第30話 それぞれの恋愛模様

 

「――リツキ、おはよう!」

「あぁ、琳加。もう来てたのか、おはよう」


 翌朝、待ち合わせ場所の地元の駅前に行くとすでに琳加が来ていた。

 俺を見ると、花が開いたように笑顔になる。


 本当に、何度見ても琳加は陰キャの俺なんかが関わりを持てているのが不思議でならないくらいの美少女だ。


 今日の服装もオシャレで、Vネックのグレーニットにタイトスカートが強気な琳加のイメージによく似合っている。

 と思ったら髪が跳ねていて駄目だった――いや、それも含めて可愛いけど。


「琳加、髪が跳ねてるぞ。まだ待ち合わせの時間までは早いんだから鏡を見て直す時間もあっただろう」


 そう指摘すると、琳加は顔を真っ赤にして自分の髪を手で押さえた。


 あぶねぇ、妹の髪を直す時の癖で琳加の髪に触れちまうところだった。

 気安く触っちゃダメだよな、あかねは妹だからセーフって事で。

 いつも怒りで顔を真っ赤にするけど、あいつ何回言っても髪が跳ねてるんだもん。


「――早く来ればもしかしたらリツキも早く来てるかもしれないと思ってな。は、早く会いたかったんだ」


 琳加はそう言って恥ずかしそうに俺を見つめる。


 『早く俺に会いたかった』だと……?

 琳加、お前もしかして俺の事が――ってあれ?


「琳加、目の下にクマがあるけど……体調は大丈夫か?」

「あ、あぁ……実は昨夜、朝宮から私に電話があってな。一晩中話し相手をしてしまったから寝られていないんだ」


 そう言って琳加はため息を吐いた。


 しおりん……なんてはた迷惑な……。

 だがまぁ、しおりん視点から見てみれば琳加はヒーローだ。

 気持ちが抑えられなかったんだろう。


 誰にも悩みを相談出来ずに笑顔の仮面をかぶり続けていたら、普段絡んだこともないような美少女番長に詰め寄られて、「お前の抱え込んでいる悩みを打ち明けてくれ」だもんな。

 しかも、壁ドンと顎クイのおまけ付き……ラノベかよ。


 あれには二次元と三次元を混同する蓮見も大興奮だ。

 蓮見に変な希望を持たせてしまったな……。

 いつか「壁ドンしてくれ」って俺相手にすら頼んできそう。

 そして俺が蓮見を壁際に追い詰めて――

 壁に手をついて――

 警察が来て――やっぱり捕まっちゃうのかよ。


「でも、琳加も嬉しかったんじゃないか? 朝宮さんは凄く良い子だし、可愛いし」


 普通なら「可愛い」なんて恥ずかしくて口が裂けても言えない俺だが、アイドル相手だと自然に言えた。

 まぁ、住む世界が違うしね。

 そんな俺の言葉を聞いて、琳加は少し不機嫌そうに俺を睨んだ後、ため息を吐いた。


「うーん、違うんだよなぁ~。私はもっと弱そうな子を守ってあげたいんだよ。朝宮は十分しっかりしてるし、良い仲間もいるみたいだし……もちろん、友達としては大歓迎なんだが」


 そんな琳加の心情を聞いて、俺は滅茶苦茶腑に落ちてしまった。


 琳加は、もっと弱い者をほおっておけなくなるタイプだ。

 今まで琳加のツボを突いたのは椎名と蓮見。

 2人とも美少女というのもあるが、もっと重大な共通点がある。

 超が付くほど根暗なボッチだ……こんな事言うと殺されそうだけど、正直、将来社会でやっていけるのか不安なくらいに。


 世話焼き番長な琳加にとって守護まもりたい欲求を満たす存在なのだろう――善い人すぎない?


 であれば、俺の中での一つの"重大な謎"がついに解き明かされる事になる。

 琳加は陰キャでボッチ、イジメられっ子な俺の事も『そういう存在保護対象』として見ているという事だ。


 ――あっぶねぇぇぇ!


 ごめんなさい、正直勘違いしていました。

「あれ? 琳加って俺の事好きなんじゃね?」って思って夜中に一人悶々としていた事もあります。

 でも、そもそも男としてどころか、対等な立場として見られていない。


 ただ単に社会不適合者である俺を同じように気にかけていてくれていただけなんですね……

 さっきのは「(リツキが心配で)早く会いたかった」って事だ。

 実際、俺としおりん達の誰かが先に着いちゃって2人きりになってたら俺が緊張しすぎて気まずい雰囲気になっていただろうし……。


 あともう少しで告白してフラレて引きこもるレベルの黒歴史作るところでした。


 だが、このまま甘えてちゃだめだ。

 俺はちゃんと友達も作れるし、コミュニケーションも取れる人間だという事を琳加に証明してひとり立ちしなくてはならない。

 俺には男としてのプライドがあるのだ。

 女装とかさせられてる時点で琳加はもう俺の事、男としては見てないんだろうけど。


「――あはは。少し疲れてたけど、リツキに会ったら疲れが吹き飛んじゃったな!」


 そう言って琳加は嬉しそうな笑顔で俺の腕に抱きつく。


 あ、やっぱりこのままでいいです。

 プライド? なにそれ、非モテオタクがこんな美少女と関われる奇跡よりも大切?


 ――そんな事を思っていたら、俺の腕が不意に後ろに引っ張られた。

 同じように琳加も俺と逆方向に身体が引っ張られる。


「「おはよう、2人とも!!」」


 やけに力の込もったような挨拶と共に、俺の腕には蓮見が。

 琳加の腕には朝宮さんが張り付いていた。

 朝宮さんはめっちゃ俺の事を睨んでる、ごめんなさいセクハラじゃないんです、冤罪です。


 そして引っ張られた俺の腕には柔らかい感触を感じる……

 あれ、蓮見って意外と大きい……?


「あ、あぁ、二人ともおはよう」

「早かったんだな、もう少しゆっくりでも良かったのに……」


 俺と琳加はそんな不機嫌そうな2人に挨拶をした。

 まぁ、朝からイチャコラしているような現場を見たらそうもなるか。

 実際には俺が琳加に(保護対象として)可愛がられていただけなんですけどね。


 蓮見は俺の腕を慌てて離すと、小さな声で俺に囁いた。


「ご、ごめんね。引っ張っちゃって……なんか、気がついたら身体が動いてて」


 そんな蓮見の言葉に俺は安心した。


 この前の蓮見書店でのエロ本捜索事件で俺の下心根性を知っている蓮見は琳加が俺にセクハラをされているとでも思ったんだろう。


 引っ込み思案なこいつもいざという時には積極的に行動を起こせるんだな。


 俺が手を出した時にはぜひ正義の名のもとに通報して引導を渡してやってくれ。

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