第25話 みんなでお昼ごはん

 

 俺が朝宮さんの事について話をする前にみんなで校舎裏の段差に腰掛けた。


 いつもここでご飯を食べている蓮見は手慣れた様子でハンドタオルを敷いて、その上に腰掛ける。

 それを見て俺は琳加に聞いた。


「琳加はお尻の下に敷く物持って来てるか? そのまま座ったら汚れちゃうだろ」


 一応、急な呼び出しをしてしまった琳加に確認を取った。

 俺は自分のズボンが汚れようが気にしないので、琳加が持っていなければ俺のハンカチか上着で我慢してもらうつもりだ。


 そんな俺の発言に蓮見が顔を青くして慌てて立ち上がる。


「ご、ごめんなさい! 気が利きませんでした! わ、私が琳加さんの椅子になりますね!」


「蓮見ちゃんそんなに怯えないで……大丈夫、私も自分のハンドタオルは持って来てるから!」


「蓮見、大丈夫だぞ。こいつ、根は滅茶苦茶優しいから」


 蓮見にビビられすぎて、流石に落ち込んだ様子の琳加は自分のハンドタオルを取り出した。

 ネコの絵柄が入った可愛らしいハンドタオルだ。

 そういえば、こいつ実は可愛いもの好きなんだよな。


 そうして、全員でお弁当を食べ始める。


「えへへ~、蓮見ちゃんのお弁当美味しそうだね~。その綺麗な卵焼きは自分で作ったの?」

「ひぃぃ!? ごめんなさい、私ごときが卵焼きとか調子に乗ってました! 私はその辺の土でも食べますね!」

「蓮見、慣れろ……! あと琳加の言葉に深い意味はない!」


 ――っていうか冷静に考えるとやばいなこれ。

 妹やバンドメンバー以外の女子と学校で一緒にお弁当……!

 あかねよ、ついにお兄ちゃんにもこの世の春が訪れたようだ。

 お前も頑張って彼氏の一人でも――作ったらお兄ちゃんどっかの崖から飛び降りちゃうかも。


「――えっと、それで須田君? 『朝宮さんは笑ってなかった』って言ってたけど、今朝も朝宮さんは元気いっぱいに笑っていたんじゃないかな……?」


 俺がこの夢のような光景に完全に酔っていると蓮見が先程の発言について俺に質問をしてきた。

 そんな言葉に俺はため息を吐きつつ老害ドルオタムーブをかます。


「ふん、"浅い"な。毎日朝宮ことしおりんの笑顔を盗み見してる俺にしてみれば一目瞭然だ。しおりんは確実に何か落ち込んでいるのに無理して笑っている様子だった」


 普通ならドン引き通報案件な厄介オタクの俺の発言も蓮見は『コッチがわ』なのであまり気にしていないようだった。


「そ、そんな……私も毎日本を読むフリをして朝宮さんの笑顔を盗み見してたけど全然分からなかった……やっぱり須田君には敵わないなぁ……」


 俺達の話を聞いて、琳加は一人で何かをブツブツと呟く。


「リ、リツキに毎日見られているなんて羨ましい……! 私も見られたい……!」


 恐らく琳加にドン引きされているであろう事は間違いないが、今はそれよりも朝宮さんの事情を知って力になってあげることの方が大切だ。

 俺が通報されて捕まるのはその後で良い。

 捕まっちゃうのかよ。


「それで、朝宮さんに『何かあったの?』って聞きたいんだけど、俺は陰キャ過ぎて無理だから琳加さんにお願いさせていただきたいと思いまして……悩みを打ち明けるのは同じ女性の方がしやすいだろうしな」


「ふ~ん? リツキはそんなにその朝宮って奴の事が気になるのか?」


 琳加はまた不機嫌な表情を見せた。

 そりゃあ、こんなストーカーじみた男の依頼なんて受けたくはないだろう。

 でも、深刻な問題かもしれないんだ。

 もしも何かが起こってからじゃ遅い。


「頼む! 琳加なら呼び出して事情を聞けるだろ? 朝宮さんの力になりたいんだ! 蓮見も陰キャ根暗オタクだから話しかけるのなんて無理だろうし!」


「須田君……? 合ってるけど流石の私も傷つくからね……?」


 俺の頼みに琳加は苦虫を噛み潰したような表情をする。


「まぁ、リツキの頼みなら何でも聞いてやるつもりだ。人助けになるみたいだしな」


 そう言いつつも気が乗らない様子の琳加に俺はため息を吐いた。


「いや、無理にとは言わない。琳加、付き合わせて悪かったな。こうなったら俺が勇気を出して呼び出して、朝宮さんと誰も居ない教室に2人きりで直接――」


「ちょっと待った! や、やっぱりそっちの方が危険だ、私が朝宮を呼び出して事情を聞く! 私に任せろ!」


 半ばストーカーと化している俺が直接、朝宮さんと接触する方が危険と判断したのだろう。

 琳加は慌てて了承してくれた。

 若干脅しみたいになっちゃったけど。


 そうして、お弁当を食べ終えた俺達はお昼休みのうちに朝宮さんを呼び出す為に教室へと向かった。

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