第26話 孤独のグルメ(ガチの孤独勢)
「――琳加、お前の取り巻きに見つかったりしたら面倒なんじゃないか?」
校舎の入り口に向かいながら俺は琳加に聞いた。
「大丈夫だ、私はいつも取り巻きの子達とはお昼休みが終わるまで屋上にいるからな。今日も彼女たちは屋上にいるだろう」
「き、聞いた事があります! 屋上はいつも不良がたむろしてて使えないって!」
「不良か、実際はこんなんなのにな……おっと、ここからは少し離れて歩こう」
校舎に入ると、俺と蓮見は琳加と距離を取る。
琳加よ、そんな寂しそうな目で俺たちを見るな。
最上位カーストのお前と一緒に歩いてると注目されちまうんだよ。
琳加の後ろを離れて付いていくように歩いていると、女子トイレの前を通り過ぎる時、銀髪の少女が出てきて俺とぶつかった。
「――うわっぷ!?」
「おっと、悪い。大丈夫か? 怪我は?」
衝撃で彼女の持ち物が床に落ちる。
せめて倒れてしまわないよう、俺が小学生くらいの身長の彼女の身体を腕で抱えて支えると不機嫌そうな目で俺を睨みつけていた。
見知ったその相手に俺は驚く。
「し、椎名さん……!?」
「えっ!? シオ――須田君!? や、やばっ!」
椎名はぶつかった相手が俺だと分かるとすぐに落としていた何かを自分の背中に隠した。
――すまん、椎名。
見えちまった、お前が落としていたのは"弁当箱"だ。
そして、プライドの高いお前がトイレから出てきてそれを急いで隠した……
信じたくはないが、椎名、お前もしかして――
「いつもトイレの個室で弁当食べてるのか?」
「――!!」
俺が小さな声で囁くと椎名は顔を真っ赤にした。
マジか、図星なのか。
フォロワー百万人越えの人気者、ペルソニアの天才ドラマー『シーナ』が学校のトイレでボッチ飯ってどうなの……?
いや、場所が違うだけで俺もボッチ飯なんだけど……
俺はあまりに不憫な椎名をどうにかする方が朝宮さんより重要だとすら思えてきた。
椎名は大切なバンド仲間だ、もう少し楽しい学園生活を送らせてあげたい。
可哀想過ぎて本当にちょっと涙出てきそう。
ちょうど目の前にいる蓮見に俺は懇願の視線を向けながら提案する。
「蓮見、その……これからは椎名さんと一緒にお昼ごはん食べたらどうかな? 蓮見もいつも1人みたいだし」
「えぇ! い、良いの!? 椎名さんって合法ロ――凄く可愛いから、そんなの私の方からお願いしたいくらいだけど!」
そう言って蓮見が椎名にキラキラとした目を向ける。
『可愛い』と言われた椎名は顔を赤くして口元が緩んだ。
「わ、分かった……食べる……」
「ありがとう! じゃあ、これからは私が隣の個室に入るね! 壁越しに一緒に食べよう! えへへ、楽しみだなぁ」
「いや、校舎裏の方に誘えよ。なんで蓮見がトイレの方に適応しようとしてるんだよ」
俺たちが後ろでそんなやりとりで足を止めている事に気がついて琳加は廊下の先で待っていてくれていた。
そうだ、昼休みもそんなに時間があるわけじゃない。
少し急いで教室に行かないと……。
「蓮見、少し急ごう」
「うん。椎名ちゃんも一緒に来る?」
「行く……」
道すがら、椎名にも俺たちの目的を話した。
朝宮さんの事が気になっていると話すと椎名も何やら不機嫌そうな顔をする。
いや、こいつはいつも不機嫌なんだけど……。
何とかお昼休みも十分に時間を残して朝宮さんのいる俺たちの教室へ。
俺と蓮見と椎名は教室の後ろの入口から顔を出して教室の中の様子をうかがった。
自分の席に座る朝宮さんは昼食も食べ終えて、クラスの女子グループの中心で談笑している。
「――須田君、朝宮さんは本当に落ち込んでるの? なんだかいつもと変わらず元気に見えるんだけど……」
蓮見の指摘に俺は古参を気取ってヤレヤレ顔で首を横に振った。
椎名がそれを見て「うざっ……」と呟く。
死のうかな。
「よく聞くと、声のトーンが
「そ、そうなんだ……う~ん、私が聞いても分からないなぁ~」
「……須田君凄い……まるで歌手みたい……」
椎名がまた危険な事を言い始めたので、俺が抗議の視線を向けるも、椎名に顔ごと目を逸らされた。
「それにしてもあの状況、俺だったら確実に話しかけられなかったな……琳加を頼ってよかった」
そう呟きつつ、教室の前の方の入り口に待機している琳加の方を見る。
琳加は獲物を見つけたような表情で朝宮さんを見つめていた。
「ふぅ~ん、あいつが例の朝宮か。あいつが私のリツキをたぶらかして……この女狐め……」
琳加は小さな声で何かを呟くと、女生徒に囲まれた朝宮さんのもとへ。
美少女番長として有名な琳加が教室に入ってきた事で、クラスはざわめいた。
そんな事、気にもかけず琳加は席に座る朝宮さんの目の前までまっすぐと歩く。
やっぱり琳加は頼りになるな。
それに琳加は誰よりも優しい心を持ってる。
特に相手が朝宮さんみたいな超絶美少女なら滅茶苦茶優しく接するはず。
「よし、後は琳加が朝宮さんの心に寄り添って優しく呼び出してくれるだろう」
「そ、そうだね。私、誤解してたけど琳加さんって良い人みたいだし」
「琳加様なら……大丈夫……リア充だから……」
勝ったな、風呂入ってくる。
そんな安心感と共に俺、蓮見、椎名の三人で教室の影から琳加を見守る。
琳加は親指で教室の入口を指差しながら朝宮さんに話しかけた。
「――おい、お前が朝宮だな? ちょっとツラ貸せよ」
朝宮さんは満面の笑みで固まったまま、顔が真っ青になっていった。
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