採掘
翌日、ギルムたちは早速鉱山に向かうことになった。俺たちもそれについていくことにする。
「でもあの辺の魔物は大分退治したわ。今更大した奴らも残ってないのに私たち必要?」
メリアが疑問を口にする。
「だが、人がたくさん移動すれば魔物たちはその気配をかぎつけてやってくるものだ」
「なるほど」
二十人もの大所帯であれば一食分しか持ってなかったとしても食糧を奪うだけで十分な量になる。魔物からすれば恰好の的であった。
洞窟につくと、ギルムたちは手に手に松明を持ちながら入っていく。中に敵が残っていないことは確実なので俺たちは最後尾を歩いて後に続いた。
アリカが焼却した毒沼に着くと、ギルムは専用と思われる金属の棒で地面を叩いて回る。そしてそのうちいくつかの場所に印をつけると、さっと三手に別れる。それぞれの場所で一番体格が大きい者がつるはしで地面を砕く。
ある程度穴が大きくなると、スコップを持った者たちが土を掘り始める。それを残りの者が荷車に入れて運び出す。俺たちは土の運搬の邪魔にならないよう洞窟の壁の側に立って作業を眺めていた。
「手伝わなくても大丈夫なのでしょうか?」
それを見てセレンが声を上げる。魔物が襲ってくる気配は全くなく、真面目な彼女は隣で一生懸命働いている彼らを何もせず眺めていることに罪悪感を抱くのだろう。セレンは力はないが、魔法を使えば何等かの役にはたてるかもしれない。
「大丈夫だ。むしろ彼らはかなり連携がとれている。俺たちみたいな素人が入っていくとかえって邪魔になるかもしれない」
「私たちだってパーティーに武器の使い方も知らない人がついてきてくれてもかえって困るでしょ? それと同じよ」
「なるほど」
セレンが納得したように頷く。
さらに作業を見ていると、どんどん穴は深くなっていく。時折穴の中からは土だけでなく鉱石も出て来るらしく、穴の周囲に積まれていく。そしてある程度穴が深くなると採掘は中断され、崩落を防ぐために木の板を使って支えが作られる。
こうして俺たちが何かするまでもなく、あっという間に作業は進み一日が終わった。
「ふう、思ったよりも鉱石がありそうで良かったわい」
ギルムが大きく伸びをしながら言う。
「碧鋼もよく出るが、おそらく玉鋼もあるだろうな」
「本当か!?」
俺は思わず声を上げてしまう。近くの洞窟で碧鋼が出たのでここでも出ると思っていたが、まさか玉鋼まで出るとは。
玉鋼というのは現状もっとも固いとされる金属である。そのためしばしば近衛騎士の鎧などに利用され、かなり高値で取引される。
「とはいえ鉱石は運び出してから精錬しなければ使い物にならない。実際に利益が出るのはもう少し先になるがな」
「まあその辺はどうにかするしかないな」
鉱石のまま運ぶと量も重さも著しくかさんでしまう。それに精錬してから売った方が当然高値で売れる。将来の利益のためにはもうひと手間かけた方が良かった。
採掘が進んでいることが分かればギルドマスターも俺たちに援助してくれるだろう。鉱石の精錬が終わり、玉鋼や碧鋼が出荷できるようになれば元はとれるだろう。
「よし、皆の者、村に帰って飲むぞ!」
「おおおおおおおおおおお!」
ギルムの掛け声に男たちが応じる。
「じゃあ私たちも帰ろうか」
「そうだな。二人はギルムたちの帰り道の護衛を頼む」
「え、あなたは?」
「ここには堀りかけの鉱石がある。さすがにほったらかしにすることは出来ない」
俺の言葉に二人は驚く。この洞窟で一晩見張りをするのは例え何も襲って来なかったとしても体力的に過酷だからだ。
「それなら私たちも」
「帰り道の護衛も仕事は仕事だ。それに魔物は鉱石には興味がないからむしろ帰り道の方が危険だ」
俺の言葉にセレンも不承不承頷く。
ギルムたちが去っていってしばらくすると、あれほど賑やかだった洞窟内もすっかり静まり返る。
「そう言えば最近はあの二人と一緒に行動することが多かったから一人になるのは久し振りかもしれないな」
そう思うと少し静寂が寂しく思えてくる。しかも見張りである以上、起きてなければならない。仕方がないので俺は一人剣の素振りをする。左手を負傷して以来さぼりがちになっていたが、今の俺はギルドマスターでありながら冒険者並みに戦闘機会がある。またちゃんと鍛えなければ。
そんなことを考えて剣を振っていると外から物音が聞こえてくる。
「お、ついに来たか。ちょうど暇してたところだ、付き合ってやるぜ」
俺はつい魔物が現れたというのにわくわくしてしまう。そして足音を消しながら外へ向かう。
暗闇から歩いてきたのは荷車を引いたゴブリンたちの群れであった。暗闇の中で鈍く目が光っているのが見える。
「ちっ、せっかく俺が見張っていたのに大したことない奴らだ。それに荷車を引いてくるなんてもう勝ったつもりか?」
俺は剣を構えると一目散にゴブリンの群れに突っ込む。それに気づいたゴブリンが慌てて棍棒を振り上げてくるが、遅すぎる。すぐに懐に飛び込んで心臓を一突きにする。俺の動きに他のゴブリンたちがついてこられない間にまた動き、次の奴を殺す。筋力は人間並みにある小鬼たちも、素早さは大したことがなかった。
数で勝っていると思っていたゴブリンたちはすぐに恐慌状態に陥った。やがて荷車を捨てて我先にと逃げ出していくのだった。
翌日、日が出た後にやってきたギルムたちは洞窟の入り口に転がる十数体のゴブリンの死体を見て困惑した。
「い、一体何があったんだ?」
「昨夜急に襲ってきてな。洞窟の入り口が邪魔になったのは悪いと思う。代わりといってはなんだが、これを使ってくれ」
そう言って俺はゴブリンたちが投げ捨てていった荷車を指さす。
「それは助かるが……何と出鱈目な強さだ」
今回ばかりはさすがのギルムも呆気にとられていたのであった。
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