嫌われ者の末路
翌日、アルムの町に移住するかどうか悩んでいたBランク冒険者の二人がワイバーンの卵を持って意気揚々と山から帰ってくるのを見て、門番をしていたゲルドの手下は眉をひそめた。
普通Bランク冒険者がワイバーンの巣穴に忍び込むのはかなりの危険が伴う。それを避けるために自分たちに頭を下げてくるか、もしくは尻尾を巻いて逃げ去ると思っていた門番は首をかしげた。
とはいえ、たまたまワイバーンが留守だったり、たまたま気づかれずにうまくいったりという可能性もない訳ではない。
「こほん、よく卵を持ち帰ったな。これでお前たちもこの町に住む資格を与えよう」
門番はとりあえず気を取り直してそう言い、卵に手を伸ばす。
が、二人の冒険者は卵を背負い袋にしまった。
「嫌だね。これは俺たちが持ち帰ってきたんだ。お前らなんかに渡すものか」
「そうか。ならばこの町から出ていけ!」
「言われなくてもお前たちみたいなやつがいる町に住み続けるのはこっちだって御免だ。荷物だけ回収してさっさと出ていくさ」
そう言って冒険者たちはさっさと町の中へと戻っていく。
それを見て門番の二人は顔を見合わせる。
「あいつら、思ったよりも腕が立つ冒険者だったのか?」
「いや、昨日卵の話をしたときは動揺していた。きっとたまたま運が良かったのだろう」
二人はそう言って顔を見合わせるしかない。
が、異変はそれだけではなかった。さらにその翌日に町にやってきた冒険者にも同じことを言ったところ、次の日には山頂から卵を持ち帰ってきたのである。それで町に居座るようであれば袋叩きにするところではあったが、彼らは町を後にしたのでそれも出来なかった。
「おい、これは一体どういうことだ!」
その日の晩、ゲルドは自宅に一味を呼び集めると顔を真っ赤にして叫んだ。
元々凄腕の剣士だったゲルドは山賊の頭領のような風貌で、怒鳴りつけると十数人の部下たちは一様に委縮して下を向く。
「何で立て続けに雑魚冒険者が卵を持ち帰ってくるんだ!」
「……」
迂闊なことを言うとゲルドはさらに怒り出すので皆ひたすら無言で下を向く。ゲルドはしばらく彼らを見回したが、無駄だと分かると口を開く。
「とりあえず一度山に確認に行くぞ」
「は、はい」
元々手下たちは山に入ることを怖がってゲルドに従っている者たちなので怖がっていたが、ゲルドに逆らうことは出来ない。
こうして彼らはぞろぞろと列を作ってカラカラ山に乗り込んでいった。途中斜面を登る途中で何匹ものトカゲたちと遭遇し戦闘になったが、ゲルドはどうにか彼らを返り討ちにした。途中、部下たちが負傷してもお構いなしである。
どうにか山頂に辿り着いた時にはすでに満身創痍であったが、ワイバーンの巣穴につく。
「もしや、ワイバーンがいなくなったのか?」
巨大な巣穴からワイバーンの気配が消えていることにゲルドは首をかしげる。仮に近くに狩に出ていたとしてもこの大人数で巣穴に近づけば、襲い掛かってくるはずだった。
「俺は中を見にいく。お前たちは外を見張っていろ」
そう言ってゲルドは巣穴の中へ降りていく。そしてランタンの灯りをともして辺りを照らすと目を疑った。
そこにはワイバーンのものと思われる真っ赤な血で染まった地面が広がっていた。
「もしや誰かがワイバーンを倒したのか!? くそ、道理で奴ら簡単に卵を持って帰る訳だ。しかしワイバーンを倒せる奴なんてこの町にはいなかったはず……」
ゲルドが言ったときだった。
暗い巣穴の奥で何か呪文を唱えるような声が聞こえたかと思うと、突然ガラガラと音を立てて巣穴の天井が崩れ始める。
「何だ!? こんなことが突然起こる訳ない! お前たち、ロープを垂らせ!」
ゲルドは上にいる部下たちに向かって叫ぶ。しかし彼らは別にゲルドのことが好きで従っている訳ではなかった。ゲルドに従っていればゲルドが魔物を狩った時に分け前をもらえるため、もしくは脅されて仕方なく従っていた者たちばかりだった。
彼らは突然起こった崩落に慌てふためき、転がるように斜面を駆けおりていった。
「うわああああああああ!」
ゲルドは頭上から落ちてくる岩の直撃を受けてその場に倒れる。
「せめて自分の部下にはもう少し優しくしておくべきだったな」
ふと声が聞こえたのでゲルドは自分の上にのしかかる岩の隙間からそちらを向く。
するとそこには数日前に訪れた一人旅の冒険者が立っていた。先ほどからずっといたのだろうが、全く気付かなかった。もしやこの男に図られたのだろうか。
「もしや……お前がワイバーンを倒したのか!?」
「そうだ。お前が旅人に無茶を吹っかけても町の人に慕われているようであればわざわざこんなことはしなかったが、至るところでお前の苦情を聞いた。何でも、言うことを聞かない奴は寄ってたかって暴力を振るって町から追い出してきたらしいな」
「くそ……これまで俺が守ってやっていたというのに恩知らずな」
そう言ってゲルドはうめく。
「それでも部下たちに慕われていれば誰かが助けてくれるだろう。せいぜいそれを祈るんだな」
「くそ野郎! 待ちやがれ!」
ゲルドは怒号したが、男はそのまま立ち去っていった。
ゲルドがそのまま瓦礫の下で埋もれてしまったのか、誰かが彼を助けたのかは不明だ。だが、その後彼の姿を見た者はいないという。
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