第3話 ペルソニアのゲリラライブ

 

 クラスは、いつもの通りペルソニアの話題で溢れていた。


「ねぇ、この前のペルソニアのライブ! やばかったよね!」

「超大爆笑した! だって、マネージャーの鈴木さんが歌わされたんだよ!」

「あれってシオンが鈴木さんに無理やり歌わせたらしいよ!」

「あ~ん、シオンきゅんって実はSなのかな~。私もイジメて欲しい~」


 机で自習をしつつ、クラスの女子達の会話を盗み聞く。

 そんな気持ち悪い事してる俺がシオンです、本当にごめんなさい。

 ちなみに、俺はSはSでもシスコンのSだ。


 そんな俺を他所に女子達は会話を続けていた。


「はぁ~でもやっぱり生で見たいよね」

「何言ってるの! ライブビューイングのチケットが手に入るだけでも凄いんだから!」

「そうよ! 遠くからでもシオンきゅんの応援ができればいいの!」

「それに……生でなんて見ちゃったら。意識を保てる気がしないわ~」


 そう、俺のライブのチケットは滅多に手に入らないのだ。

 ネット購入を始めようものなら一瞬でサーバー落ち。

 次につながった時にはもう完売である……。


 なんて事を考えていたら彼女達に1人の男子が近づいてきた。


「ふっ、君達。チケットが手に入らなくてお困りのようだね?」

「あら? 神之木かみのぎ君、盗み聞き? キモいわ、死んでくれる?」

「ぐはっ! 南沢みなみさわ……相変わらずの毒舌美人だな」


 俺は勉強道具のペンを机の下に落とした。

 決して動揺したわけではない。


「で? 盗み木君、私達に何の用なの?」

神之木かみのぎだ。いや、実はペルソニアが由比ヶ浜の海岸でゲリラライブをやるって噂があってな」

「はぁ? 何よそれ、大ファンの私達ですら知らないんですけど?」


 思わず、ペンを拾った頭を机にぶつける。

 いや、それ俺も知らないんですけど!?


「今週の日曜日に行われるって噂だ。ネットで見た」

「全然、信憑性がないわね」

「ちょっと待って、しかも日曜日って……」

「咲野の誕生日会の日じゃない! ダメよ! そんなあるかも分からないイベントでパーティを潰すなんて!」


 なんか盛り上がってますが、その日にゲリラライブはありません。


 ――って、ちょっと待って、咲野さん。

 何でそんな『覚悟決めました』みたいな顔をしているの。

 ダメだよ? こんなデマを信じちゃ!


「みんなっ! 私はペルソニアの、シオンの、一番のファンでありたいわ! だから――」


 待って、やめて。

 大切な誕生日会を潰してまでありもしないゲリラライブに向かうのは。


「例え1%の確率でも、シオンに会える可能性があるなら賭けてみたいの!」


 0%だから!

 海に行っても会えるのは気合の入ったサーファーだけだから!


「さきのん……分かったよ! もちろん、私も付き合う!」

「ふん、ずるいよ。私だってシオンくんの大ファンなんだから! 行くに決まってるでしょ!」

「みんなで行けばきっと奇跡は起こるよ! 最高の誕生日にしよう!」


 いや、とめろよぉぉぉ!

 何いい雰囲気になってんの!?

 神之木も何、『良い仕事した』みたいな顔してるの!?

 お前はマジで死ねよ!

 ガッツリとデマ情報掴まされてるんだよぉ!


「みんなありがとう……。私、きっと忘れられない誕生日になるっ!」


 きらきらと眩しい笑顔を向ける咲野を横目で見る。

 あの笑顔を曇らせることなどできるだろうか。

 絶対、シオンならそんな事はしないだろう。


 ――俺は席を立つと教室を出た。


 周囲に誰も居ないことを確認すると、校舎の影でスマホを起動する。

 マネージャーに電話をかけるためだ。


「あ~、鈴木。この前のライブは悪かった。それと、突然だが日曜日に由比ヶ浜でゲリラライブやるから手配してくれる? メンバーには俺から伝えておくから」



 今週末はどうやら休めそうにない。

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