その後俺たちは現地に向かう人員の選出、資金や物資の準備などを行い、ゴルギオンに旅立つこととなった。


「引き受けてくれて礼を言う。もし何か必要なことがあればいつでも言ってくれ」


 出発間際、改めてギルドマスターが言う。


「ああ。むしろこっちこそ人手が減ってしまうが大丈夫か?」


 俺はメリアとセレンの他にミラをはじめとする職員三人を連れていくことにしていた。実はデュークの元で働かされている職員にも誘いをかけているが、彼らは遠い上に辞めるとなれば妨害されるかもしれず、遅くなるだろう。


「大丈夫だ。最近はコリンズのやつもおぬしに触発されたのかメキメキ頑張っておるし」

「ちょっとマスター、そんなこと言わないでくれ」


 それを聞いたコリンズは慌てて否定するが顔が赤くなっている。以前からの彼を知る職員たちは小さく笑った。


「まあ色々あったけど、元気でやれよ」

「大丈夫だ、お前なんかいなくてもこっちはしっかりやる」


 そう言って彼はそっぽを向く。ミラや旅立つ職員たちもそれぞれお世話になった人たちと挨拶を済ませる。


「では行ってくる」


 こうして俺たちはゴルギオンに旅立った。




 夕方ごろ、日が暮れる直前に俺たちはゴルギオンに到着する。王国は基本的に平地が多いが、村は山を少し登ったところにあるため山道を登らなければならず、体力のある俺とメリア以外は疲れていた。

 村を見ると、そこはすでに大規模な戦闘でも起きた後のように建物は崩れ、そこら中がちらかっている。もう夕方とはいえ、ほとんど人を見かけない。


「気を付けろ、おそらく何かあった後だ」


 メリアとセレンだけならともかく非戦闘員であるギルド職員も連れているから油断は出来ない。俺は彼らを後ろにかばうようにして慎重に進む。

 そんな俺の危惧を裏付けるように、どしんどしんという足音とともに、山から数体のトロールたちが降りてくる。トロールというのは褐色の肌をした二メートル以上の身長を持つ巨人だ。人間より一回りも二回りも立派な体躯を持ち、大きな棍棒を振り回している。山に棲息することが多いので、この近くに巣があるのだろう。


「エンチャント・ソード」


 トロールの姿を見たセレンが先手を打って強化魔法を俺とメリアにかける。まだ一緒に戦うのは数回目なのに連携はかなり良くなった。


「とりあえず俺が敵に突っ込む。メリアは俺がさばききれずに後ろにいった奴の相手を頼む」

「そんな、一人で突っ込むなんて危険過ぎるわ」


 俺の指示を聞いたメリアは驚愕する。目の前にやってくるトロールは五体。普通に考えて自殺行為もいいところだ。とはいえ、誰かがそれをしなければ勝つことは出来ない。


「敵の方が多いから仕方ない。それにメリアだって後ろの皆を守るという重要な役目だ」

「わ、分かったわ」


 そうは言っても山道は狭いため、そんなにたくさんのトロールが後ろに向かうことはないだろう。

 俺はトロールが近づいて来る前に斬りかかる。


「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 トロールの方も棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。とはいえ狭い道に巨体がひしめいているので俺を取り囲むことは出来ない。俺は身をかがめるようにしてトロールたちの懐に入る。俺を殴ろうとした棍棒は空を切り、逆に他のトロールに命中する。

 その隙に俺は棍棒を振り回して脇ががら空きになったトロールを背後から突く。トロールは悲鳴を上げるが、左手が万全でないせいか倒れるには至らない。さすがにトロールだけあって生命力は尋常でない。

 そんな俺を見て二体のトロールがメリアやセレンの方に向かい、残った奴は再び俺に攻撃してくる。


「ポイズン・ソード」


 俺は剣に魔法の毒をまとわせると、トロールの棍棒をかいくぐりながら次々とトロールにかすり傷を負わせていく。トロールたちの皮膚は分厚く、普通に斬りかかっただけでは大したダメージにならないため、彼らも避けようとはしない。むしろ俺が近づいた瞬間に一撃加えようと攻撃を繰り出してくる。そんな彼らの動きを逆手にとって俺は次々と毒を流していく。


 が、そんな俺の戦法がばれたのか数回目の刺突を行った後だった。

 急にトロールが何かの呪文を唱えると皮膚が硬化して剣が抜けなくなる。


「くそっ!」


 俺は咄嗟に剣を手放す。もし放すタイミングが少しでも遅れていれば背後から飛んでくる棍棒の餌食になっていただろう。俺は剣を失ったが、俺の剣が刺さったままのトロールはみるみる顔色が悪くなっていく。


「だが、すでにお前たちの身体に毒は流し込んだ」


 トロールたちもそれは自覚しているのか、どうにか俺に一撃与えようと大ぶりの攻撃をしてくる。トロールの攻撃はどれも一撃で俺の全身を木端微塵にしそうな一撃だったが、避けるのは難しくない。

 次々と体のすぐ横を棍棒が通り抜けていくが、俺はよけながらメリアたちの方を見る余裕すらあった。



 メリアは自分に向かってきたトロールと切り結びながらもう一体のトロールからの攻撃は主にセレンが防御魔法で防いでいた。時折メリアはトロールの攻撃を受けることもあるが、すぐにセレンが魔法で回復する。性格は全然違う二人だが息は合っていた。


 ふとセレンがこちらを見てしまった、という顔をする。メリアの援護に集中しすぎている間に俺が武器を落としてピンチになっているように見えたのかもしれない。


「いや、俺は大丈夫だ。メリアの援護に集中してくれ!」


 俺が叫ぶとセレンが安堵した表情になる。

 ふとトロールがメリアを今度こそ仕留めるべく必殺の一撃を繰り出そうとしているのが見える。


「セイクリッド・シールド・エクストラ」


 それを見てセレンが残った魔力のほとんどをつぎ込んでこれまでよりも遥かに大きくて堅固な光の盾を作る。トロールの渾身の一撃を受けてもびくともしない。そればかりか、盾の強度に負けて棍棒がボキリと真っ二つに折れる。それを見てトロールは呆然とする。


「覚悟!」


 その隙を逃さず、メリアは鋭い一撃をトロールの顔面に突き出す。さしものトロールと言えども顔面の皮膚までは固くない。トロールはメリアの突きを喰らってその場に倒れた。

 もう一体のトロールがメリアを後ろから攻撃しようとするが、メリアは器用に位置取りを工夫して自分と敵の間に光の盾が挟まるように移動したので攻撃は当たらない。


「もう限界です!」

「了解!」


 セレンの声とともに光の盾が消える。するとメリアは光の盾があったところから反撃した。これまで自分の攻撃を阻んでいた盾が突然消滅し、逆にそこから突きが飛んできたためトロールは意表を突かれ、メリアの攻撃を首筋に受ける。


 それを見て俺を囲んでいたトロールたちも動揺したのか、一瞬攻撃の手を緩める。その隙に俺は倒れていたトロールの皮膚から自分の剣を抜く。すでに俺を囲むトロールたちも毒が回って動きが大分遅くなっていた。


「喰らえ!」


 俺は続けざまに二体の急所に剣を突きさして戦いを終わらせた。

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