言葉にメリアは納得したような顔になる。
「それは確かに。敵が後衛に抜けないようにとか、味方の魔法がどこに飛んでいくかとか考えないといけなかった」
「だから、まともな敵と戦う前に一度息を合わせておく必要がある」
「そんな難しいこと、出来るでしょうか?」
今度はセレンが不安そうな表情で尋ねる。
「大丈夫だ。何だかんだどの冒険者も出来るようになるからな」
「はい、では頑張ります」
「それなら行こう」
俺たちはギルドを出ると、街の外に広がるだだっ広い平原に向かう。基本的に人の往来がある街道周辺に魔物が近づくことは少ないが、道がない辺りを歩けば飢えたウルフがうろうろしていることが多い。
「そう言えばセレンはどんな魔法が使えるんだ?」
「はい、治癒系は大体使えます。これまであまり使ったことはないですが、防御や強化の魔法も一応使えます」
「え、そんなに!? さすが聖女と呼ばれるだけはあるわ」
セレンは何でもないことのように言うが、メリアは目を丸くして驚いていた。
そんな二人に俺は簡単な指示を出す。
「それならセレンは戦いの最初にメリアに強化の魔法をかけてくれ。防御の魔法だが、メリアの正面から攻撃してきた魔物には使わなくていい」
「どうしてですか?」
「メリアなら正面から戦えば大体の魔物に負けることはない。下手に防御魔法を使うとかえって攻撃の邪魔になる」
「なるほど、分かりました」
セレンは緊張した面持ちで頷く。
するとちょうどいいタイミングで、遠くに三匹のウルフが歩いているのが見えた。
「よし、あれを倒すぞ。俺は奴らがセレンの元に抜けてこないようにだけ気をつけるから基本的に二人で戦ってみてくれ」
「分かった」「はい」
俺の言葉に二人は同時に頷く。
ウルフの方もほぼ同時にこちらに気づき、猛然と走ってくる。
「エンチャント・ソード」
早速セレンがメリアの剣に強化魔法をかけ、刀身が白く輝く。
「行くわ!」
メリアは向かってくるウルフに斬りかかっていく。ウルフたちはメリアが突っ込んでくるのを見るとさっと三手に別れる。そして二匹はメリアの左右から襲い掛かる。
「ホーリー・シールド」
セレンが魔法を唱えると両側のウルフの前に白く輝く魔法の壁が現れ、行く手を阻まれる。その間にメリアの剣が一閃し、正面のウルフが倒れる。
「次はこっちよ!」
メリアが今度は左手のウルフの方を向くので俺は慌てて叫ぶ。
「セレン、左の防御魔法を解除するんだ」
「分かりました」
メリアが剣を振り上げた瞬間防御魔法が消滅する。ウルフがそれに反応してとびかかるよりも早く、メリアの剣が一閃し、ウルフを倒す。
それを見てセレンは右側の防御魔法も解除する。
仲間が瞬く間に二匹殺されたウルフは逃げ出そうとするが、メリアは瞬く間に追いすがると、背後から剣を振り降ろし、一刀両断にする。
こうして瞬く間に三匹のウルフは全滅した。
「初めてにしてはいい連携じゃないか」
「緊張しました……左右の防壁を解除するとき、思わず両方いっぺんに解除してしまいそうでした」
「まあいざというときは俺が何とかするから最初はとにかく慣れるようにしてくれ」
「はい」
そう言ってセレンは汗をぬぐう。
「ウルフだったら三方向から襲われても大丈夫だけど、もっと強い魔物相手だったらサポートがあるのはありがたいわ」
メリアもほっと一息つく。
「よし、この調子でもっと数をこなそ……」
俺が口を開きかけたときだった。
突如空気を切り裂くような絶叫とともに巨大な影が町へと飛んでいくのが見えた。
「あれは……ワイバーン!?」
さすがのメリアの表情も変わる。俺がこの前戦った時は狭い巣穴の中にいてしかも寝起きだったが、今のワイバーンは怒気に包まれている。もしや俺が倒したワイバーンのつがいだろうか。しかもあのワイバーンは翼に独特の斑点模様がある。あれはもしかすると特異種の可能性がある。特異種というのは種の中でも特に魔力が多い個体で、外見に何等かの特徴がある。
するとワイバーンがぎろりと視線をこちらに向ける。
そして俺を見ると一際大きな咆哮を上げる。くそ、俺のせいで二人の初陣に大変な敵と戦わせてしまうことになろうとは。
「悪い、俺の因縁の相手に巻き込んでしまって」
「いえ、やりがいのある相手が出て来て嬉しいぐらいよ」
「はい、グリンドさんとメリアさんとならやれる気がします」
「ありがとう」
俺たちは休む間もなくワイバーンに向かって剣を構えた。
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