第9話 映画館に行こう!
金髪のカツラをかぶり、簡単な女装を施した俺と
渋谷へ向かう電車の中、琳加は女装している俺に話しかけてくる。
「ねぇ、"リツコちゃん"。映画楽しみだね!」
ニタニタした表情で琳加は俺を煽る。
俺には
くそっこいつ、状況を楽しんでやがるな。
「あっ、ごめ~ん。流石に電車は周りの人が近いから声を出したら男の子だってバレちゃうね」
ニヤニヤが止まらないまま、琳加は小声で俺に呟いた。
なぜか美少女に弱みを握られている感覚……。
くそ、何かに目覚めそうだ。
とにかく、一方的にヤラレっぱなしも性に合わない。
少し驚かせてやろう。
「そうだね、琳加ちゃん! 私、すっごく楽しみっ!」
「――えっ!? 女の子の声!? 何でっ? どうなってるの!?」
俺の得意技を披露すると、思った通り琳加は面食らっていた。
"
この芸名が付けられた理由は『七色の声が出せる』という理由からである。
"奇跡の歌声"とまで評されている理由の一つは声域がとんでもなく広い事だ。
なので、実は女性の音域も出そうと思えば出せる。
他にもできるアーティストはいるが、俺ほど完璧ではないらしい。
俺は発声練習無しでスイッチを切り替えるように声を切り替えられるほどだ。
その中にはもちろん、『シオンの声』もある。
「うそ……もしかしてリツキって女の子? 道理で少しナヨナヨしてるし……」
「あら? 琳加さん、ぶっ殺しますわよ?」
「えぇっ!? また声が変わった!」
今度はお嬢様ボイスで威嚇をして琳加をからかった。
琳加は目を白黒させて困惑している。
「おい、アレすげーって! アニメみたいな声してたぞ!」
「声優さん!? あんな綺麗な人居たっけ!?」
琳加をからかうだけのつもりがやりすぎてしまったようだ。
周囲の乗客達がざわめき、携帯のカメラを向け始めてしまう。
「やばっ、おい琳加! 車両を移すぞ!」
「は、はぇぇ!?」
俺は琳加の腕を掴むと、急いで移動した。
「あ、あれ!? 男の声になった!?」
「何だよあれ! 俺、疲れてんのか!?」
ざわめく車内を後にして、別の車両へ。
渋谷駅に着くまではもうおとなしくしていた。
~~~~~~~~~~
「ねぇ、お願い! もう一回やって!」
「しょうがねぇな。"父さん! 妖怪が近くにいますっ!"」
「あっはっはっ! 似すぎ! やばい、お腹痛い!」
俺は得意の声真似(声帯模写)で琳加を笑わせながら歩いていた。
妹を喜ばせる為にいっぱい練習したからな。
まさか、その声の才能から歌が上手くなるとは思わなかったが。
「琳加ちゃん、ここから先は人が多いから女の子の声でいくよ♪」
「はぁ、はぁ、リツコちゃん本当に可愛いよ……えへへ、触っていい?」
「琳加ちゃん、めっちゃキモ~い♪」
俺が女声を出すと、とたんにキモオタみたいになる琳加と一緒に
こいつ、番長という仮面がないとこんな感じなのか。
まぁ、ここまでくればもう同級生に会う事はないだろう、存分に仮面を外して楽しんで欲しい。
ちなみにどう考えても今の俺の状態の方が百倍キモいです。
「へーい、お姉ちゃんたち。可愛いねぇ、お茶しない?」
通りを歩いて3分。
はい、来ました、ナンパですね。
琳加は黙っていれば超ド級の美少女だ。
中身は少し残念だったが。
綺麗な花には虫がたかるものだ。
こういう輩は無視して立ち去るに限る。
「ちょっと、待ってよ金髪のお姉ちゃん」
立ち去ろうとしたら男は俺の肩を掴んで止めてきた。
くそっ、しつこいな。
「その可愛さなら芸能人でしょ。一緒に写真だけでも」
「――おい」
ただならぬ気配と語気を感じて隣を見ると、琳加がとんでもない怒気を放っていた。
男の手を俺の肩から払い除ける。
そして琳加は俺を自分の身体の後ろに隠した。
あれ?
こいつはへたれ番長だったはず……。
「汚い手でリツキに触るな」
「ひっ、ひぇぇ~!! す、すみませんでした~!」
あまりの迫力に男は逃げていってしまった。
「リツキ、大丈夫? 怪我はない?」
「は、はい!」
「本当に? 変な所は触られてない?」
「だ……大丈夫です」
思わず敬語が出てしまう。
何これ惚れそう。イケメンかよ。
こいつ、本当に番長の素質があったのか。
どうやら正しい事をしている時は力を発揮できるタイプなんだろう。
取り巻き達を魅了させたのはこれか。
……取り巻きたくなる気持ちが分かる。
琳加さんめっちゃカッコよかったもん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます