第10話 俺だと気づいてくださいっ!
ナンパを撃退した後も近づいて来ようとする男たちに琳加が睨みを効かせてくれたおかげで無事に映画館に着いた。
道中は琳加がずっとシオンの話をしていた。
話を合わせる為に、俺もシオンが好きだと言ったからだ。
琳加は昔から腕っぷしが強く、スタイルの良さや雰囲気も相まって周囲に恐れられてしまっていたようだ。
そのせいで、舎弟のような存在はできるものの対等な友達がいなくて素顔を見せられる相手がいなかったらしい。
そんな時に出会ったのがペルソニアの曲『So alone』だという。
この曲は孤独だった琳加の心を癒やしてくれていたらしい。
上辺だけではない、
だから、琳加にとってシオンは恩人なのだと言う。
この曲は俺が高校生活で友達が1人もできない孤独の感情をぶつけた物だが……。
俺の黒歴史がまさか琳加の共感を呼んで、役に立っているとは。
複雑な気持ちで映画館に入って行った。
~~~~~~~~~~
映画館に着くと、俺は早速一芝居打った。
いたずらに琳加を心配させるのは胸が痛いが、仕方がない。
映画館の自分たちの席の場所を確認すると、俺はお腹を抑えてかがみ込んだ。
「あいたた! ごめん、琳加。お腹が痛くて……ちょっとトイレに行く」
「えぇ!? 大丈夫!? 生理っ!?」
「んな訳あるかっ! ただの下痢だ! 先に席に座ってて! しばらく戻れないと思うから、映画も見始めちゃってて良いから!」
「そんな……心配だよ。ついていく!」
「トイレについてこられても困るって! じゃ、じゃあそういうことだから! 絶対に後で行くから!」
「あっ、ちょっと! ……行っちゃった」
俺はすぐにシオンが来るのを待っている関係者控室に向かう。
急いで女装を解いて、シオンの格好にならなければならない。
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「お嬢さん、止まってください! ここから先は関係者以外立ち入り禁止です! もしかして、酒木監督とお約束をされている女優さんですか?」
ガードマンさんに止められた。
まぁ、この格好じゃ当然か。
俺が身分を証明しようとした時、ちょうど廊下を酒木監督が通りかかった。
監督は俺に気がつくと、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
さすがは監督だ、こんなカツラをかぶったくらいなら女装しててもシオンだと分かるのだろう。
俺は安心して酒木監督が来るのを待った。
「き、君っ! 私の映画に出てみないかっ!?」
「……はっ?」
意味の分からない世迷い言を言い始めた酒木監督に俺は目を白黒させる。
「い、いや失礼! 私は映画監督をしている酒木という者なんだが」
いや、みんな知ってますよ。
数々の映画賞を総ナメにして『世界の酒木』って呼ばれてるじゃないですか。
「君の魅力に一瞬にして虜になった! ぜひとも次回作に出演をっ!」
出演者には『鬼の酒木』とも呼ばれている酒木監督が俺に頭を下げている。
なんだこれ……どうすれば良いんだ。
「あの……監督……俺です。シオンです」
冷や汗が止まらないまま、俺は『シオンの声』を出して打ち明けた。
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