特別編 噂の陰キャ兄貴を馬鹿にしに行く その7
「ただいま~」
「おう、おかえり。結構遅かったんだな」
彼女たち3人が家を出ていった数分後。
あかねが疲れたような表情で玄関の扉を開けて、うつむいたままため息を吐いた。
「うん、何度も『早く帰りたい』って言ったんだけど。カメラマンさんが私を見た瞬間、『とんでもない逸材だ! 君、写真集を作らないか!?』とか興奮し始めちゃってさ~」
なかなか帰らせてもらえなかったらしい。
だが、カメラマンさんの気持ちも分かる。
「そんなのお兄ちゃん許さないぞ。で、いくら払えばそれは買えるんだ? 今までの音楽活動での収入は全額惜しみなく出せるぞ」
「はぁ……お兄ちゃん。本人がここにいるんだからわざわざ私の写真なんか使わなくても――」
どうしようもない俺のシスコン発言に呆れながらあかねは俺を見ると、言葉を止めた。
そして顔をしかめる……なんですか?
というか、あかねは写真を"見る"でもなく"使う"って独特な表現をするなぁ。
それはどうでもいいけど。
「お兄ちゃん、なんで髪が整ってるの?」
「おっ、そうだった。俺ってよく外で職質されるだろ? これ以上あかねに迷惑をかけたくないからな。今度からこの格好で外に――」
「絶対に"そんな顔"で外に出ちゃダメ。連れて行かれちゃうわ」
「そ、そうなのか……?」
あかねは俺の顔をまばたき一つもせずに見つめながら頷く。
「そうなの。今まで通り顔は隠して。というか、もう一生家から出なくてもいいよ。私がお兄ちゃんの何もかもを全部管理してお世話するから」
「そ、そこまで俺に外に出て欲しくないのかよ……」
どうやら、俺の顔は一発取締りレベルに酷いらしい。
あかねにしてみればもう外を歩いて欲しくないくらいに……。
というか、あかねは真顔で冗談を言うから少し分かりづらい。
よく考えると遠回しな罵倒だということにいつも気がつくのだが。
「わ、分かった。じゃあすぐに普段の格好に戻すよ……」
「――も、もう少しそのままでっ! いや、今日はもうそのままでいいんじゃない!? ほ、ほら! わざわざ戻すのも面倒だし!」
「確かに、もう出かける予定もないしな」
「そ、そうだ! お兄ちゃんも写真撮っちゃおう! ちょうど写真切らしてたし!」
「写真ってそんなに頻繁に消耗する物でしたかねぇ……」
「お、おお、お茶をこぼしちゃったのっ! な、何回も! それはもう頻繁にっ!」
やはりコップを置くコースター代わりにでも使われているらしい。
そんなにお茶をこぼすはずもないし、多分ストレス発散に使われてるな……。
そのうち、頭に釘とか刺さってたらどうしよう……。
自分の写真を不憫に思いながら、俺はため息を吐いた。
◇◇◇
――後日、あかねには普段話したこともないような3人の女の子が「仲良くなりたい!」と学校で話しかけてきたらしい。
【あとがき】
特別編でした!次回から本編に戻ります!
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