エピローグⅠ
「このたびは本当にありがとうございました」
レーゼを救出した後、俺たちは王都から少し離れた小さな村の宿に集まり、ようやく息をついた。そこで改めてレーゼはぺこりと頭を下げる。
「私からも、本当にありがとうございます」
それに合わせてセレンも頭を下げる。確かに一歩間違えれば大変なことになる、とはらはらさせられたがそこまで頭を下げられると恐縮してしまう。
「いや、俺もあの大司教は許せなかったというだけだ。そんなにかしこまらないでくれ。それに今回はメリアも一歩間違えれば大変なことになる役回りをしてくれたからな」
「え、私?」
突然話を振られて少し困惑するメリア。
しかしもし屋敷にもう少し腕の立つ相手がいればメリアはあの場で捕まるか、殺されていた可能性すらある。それに、八百長だとばれないようにうまく戦ってくれた。
「はい、メリアさんもありがとうございます」
「いやいや、私なんか別に」
普段は強気なメリアだが、あまり褒められなれていないのか、今は少し頬を赤くして照れている。
「でも俺と戦った時の演技は凄かった。多分あれが八百長だったと見抜ける奴はいないし、俺でさえ一瞬命の危険を感じたほどだったからな」
「それはその……グリンドさんと手合わせ出来るのが楽しくて、つい本気を出してしまったから。まあ、それでも勝てなかった訳だけど」
メリアが悔しそうに、少し申し訳なさそうに言う。まじかよ。道理で迫真だった訳だ。
「そうだったのか、それは俺も危なかったな」
俺の言葉にレーゼがくすりと笑う。
地下牢で見かけてからずっと緊張しっぱなしだったので笑ってくれたのは何よりだ。
「ところで皆さんはこれからどうされるんですか? もしよろしければしばらく私の家に……」
「いや、気持ちはありがたいがほとぼりが冷めるまでしばらく身を隠していた方がいい。俺たちももう王都を離れようと思う」
俺はレーゼの言葉を遮るように言う。俺はレーゼを助けることが出来ても教会の政治を改革したりとか王国の政治に口を出したりは出来ない。だとしたら長居しすぎても揉め事の種を増やすだけだ。
「そんな……」
俺の言葉にレーゼは愕然とした表情になる。
「大丈夫だ、大司教も今では屋敷の兵力をレーゼの追手に回す余力はないはずだ。姿を隠して宿にでも泊まっていれば無事だろう」
「いえ、そうではなく、せっかく助けていただいたのに何のお礼も出来なくて」
「大丈夫、グリンドさんへのお礼は代わりに私がしておくから」
「え、じゃあセレンも一緒に行っちゃうの?」
レーゼはますます寂しそうな顔をする。
「うん。やっぱり私は教会に籠って偉い人の病気を治すよりも、冒険者として人々のために直接役に立ちたい」
セレンは決然とした表情で言う。
しかし普段俺と話すときのセレンは丁寧な感じだが、レーゼと話すときは打ち解けているので、見ていて少し新鮮だ。
「そっか。確かにセレンは昔からそうだもんね。あーあ、でもずるいな。セレンは」
そう言ってレーゼはちらりと俺の方を見る。
「そんなことはない。確かにレーゼから見るとセレンの方が人々の役に立てているように見えるかもしれないが、レーゼみたいな人が教会にいないと、ああいう大司教みたいなやつをのさばらせてしまう。だからどっちの方が重要とかどっちの方がいいとかそういうことじゃない。レーゼの仕事だって重要だ」
「そういう話じゃないですが……あなたにそう言っていただけるのであれば、この先も頑張ります」
じゃあどういう話なんだ、と思ったが、レーゼの表情に明るさが戻って俺は安堵する。
「頼んだ。俺たちは魔物を倒すことは出来ても、国や教会を良くすることは難しいからな」
「はい! ではあの、お礼も出来ていないまま図々しいですが、一つだけ我がまま言ってもいいですか?」
「何だ?」
「今夜だけは一緒に寝てもらえませんか?」
レーゼは少し恥ずかしそうに言う。
助かったとはいえ、ここ数日ずっと牢に閉じ込められていて怖がっているのだろう。
「分かった。それで安心できるのであれば」
「ありがとうございます!」
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