第13話 日陰琳加は語らない
俺はすでに少し上映が始まってしまっている会場に着くと、
琳加は小声で俺に「大丈夫か?」と聞いてくる。
とても心配そうな表情だ。
こいつは20分以上も俺を探し回っていたはずなのに全く頭にきていないようだ。
俺は「大丈夫だ、一人で待たせてすまなかった」と謝ると、琳加はまるで気にしていないかのように微笑んだ。
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"「ギルネリーゼ様、一緒にこの国を出ましょう!」
「ティム、私は貴方とどこまでも共に参ります!」"
映画のラスト、駆け落ちを決心したお嬢様が召使いの手を取って屋敷を抜け出す。
この家から、両親の呪縛から、許されぬ身分差を超えた愛の為に。
そして、俺の歌っている主題歌『Standing alone with you』が大音量で会場内に響いた。
会場内はすすり泣く音で溢れかえる。
俺は琳加にハンカチを渡した。
どうやら一枚じゃ足りそうになかったから。
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映画が終わると、歓声と共に拍手が沸く。
琳加も涙ながらに一生懸命拍手をしていた。
かく言う俺もなさけない事に泣いてしまっていたのだが、映画館は暗かったし、服の袖で涙は拭ったのでバレないだろう。
「あはは! リツキ、めっちゃ目が赤いじゃん! 泣き虫~!」
「うっせ! お前なんかハンカチ一枚じゃ足りないくらい泣いてたくせに!」
はい、速攻でバレました。
ちなみに何度か見ているのにまた泣きました。
俺は強がるも、何だか中学生みたいな言い返ししかできなかった。
あと、俺は今女装してるんだった。
口調には気をつけないと。
鑑賞後の熱が冷めないのだろう、周囲の観客たちは口々に話をしている。
「映画もそうだけど、シオンの曲も最高だったね!」
「二人で屋敷を出て走り出す瞬間に曲がかかるんだもん! もう泣くしか無いじゃん!」
「しかも、映画の最初にシオンの『So alone』がかかって、最後は新曲の『Standing alone with you』になるんだよ!?」
「『1人ぼっち』から『2人っきり』へ。最高の演出だよね!」
凄い、そこまで気が付くとは……
そうなのだ、だから今日琳加が俺の過去の曲である『So alone』を話した時実は少しドキッとしていた。
偶然にも琳加の好きな曲が今回リメイクされている。
しかも新曲はある種のアンサーソングのようなもの。
『自分と同じ孤独な相手はきっとどこかにいる。孤独な2人が揃えば、大きな力になる』という感じの曲だ。
琳加がここまで泣いてくれているという事はきっと満足のいく答えだったのだろう。
俺は大勢の観客達の様子よりも、隣りにいる一人の女の子の様子に胸を撫で下ろした。
「
観客の一人が自分たちに聞こえる声でそんな話をしてしまった。
ここで遅れてきた俺が舞台挨拶の話に触れないのは不自然だろう。
「舞台挨拶なんかあったのか? シオンも来たってことか?」
俺はとぼけた様子で琳加に聞いた。
俺を探していたせいで琳加は全く見ることが出来なかった舞台挨拶の様子を。
「えへへ、そうなんだ~。残念だったね。私、サインまでもらっちゃった!」
「……なんだよそれ! ずるいな~!」
「はぁ~、シオン君すっごくかっこよかったな~」
「…………」
憎まれ口の一つでも叩かれようと思っていたのに、琳加は俺を探して舞台挨拶を見れなかった事を明かさなかった。
俺に気を使わせないためだろう。
そんな琳加を見て俺は決心する。
「それにしても、一人で待たせて本当に悪かった! お詫びに何か奢ってやるよ!」
「えっ!? べ、別にいいよ! 体調が悪い事なんて誰にでもあるでしょ?」
「いやっ、俺が体調管理できてなかったせいだ! 頼む、何かさせてくれ!」
俺はせめて何か琳加の願いを聞いてあげたかった。
琳加は俺の嘘を信じて、俺の為に心配し。
俺を探して舞台挨拶を見逃し。
しかも俺の為にその全てを無かったことにした。
サインだけじゃ足りない。
こんなに健気な彼女に何か出来る事をしてあげたい。
「う~ん、そんなに言うなら……。じゃあ、えいっ!」
琳加は俺の片腕に両腕で抱きついた。
……これは?
「う、『腕を片方寄こせ』ってこと……ですか?」
「何でよっ!? 私、まだリツキにそこまで怖がられてるのっ!?」
これじゃむしろ俺へのご褒美では? と思いつつ腕に抱きつく琳加と一緒に映画館を出た。
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