第20話 後始末

 

「よしよし、椎名ちゃん……もう怖くないからね」

「り、り、りり琳加様……私に触れると根暗が、コミュ障が感染っちゃいますよよよ……」

「あの、俺の誤解はもう解けたんですよね……?」


 保健室では椎名は琳加に抱き寄せられていた。

 椎名はカースト最上位の琳加に気が動転して目を回している。


 何とか誤解は解けて、俺は無罪となった。

 あと、椎名よ騙されるな。


「うへへ……椎名ちゃん小さい、可愛い……持って帰りたい……」


 今、お前を抱いてる琳加は下心丸出しの表情だぞ、お前は聞こえていないだろうが。

 椎名も緊張しつつ嬉しそうな状態なので口には出さないでおくか。


「じゃあ、リツキは心配ないんだな。そのスマッシュを撃った子は様子すら見に来ず……か」

「まぁ、教室に戻ったらさすがに一言くらいあるだろう。……あるよね?」

「大丈夫、私が須田君に土下座させる。須田君、女の子に土下座させるの好きだもんね。だから琳加さん、須田君には興味を持たない方が――」

「おい、俺のイメージを最悪な男にしようとするな」


 椎名がなぜか俺の情報操作を試み始めた。

 やっぱり嫌われてるんですかねぇ。


「リツキ、そんなに最低な男だったのか。土下座なら私がしてやるから、他の女の子には強制させちゃ駄目だぞ……?」

「信じちゃったよ! 俺ってそんな男に見えるのかなぁ!?」


 性格的には対照的な2人だが、俺をイジる息はピッタリだった。

 琳加は内面は凄く善い人だし、頼りになるし、是非とも椎名を任せたい。

 というか、椎名そいつ、友達いないので友達になってあげてください。

 妹を持つ者の定めか、そんな親心が芽生え始める。


「でも、どちらかというと椎名ちゃんに土下座したいし、踏まれたいなぁ~」

「えっ、な、何でですか……?」

「椎名聞くな、琳加と友達のままでいたいならな。マッサージの話だと思っておけ」


 やっぱり駄目だ、ウチの娘はやれん。

 琳加は可愛い子なら見境なしか。

 いやでも、椎名はドSみたいだし……気が合っちゃったりして……。

 学校と私生活では2人のカーストが逆転するのか……。

 なにそれ本で読みたい、書籍化はよ!


 内なる歪んだ百合への欲求を抑えつつ、俺は鼻血も止まったので2人と別れて教室へと戻る事にした。


 ~~~~~~~~~~


「あっ、鬼太郎さっきはごめんね~! 手元が狂っちゃってさ~!」

「いや、あんなの効かねぇわ。妖怪舐めんなよ?」

「ぷっ、何よそれ! あはは、あんた喋ると面白いじゃない!」


 俺にシャトルを当ててきた女子、皆川みながわには、気持ち悪い返しをして俺は席へと戻る。


 自分の席に戻ると、俺の机の中から見知らぬ一冊のノートがはみ出ていた。

 少しだけ嫌な予感を感じつつ、俺はページを開く。


 "へい、兄弟! 椎名さんの胸の感触、どうだったか後で俺に教えてくれよ!"

 "親愛なる友、神之木より"


 俺は神之木の方へと視線を向けると、あいつはこちらを見て満面の笑みで親指を突き立てていた。

 まったく、仕方がない……。

 決して『友達』とか言われて嬉しいからではないが、少しくらい喜びをシェアしても良いだろう。


「鬼太郎、本当にごめんね。本当はペアの私がミナに椎名さんを狙うの止めなよって言うべきだったんだけど――って何? そのノート?」


 先ほどのバドミントンで皆川とペアを組んでいた江南えなみさんが不意に後ろから話しかけてきた。

 そして、最高に気持ちが悪い内容が書かれたノートを見られてしまう。


(……神之木、すまん)


 神之木は親指を立てて笑顔のまま、みるみる顔が青ざめていった。

 神之木……強く、生きろ……!


 江南さんは黙っていてくれたが、神之木はその後江南さんにゴミを見るような目で見られていた。


◇◇◇


「――んで、須田! どうだったんだ!?」

「おい、神之木。江南さんがまだお前の事睨んでるぞ……もう少し時間を空けてから――」

「馬鹿野郎! 時間が経つ程に経験というものは風化されちまうんだ! 鮮度が大事なんだよ! 鮮度が!」


 流石のメンタルお化けだった。


 あと、こいつは俺の事を鬼太郎とは呼ばないのが地味に嬉しかった。

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