第31話 フラグが立ちました
「おはよう~! 」
その後、すぐにみほりんが来て、あかりんも待ち合わせ場所に来た。
あかりんは遅刻ギリギリだ。
「――あかり、また髪留めがズレてる。ほら、直してあげるからこっち来て」
「あっ、あはは~。みほりん、ありがとう! さっすが私の嫁!」
「馬鹿なこと言ってないの。全く……」
みほりんはため息を吐きつつもどこか嬉しそうにあかりんの髪を整え始めた。
推しのアイドル同士が目の前で仲良くしてる……。
なにこの光景……尊すぎて人権失いそう。
「キマシタワー……!」
蓮見はそんな事を呟きながら興奮して俺の袖を引っ張る。
大丈夫、俺も見えてるから。
眩しすぎて失明しそうだけど。
かくして全員が集合場所に揃った。
以前みたいに琳加と2人きりだったら変な噂になるかもしれないが、これだけの集団になってしまえば大丈夫だろう。
周りはみんな美少女なので俺は良い感じに空気ですしね。
一応、変装の為に眼鏡を外そうかとも思ったんだが、琳加に激しく止められた。
「――琳加。だから、視力は悪くないんだって」
「だ、ダメだ……リツキの素顔は私以外には見せないでくれ。"そんな顔"をみんなに見せちゃうと……お、お願いだ……」
琳加はそう囁きながら何やら懇願するような瞳を向ける。
"そんな顔"か……なるほどな……。
他の人にはお見せできないような顔面なのか。
だから眼鏡を付けてて欲しいと……泣いていい?
俺は自分の顔がよく分かっていない。
シオンとして活動しているとき、周りは人気イケメン俳優だらけだから正直自分の顔なんて見たくもない。
俺の素顔を見たイケメン俳優たちは大体「じ、自信無くします……」みたいな事を言っていたが。
どうやら俺みたいな酷い顔面でも芸能界の第一線で戦えてしまっている事にみんなショックを受けてしまっているようだ。
素顔からシオンと繋がってしまう可能性もあるし、ここは琳加に従おう。
「分かったよ。じゃあいつもの格好でいる」
「ご、ごめんな……わがまま言って……」
琳加は申し訳無さそうに謝った。
いや、謝られちゃうのが一番
マジであかねは俺に似なくて良かったな……
DNA鑑定したら実は血がつながってなかったりして。
あかねが俺を嫌いながらも関わってくれてるのは"家族だから"という一点のみだからそんなことが発覚したら家から追い出されてしまいそうだ。
試しに今度、冗談で言ってみようかな。
なんて馬鹿なことを考えながらみんなと一緒に電車へ乗り込んだ。
◇◇◇
「蓮見、持ってるカバン重そうだな。持ってやるよ」
電車に乗ると、俺はすぐに蓮見に手を差し出した。
「す、須田くんありがとう……えへへ、いつも優しいね。本が入ってるから結構重たいかも」
俺が蓮見のカバンを手に持つと、今度は琳加が俺に手を差し出した。
「リツキ、重いだろう。私がそのカバンを持つよ」
「琳加さん。俺のプライド、ズタズタなんですけど……いや、確かに琳加の方が力持ちなのかもしれないが、さすがに俺に持たせてくれ」
またも俺を保護対象としてイケメンムーブをする琳加にキュンとしつつ、男の意地として俺は琳加に渡さずに蓮見のカバンを持った。
俺が『モテる』のなんてこのカバンくらいしかないだろうしな(激ウマギャグ)
それにしてもやばい、このままじゃ俺も琳加に攻略されちゃうよ……。
いや、そんな心配しなくても俺はモブキャラだった。
しかも多分グラフィックが用意されてない人影だけのやつ……せめて色くらいは付いてて欲しい。
「須田くん大丈夫? 重くない?」
「蓮見、心配すんな。こんなのちょっと太ったチワワくらいのもんだ」
「その例えはよく分からないけど……ありがとう!」
蓮見は前髪の下から綺麗な瞳を見せて微笑む。
だが、確かに少し重いなこのカバン……。
そんなことを考えていたら、しおりんが琳加に迫った。
「琳加様は何かご不便なことはありませんか!? 私、琳加さまの為だったら何でもいたします!」
「――だ、大丈夫だ朝宮! 大丈夫だからそんなに興奮して近づかないでくれ……周りの目が……」
「『近づかないで』……!? り、琳加様は私のことがお嫌いですか!?」
「き、嫌いじゃないぞ! 嫌いじゃないからそんな泣きそうにならないでくれ! ほ、ほら! 好きなだけ近づいて良いから!」
「ありがとうございます! えへへ~、じゃ、じゃあ腕に絡みついちゃいます~」
いや、重ぉぉ~!!
一番重いのはしおりんだったぁ~!
この重さに比べたら俺の持ってるカバンはハムスターみたいなもんだ……。
しおりん、気がついて!
あかりんとみほりんが見たことのない親友の一面に凄く戸惑ってるから!
琳加が助けを求める表情で俺を見つめてるから!
「よ、よし……これで琳加さんが朝宮さんとくっついちゃえば。須田君はまたボッチだ……!」
なにやら拳を握りながらそんなことを呟く蓮見が隣にいた。
えっ、なに? そんなにボッチのままでいてほしいの?
確かに、同じボッチだと思ってた奴が友達とか作り始めたら焦るよな。
大丈夫だ蓮見、友達ができたらお前にも紹介してやるからな……!
一緒にボッチを卒業しようぜ!
そんな決意を胸に俺は電車で揺られていた。
◇◇◇
――
「ここがスタジオだ」
俺がそう言うと、後ろをついて来ていた『シンクロにシティ』のみんなと琳加、蓮見は首をかしげる。
「リツキ、ここはスタジオじゃなくて家じゃないか、しかも大きな門まであってかなり立派な邸宅だ。私達の新居か? 私はリツキがいれば別にボロアパートでも良いんだぞ?」
「アホなことを言ってるな、スタジオは地下にあるんだよ」
琳加の冗談を流しつつ、俺はカードキーを門にさす。
こいつ、同棲してまで社会不適合者の俺を保護する気か。
そのうち、ダメ男とか好きになりそう。
いや、むしろダメ男にされそう。
あと、お前にべた惚れのしおりんが俺を殺しそうな目で睨んでるから変なこと言うの止めてね……?
俺のカードキーに反応して門が開く。
みんなはそれを見て「うわぁ~!」と驚くように声を出した。
俺がカードキーを抜くと、その上に電子文字が浮かびあがる。
"
俺は大慌てでその前に立つと、冷や汗を流しながら背中で文字を隠した。
やべぇ……カードキーの名前、芸名で登録してた……。
完全に油断していたが、幸い開く門に目を奪われて誰も気がついていないようだ。
全員、大興奮で門の中を覗き込んでいる。
「よし、みんな中に入ってくれ! 前だけを見つめて! 前にしか進めないカンガルーのように!」
「その例えはよく分からないが、分かった! じゃあ入るぞ!」
なかなか消えてくれそうにない電子文字を誤魔化すために俺はごく自然に視線を誘導しつつみんなを中へと促すと、琳加を先頭に入っていってくれた。
これ……家の中にもペルソニアだとバレてしまう物があるのでは……!?
いや、きっと大丈夫さ。
このスタジオはしばらく使ってないし、メンバーの私物はちゃんと持って帰るようにルールもある。
そんな盛大なフラグを心の中で立てながら、俺たちは門をくぐった……
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