第14話 妹よ…違うんだ、これには事情があって

 

「リツコちゃん! 今度はあの可愛いお店に入ろうよ!」

「そ、そうだねっ! 琳加りんかちゃん!」


 琳加に連れられて様々なファンシーショップを回る。

 もちろん、俺の片腕は人質に取られたままだ。


「ねぇ、見てコレ! デブネコのクッションだって! 可愛い~!」

「ほ、ほんとだ~! 可愛いね~!」

「うわっ、何これ! しかも腕が伸びるよっ!?」


 琳加のテンションについていくのは正直疲れる。

 女子っていつもこんなにキラキラニコニコしてるの?

 だが、俺はもう決めたんだ!

 今日はとことん琳加に付き合って俺が心労をかけてしまった罪を償うと!


「リツコちゃん! 次はお洋服のお店に行って色んなお洋服を着ようね! だ、大丈夫だよ、何もしないから! 本当に! ちょっと、ちょっとだけ!」

「り、琳加ちゃん……何だか目が怖いんだけど……?」


 着せかえ人形にされる予感がした俺は流石に断った。

 琳加は基本的にクソがつくほど良い人だけど、たまに目つきが怖くなる。

 あと、俺の腕に身体を擦り付けるのは何なの?

 時間をかけて少しずつ、もいでいこうとしてるの?



 ~~~~~~~~~~



「はぁ~、今日は本当に楽しかった~」


 日が落ちる頃、地元の駅まで戻ってきた俺達は帰路についていた。

 人混みの無い道が落ち着く。


「琳加はいつもこんなにはしゃいでるのか?」


 俺は少し疲れた様子を隠せずに琳加に尋ねた。


「あはは、ごめんね。リツキを疲れさせちゃったよね」

「ばっか、お前。俺がこの程度で疲れるとでも思ってるのか?」

「顔に『疲れた』って書いてあるよ。消してあげる!」

「や、やめろ! 顔をムニムニするな!」


 散々、俺の顔を弄って満足するようにため息を吐く。

 俺みたいな陰キャは少し触られるだけで死ぬほどドキドキするからもうやめてね。


 琳加はポツリと呟いた。


「お姉ちゃん以外とは初めてだよ、こんなに『自分』でいられたのは」

「……そうか」


 琳加は嬉しそうな表情をしていた。

 周囲に期待されて、その役割を演じることでしか友人を作れなかった。

 今日は琳加にとって良い息抜きになったはずだ。


 俺は琳加の頭を撫でた。


「――えっ?」

「いや、何で私の頭を撫でたリツキの方が驚いてるのよ」

「めちゃくちゃ自然に身体が動いたからビックリした。コレが妹を持つ者の宿命か……」


 自分で頭を撫でておいて、素っ頓狂な声を上げた俺に琳加がツッコミを入れる。

 コレがお兄ちゃんスキルというものか。

 しかし、残念ながら実の妹にコレをやると顔を真赤にして怒られる。

 しばらくは目も合わせてくれなくなる。

 シスコン道は茨の道だ。

 それに比べて琳加は多分嬉しそうにしてくれてる。



 ――やがて、琳加の家の前にたどり着いた。



「……着いたな。家族は出かけてて、琳加は今夜は一人だったな。夜ふかしし放題じゃねぇか」

「送ってくれてありがとう。べ、別に二人でも良いけど……? よ、よかったら私の家で少し休んでいかない?」

「いや、今日は俺が食事当番だ。早めに家に帰らないと妹が代わりに作っちまう」

「"あかねちゃん"だよね? 良い子なんだね、リツキに似て可愛いんだろうなぁ」

「当たり前だろ、世界一可愛いよ。俺に似てるとか失礼だろ」

「えぇ~……」


 俺のシスコンっぷりに琳加は若干引きつった笑顔を見せる。

 あと、お前は周囲に恐れられてて友達も居なかったから知らないんだろうけど男の人を簡単に家に上げちゃだめよ?


「分かった、じゃあ今日は勘弁してあげる」

「おう、すまねぇな」

「少し暗くなってきたし、リツキの家まで送ろうか?」

「いやいや、おかしいだろ……と強く言えないのが情けないな。家はすぐ近くだし、別に良いよ」

「じゃあ、もう帰るの?」

「そうだな、またいつでも付き合ってやるよ、学校だとなかなか絡めないだろうしな」


 俺が自宅方向へと向きを変えると、琳加はなぜかニンマリと笑顔になった。

 なに? そんなに早く帰って欲しいの?


「リツキ! 絶対にまた遊んでね!」

「おーう!」


 琳加はずっとニヤケた表情のまま、見えなくなるまで自宅の前から俺を見送ってくれた。



 ~~~~~~~~~~



「ただいま~」


 俺が自宅の玄関を開けると、あかねがリビングから出てきた。

 こいつはいつも玄関まで迎えに来ては「おかえり……」と吐き捨ててまたリビングに戻るのだ。

 しかし、今回はいつもと様子が違った。

 なぜか、俺の姿を見て固まってしまっている。


「お、おにい――いや、お姉……様?」

「……はい?」


 頬を赤く染めてそう呟いたあかねの言葉で思い出す。

 ――俺はカツラを被って女装したままだ。


 やられた。


「琳加のやつめ……俺が忘れてるのを分かってて帰したな……」


 まんまと一杯喰わされた俺はため息を吐いた。

 今ならあのニヤケた表情の意味もよく分かる。


 あかねはワナワナと身体を震わせている。

 きっと俺の変な姿に笑いを堪えているのだろう。



「お、お兄ちゃんっ! す、凄く可愛いよ! どうしたの!? いや、聞くのも野暮だよね! 私、お兄ちゃんがそういうのが趣味でも全然いいっていうか、むしろ大歓迎っていうかっ!? これからは『お姉様』って呼ぶね! お、女の子なら一緒にお風呂とか入っても大丈夫だよね! 女の子同士だもんね!?」



 妹よ、そんなに煽りスキルが高かったのか……。

 俺が女装していることをここまで馬鹿にしてくるとは……。

 いつもはもっと顔を真赤にして『ば、馬鹿っ!』とかしか言わないのに。

 どこでそんなの覚えてきちゃったの?


 俺はカツラを外してため息を吐いた。



 ◇◇◇



「えへへ~」


 琳加はシオンのサインを机に飾ると嬉しそうな声を上げる。

 サインにはしっかりと書かれている。


 "りんかさんへ"


「……ってあれ? 私、自分の名前言ったっけ? 混乱してて覚えてないけど、書かれてるって事はきっと言ったんだよね。まぁ、どうでもいいか! シオンのサインだ~!」


 琳加はいつまでもサインを見つめていた。



【あとがき】

いつも読んでいただきありがとうございます!

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何卒、よろしくお願いいたします<(_ _)>ペコッ

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