凱旋
「やった……俺は勝ったんだ」
目の前で死んでいるデーモンを見て俺は心の底から喜びが湧き上がってくるのを感じる。
「やったわね、グリンド」
「おめでとうございます」
「まあ、私はグリンドなら勝つと思ってたけどねー」
三人が俺にお祝いの言葉をかけてくれる。
ふと俺はこれまでどこか違和感が残っていた左腕が普通に動くようになっているのを感じた。
これはもしや、俺がデーモンに対するトラウマを克服したからだろうか。傷自体はとっくに治っていたのに、どこかあの時の恐怖が脳裏にこびりついていて、強い魔族と戦わないように俺をさせていたのかもしれない。だが、それも今日で終わった。
そう思うと俺は不意に目頭が熱くなるのを感じる。
「本当にありがとう……二人とも」
「ちょ、ちょっと何であなたが泣いているの!?」
俺が急に泣きそうになったせいでかえって二人を驚かせてしまったらしい。
「いや、何でもない、個人的なことだ。でも皆がいてくれて本当に良かった」
「な、何言ってるのよ。私たちはずっとあなたにおんぶにだっこだっただけで」
「そうですよ、レーゼの時も助けてもらったじゃないですか!」
「でも俺一人だったら多分この過去をのりこえることは出来なかったんじゃないかって思ってな」
そもそも二人がいなければ俺はまた冒険者としての仕事をしようという気にならず、ずっとギルドに引きこもって事務仕事だけをしていたに違いない。
「そんなことないと思うけど……まあ力になれたなら素直に嬉しいわ」
「はい、私も足手まといになってないか、ずっと不安だったんです」
俺の言葉に二人は安堵の息をつく。実際最初は頼りなく思うところもあったが、今ではきちんと背中を預けられる仲間になったと思う。
それからひとしきり俺たちは互いへの感謝を言い合った。そしてやがて我に帰る。
「あれ……そう言えばあいつは倒したけど、ちゃんと残党が残ってないか確かめないとな。安全確認もせずに喜びに浸っているようじゃまだまだだ」
俺の言葉に二人もはっと我に返る。確かに親玉のデーモンを倒したが、だからといってここが敵地であることに変わりはない。
そこへあきれ顔のアリカが戻ってくる。
「いや、感動しているところを邪魔するのもあれだったからその辺は私がやっといたよ?」
「悪いな」
「まあ別にいいけどね、大したのは残ってなかったし。これで私たちの出る幕は終わりかな。こっちこそわざわざ来てもらってありがとな」
「いや、俺も呼んでもらって嬉しかった。……それとギルムもありがとな」
俺たちを見て輪に入れずにいるギルムにも声をかける。せっかく剣を届けてくれたのに、彼を放置して盛り上がってしまい少し申し訳ない。
「いやいや、わしなんて何もしておらん」
「何言ってんだ。あの剣じゃなければあいつには勝てなかった。届けてくれてありがとな」
「はは、オンドルのやつが『このわしが打った剣が魔族との戦いに間に合わないなど許されぬ!』と息巻いていたから大急ぎだった」
「そうか、ならオンドルにも土産話を聞かせてやらないといけないな」
「違いない」
「じゃあ帰って祝杯でもあげよう! 費用は伯爵に出させるから好きなだけ飲んでいいよ!」
「おおお!」
アリカの言葉に俺たちも湧きたつ。
こうして俺たちは凱旋するのであった。
ブラックギルドの職員、パワハラとクレーマーに堪えかねて退職するが実はSランク冒険者だった~実力を認めてくれる新天地で新たな仲間と出世する~ 今川幸乃 @y-imagawa
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