ヴェントレット

 その後俺はいくつかメリアに向いた依頼を斡旋した。彼女は戦闘力こそ優れているものの経験は浅い。そのため、探索や捜査が必要となりそうな依頼を避け、戦闘さえ何とかすれば達成出来そうな依頼を見繕ってやった。


 本来はメリアが依頼を達成し、報酬を受け取ってから俺がメリアの依頼であるウェントの捜索を始めるのが筋であったが、俺はメリアが依頼に向かうとすぐにウェントの捜索を始めた。


 とりあえずこのギルドでクリアされた依頼の履歴を調べればウェントの本名は分かる。メリアが言っていた依頼を達成したのはヴェントレットという魔術師がリーダーを務めるパーティーだった。


 問題はそのヴェントレットがどこに行ったのかということである。ヴェントレットがここで依頼を受けたのはその時の一回だけだったのでこのギルドにはほとんど情報がない。

 ヴェントレットの行いは道徳的には悪だが、法的な罪はないため指名手配のようなことは出来ない。そのためこの付近のギルドを中心に、私的に各ギルドに問い合わせをすることになった。

 とはいえ、ただで頼む訳にもいかないので知り合いがいるところは知り合いに頼み、知り合いがいないところには銀貨を送って依頼した。


 一応ギルド同士は使い魔の鳥に手紙を持たせて飛ばすという連絡手段があり、ギルドの仕事とは関係ない仕事でもお金を払えば利用させてもらえる。とはいえ遠く離れたギルドもあり、問い合わせの手紙に返事が返ってくるのは時間がかかる。


 メリアにはこれらの手紙のやりとりにかかる分の金銭も頼んだので、一つの依頼の報酬だけでは賄うことは出来ず、彼女も二つ目三つ目の依頼にとりかかっていた。




 そんな訳で俺は仕事を終えると各ギルドへの手紙の作成と返信の確認に追われていた。

 それでもデュークにさせられて嫌々していた残業に比べると断然ましだが。


「大丈夫ですか? 最近遅くまで残っているようですが」


 夜、俺が机に向かっている少し心配した顔つきのミラが俺にお茶を持ってきてくれた。ちょうど悪い意味で煮詰まっていたところだったので俺は顔を上げる。


「いや、前にいた剣士の少女の件が全然進展しなくてな」

「そうですか……困ったものですね。しかしそういう人たちって普段は何をしているんでしょうね。そういう人が普段から真っ当な冒険者の顔をして仕事をしていると思うと少し怖いです」

「確かにな……」


 何気なくつぶやいたミラの言葉に俺は少し考える。


 今回はメリアという初心者ながら腕の立つ冒険者がいたが、普段からそんな都合のいいカモがいるとは思えない。ヴェントレットの実際のランクがCとかDだとしても、初心者のFランク冒険者をパーティーに入れれば、報酬を与えないとしても足を引っ張るだけだ。メリアのように知識がなくて強さだけあるという人物は稀だろう。となると普段は普通に冒険者稼業をしている可能性が高い。


 普段自分が活動しているエリアでそのようなことをすれば今後の活動に支障が出るだろう。それらのことを考えていると、ヴェントレット一行はさっさと地元に帰った可能性が高い。

 この近くよりもヴェントレットの地元付近を集中的に探してみるか。


「そうだよな、普段は普通の冒険者をしてなかったら、あんな詐欺も出来ないよな」


 ミラがヴェントレットからもらった薬草は王国西部のものだったということを思い出し、俺は王国西部のギルドへの調査依頼を増やす。


「ありがとう、おかげで進んだかもしれない」

「なら良かったのですが……あまり無理しないでくださいね」




 方針を変えたのが良かったのだろう、案の定王国西部のとあるギルドでヴェントレットという魔術師をリーダーとするパーティーが登録されているということが分かった。そこでは定期的に依頼を受けているが、特に目立った悪評はないという。しかし数か月に一回、遠方の依頼を受けることがあったらしい。


「たまたま遠征している最中にメリアを見つけたか、メリアの評判を聞いて遠出してきたかどちらかだろうな。後はどうやって落とし前をつけるかだが……」


 もしメリアにこのことを教えて彼女がヴェントレットを見つけて斬りかかった場合、彼女が捕まって終わってしまう。これほどの剣技を持つ人物をそんなことで失うのは惜しい。かといって、せっかくヴェントレットの地元が分かったのに野放しにしておくのも許せない。


 俺はヴェントレットに対する報復方法を考えた。そして翌日依頼から戻ってきたメリアに俺が考えた方法を伝えた。俺が考えた方法を告げるとメリアは少し驚いた様子を見せる。


「まずはヴェントレットの行方を見つけてくれてありがとう」


 そう言ってメリアはここ数日で稼いだ銀貨を俺に渡す。手紙のやり取りや遠方のギルドへのお礼を考えると俺の儲けはほぼなくなってしまったが。


「そしてこれは新しい依頼の前金」


 そう言ってメリアはもう一つの銀貨袋を差し出す。


「分かった。やろう」


 こうして俺たちはヴェントレットへの報復に向かうことにした。

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