第5話 いじめ、カッコ悪い? いえ、カッコ良すぎでした。

 

 あれ? 俺、また何かやっちゃいました?


 ――そんな事を頭の中で呟きながら。

 教室の前に張り出された紙を見ていた。

『学年順位』と書かれた定期試験の結果の紙。

 そこにはぶっちぎりの1位で俺、須田 凛月の名前があった。


 ふはは、だてに机で1人で自習してるわけじゃねぇぜ!

 そう、みんなが友達と楽しくおしゃべりしている間も1人で勉強していたからな!

 あれ? なんでだろう、嬉しいはずなのに涙が……。


「…………」


 なんて事を考えていたら。

 突然、周囲を女子に囲まれた。

 えっ、マジ!?

 勉強が出来るとこんなにモテるの!? やったぜ!

 さらに女の子の1人がおもむろに俺の胸ぐらを掴んできた、きゃあ大胆っ!


「おい、お前が須田 凛月だな? 放課後、ちょっとツラかせよ」


 須田 凛月、お前は泣いていい。


 ◇◇◇


 不良女子達に女子トイレに連れ込まれた。

 これはリンチですね、間違いない。

 リーダー格のような女の子が俺の前に出てきて、身体の前で腕を組む。

 態度がデカければ胸もデカイ。

 やっぱり腕組みすると少し楽なんですかね。


「私は2年A組の日陰 琳加(ひかげ りんか)だ。お前に用がある」


 名乗りを上げてきた。

 これは告白ですね、間違いない。

 それか戦国武将のように戦いの前のアイサツのようなものなのだろうか。


「おい、お前がテストで毎回学年1位を取ってるガリ勉野郎だって事は知ってる」


 ちなみに、年間CD売上も1位です。

 いつもありがとうございます。


「お前が1位のせいでなぁ! 吉春君がトップになれねぇんだよ!」


 えっと……確か。

 藤宮 吉春(ふじみや よしはる)。

 ……サッカー部主将で、勉強も毎回学年2位のモテ男だ。

 なるほど、彼女は彼が好きなのだろう。

 そして周りは彼女の恋を応援する取り巻きか。


 で、俺が毎回学年1位を取っているせいで藤宮くんが1位になれない事にご立腹らしい。

 確かに可愛そうな気もするけど、実力の世界だし……。

 ここはガツンと言ってやろう。


「そ、そそ、そ、それで……お、、お、俺にどど、どうしろと」


 俺は堂々と言い返した。

 相手がカースト上位だろうと悪には屈しない!

 琳加は俺の弱そうな様子を見て勝利を確信したのだろう。

 邪悪な笑みを浮かべ、腕組みを解除すると再び俺の胸ぐらを掴む。


 そんなに密着はしていないのに琳加の胸が自分に当たりそうで危ない。

 一体俺はどうやってこの胸囲――いや、脅威に立ち向かえば良いのだろうか。

 琳加はさらに凶悪な表情で『要求』を俺に伝えた。


「ちょ~っと、勉強のコツとかを教えてくれれば良いんだよ。私がそれを吉春君に伝える」

「――えっ?」


 あまりの可愛らしい要求に俺は困惑する。

 すると、周りの取り巻き達も急いでサポートを入れた。


「り、琳加さん! それより、そいつを勉強出来ないようにしてやった方が良いですよ!」


 うん、俺もそれを覚悟してた。


「ば、馬鹿野郎! それはやり過ぎだろっ! テストの戦略とかを教えてもらえれば吉春君も頑張ってこいつを抜かせるんだ!」


 クソ真面目かよ。


「で、でも琳加さん……そいつは筋金入りのガリ勉ですよ? 全国模試でも1位取っちゃうくらいの」

「だ、だからって妨害は出来ないだろ!?」

「あれ? もしかして、琳加さんビビって――」

「よしっ! お前が勉強出来ないようにしてやる!」


 琳加は胸ぐらを掴んだまま俺に再び顔を向ける。

 そして、とても申し訳無さそうな表情をした。


 ……これは訳ありだな。

 彼女は周囲の取り巻きの期待に応えようと無理をしているのだろう。

 吉春君との恋愛も周囲の雰囲気に合わせているだけだろうか。

 だとしたら、悲しい女番長だ。


 琳加はわずかに身体を震わせながら襲いかかってきた。


「こんなだっせぇメガネかけやがって、これがなけりゃ勉強もできねぇだろ?」

「クソー! メガネを取られたら、もうどうしようもない! やめてくれ!」


 俺も何となく察して一芝居うった。

 もちろん、メガネはダテなので全く困らないんですけどね。


 琳加は前に垂れ下がった俺の髪を上に掴み上げて、メガネを掴む。

 ――メガネを奪い取る瞬間、「悪い、すぐに返す」と小声が聞こえた。


 そして……俺の素顔を至近距離にいる琳加だけが見てしまう形になった。


「――っえ?」


 ポカーンとしたような表情で琳加さんは顔を真赤にした。

 時間が止まったかのように静止し、驚きの表情で俺の顔を見つめ続けている。


「琳加さん、さすがです! ……あれ? 琳加さーん、どうしたんですか?」

「鬼太郎のキモすぎる顔を見て琳加さんが固まったww」

「さすがは妖怪! 顔面も妖怪級かww」


 取り巻きたちの声に意識を取り戻したかのように琳加はハッとした顔をすると。

 急いで掴み上げていた俺の髪で俺の顔を隠した。

 前が見えねぇ……。


「こ、こいつの顔はマジで見ない方が良い! メガネも奪ったし、もう行くぞ!」

「うわ、マジで超絶ブサイクなんですね!ww」

「鬼太郎良かったねー、琳加さんに触ってもらえて! 一生の思い出じゃんww」

「じゃーな、妖怪! しばらくそこで泣いてな!」


 そんな声が遠くに行くまで、俺はトイレで呆然としていた。


「俺……やっぱり、陰で妖怪って呼ばれてたんだ」


 そして、心の中で泣いた。

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