メリアの策
セレンと別れた翌日、朝一番にメリアがやってきた。メリアもセレンと同じようにすごい力を持ちながらもランクは低いままという境遇である。しかも彼女の性格的に相手がセレンであっても過剰に気を遣うということはなさそうだ。
「ちょっといいか?」
俺はメリアに声をかける。
「どうしたの?」
「実はメリアとパーティーを組むのにおすすめの人物がいるんだ」
「グリンドさんの紹介なら間違いはないと思うけど……どんな人?」
メリアは少し硬い表情で答える。一度騙された彼女はパーティーを組むという行為に抵抗があるのだろう。
「セレンだ」
「嘘!?」
俺が答えると彼女は少しぎょっとしたようだった。セレンの噂は瞬く間に広がっていったからメリアもすでに聞いているのだろう。
彼女は少し驚いていたが、やがて言葉を選びながら答える。
「意図は分からなくもないけど……でも大丈夫? 確かに私たちの組み合わせは悪くないけど、うまくやっていけるかな」
「そこが問題なんだよな。もう一人ぐらい、ある程度経験と実力があって信用出来る、二人の間を取り持てるような人がいればいいんだが」
「いるじゃない」
メリアが何かを小声でつぶやく。
「? 何か言ったか?」
「いや、別に。そういうことなら次の依頼を受けるのはパーティーの件が片付いてからにするわ」
そう言ってメリアはそっぽを向く。一体どうしたのだろうか。
「分かった。せっかく依頼を受けに来てくれたのに遮るような形になって悪いな」
「いえ、私のことを気にしてくれるのは嬉しいから」
そう言ってメリアは去っていった。
メリアに言った通り、メリアとセレンという初心者二人にパーティーを組ませるならもう一人ある程度経験がある人がいた方がいい。人数が増えると戦力は増えるが、それはあくまで連携がとれればの話だ。
「うーん、どうしたものか」
「メリアの件かね」
俺が頭を抱えていると、突然話しかけられる。顔を上げるとそこにはギルド長が立っていた。そう言えば俺は他人に相談するということをしていなかった。ギルド長なら何かいい知恵を出すか、もしくは条件に適した人を紹介してくれるかもしれない。
「そうなんです。実は……」
俺はここまであったことをかいつまんで話す。
「グリンド君は冒険者にかなり深入りするタイプじゃなあ」
「すいません、本来の仕事もあるのに」
言われてみれば俺のやっていることは本来の仕事から逸脱している気はする。もちろん広い意味ではギルドの役に立ってはいるはずだが。
「いやいや、いいのじゃ。結果的にそれでうちの評判はうなぎのぼりでわしも鼻が高い。だが、おぬしは実はギルド職員に向いていないのではないか?」
「それはどういう意味でしょう?」
俺は突然自分を否定されたような気がして驚く。自分で言うのもなんだが、俺はまあまあ仕事が出来る方だと思っていた。が、ギルド長はいたずらっぽく笑う。
「おぬしはやはり職員よりも冒険者に向いているんじゃないかという話だ。職員は町の冒険者全体を満遍なくサポートするのが仕事だが、冒険者であれば特定の人を深く助けることが出来るからのう」
「なるほど」
言われてみればそれは確かにそうだ。俺がやろうとしていることは完全に後者に近い。ここに来てからもメリアやセレンに入れ込んでしまっていた。それが間違っていたとは思わないが、ギルド職員の仕事ではない。
「と言う訳でおぬしにはしばらく暇をやるから思う存分冒険者をやってみるのはどうじゃ」
「でも、ギルドは大丈夫ですか?」
「まあな。コリンズのやつも最近は頑張っているし、ミラちゃんもすっかりここの仕事に慣れたようじゃ。もちろんおぬしの抜ける穴は大きいが、色々あって強力な冒険者の戦力も必要でのう」
そう言ってギルド長は意味ありげに笑う。そういえば最近はギルド本部とやりとりすることも増えているが、何か重要な任務でもあるのだろうか。
「分かりました。それならお言葉に甘えて」
左手の傷はほぼ治っている。剣はフルパワーという訳にはいかないが、魔法も使えば普通に戦うことは出来るだろう。そう考えればこれはいい機会なのかもしれない。
俺は早速メリアとセレンに連絡するのだった。
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