冒険者ギルド
その後も採掘は順調に進み、たくさんの鉱石が発掘された。そしてそういう噂というのはどこからともなく広がるものである。
数日後の夕方、ゴルギオンに四人組の冒険者パーティーが現れた。腕はおそらくCランクぐらいのオーソドックスなパーティーだ。この日はたまたま鉱石を村に運んだ日だったということもあり、俺は洞窟の番をせずにギルドに戻る途中で声をかけられた。
「アルムから来たんだが、ここがこの村のギルドか?」
リーダー風の剣士の男が言う。確かにギルドは今のところただの大きめの空き家であり、併設されている酒場ばかりが賑わっているので分かりづらい。ぼろい看板に小さく「ギルド」と書いてあるが、初めて来た冒険者は不安になるだろう。
「そうだ」
「最近この村周辺で碧鋼の鉱脈が発見されたと聞いてやってきたんだ」
「耳が速いな。ちなみに君たちはこの村に来た冒険者パーティー第一号だ。おめでとう」
「げっ、まじかよ」
四人組は俺の言葉に驚きの声を上げる。メリアやセレンは半分ギルドの手伝いみたいなところもあるから第一号というよりはゼロ号という感じだからな。
「いや、逆に考えれば俺たちが依頼を選び放題ということだろ?」
「そうだ、アルムだと上がたくさんいたが、ここでは俺たちが最強ということだ」
冒険者たちはそう言って自分たちを鼓舞している。実際、そのくらいの気持ちがないと冒険者なんてやってられないだろう。
「ん? でも冒険者がいないというならあなたは何者なんだ? 見たところ冒険者っぽいが。しかもかなりの腕前だろ?」
「俺はギルドマスターだ」
「そ、そうだったのか」
「正直毎晩毎晩鉱山の見張りをするのは飽きたから、もしやってくれるというなら報酬は弾むぞ」
本来は俺が報酬を決めるのもおかしな話ではあるが、今は依頼者と請負人の線引きが曖昧なのでその辺は融通を利かせている。ちなみに発掘された鉱石の利益の取り分などは元々ギルムたちに声をかけたアルムのギルドマスターが仲介して決めてくれている。
「今まで全部ギルドマスターがやってたのか……大変だな」
「まあな。だが逆に冒険者がいなかったから本来の業務はなかったが」
俺が肩をすくめて見せると、彼らは笑ってくれた。
「そうか、それなら俺たちがギルドマスターを本来の業務に戻してやるか」
「まあとりあえず依頼はまとめてある。さすがに今晩は休んで欲しいが、良かったら明日からでも代わってくれるとありがたい」
まとめてあると言っても今ある依頼は、採掘中の護衛と夜の見張り、そして出来高払いになる魔物狩りの三つしかないが。
俺は中に入ると壁に貼ってある依頼を見せる。ちなみにその横ではすでにギルムらの飲み会が始まっている。飲み会に参加する村人も少しずつ増えてきているようで微笑ましい。
「うおっ、見張りだけでこんなに報酬が出るのか……わざわざ来た甲斐があったぜ」
「でも報酬が高いってことは危険な魔物が出るんじゃないか?」
「今のところゴブリンぐらいしか出ていないが、一応何が出てくるか分からないから余裕を見てCランクにしてある。この四人なら簡単だと思うぞ」
「俺たちの実力もあっさりお見通しか。さすがギルドマスター様だ」
この冒険者たちがやってきたのを皮切りに、翌日から主にアルムからちらほら冒険者たちが集まってくるようになった。
「何だか急にギルドっぽい仕事が増えてきましたね」
これまで酒場の手伝いばかりだったミラが言う。ちなみに酒場の方は村人を雇って料理をしてもらっている。元々プロの料理人がいた訳でもないので、外の料理の作り方だけ教えれば問題なかった。
「そうだな。でもこの程度ならまだアルムよりも暇だろ?」
「そもそもブラントの時のことを思い出せば全然です」
あの時は明らかに処理不能な量の仕事をやれと言われ続けていたからな。デュークの失脚後、有能な人物がギルドマスターになってくれることを願う。
「そうだな。これからは冒険者ばかりでなく、鉱山で働く人物も必要だし、鉱石の精錬工場も建てないといけない。忙しくなるぞ」
「はい、頑張ります」
ギルムたちは鉱石精錬の技術を持っているが、採掘と精錬を全てギルム一行にさせるのは無理がある。それに鉱石の運搬や土砂の運び出しなど技術のいらない力仕事も結構ある。魔物の襲撃で職を失った村人の雇用なども行っていたが、それだけではすぐに足りなくなりそうだった。
「後は求人をアルムの方でも募集してもらわないといけないな」
鉱山の見張りがなくなった代わりに、別のことで俺は忙しくなりそうだった。
そこで俺はふと気づく。
「結局俺ってギルドマスターというより鉱山経営者みたいな仕事になってないか?」
俺が思うギルドマスターの仕事に専念できるようになるのはもう少し先になりそうだ。
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