第2話 学校でも大人気の【ペルソニア】

 

「ねぇ、聞いた!? シオンの住んでる場所って関東らしいよ!?」

「マジ!? もう、しらみ潰しに家を訪問していくしかないじゃん!?」

「マジマジ! マネージャーの鈴木さんがテレビでぽろっと言っちゃったんだよね!」


 教室の扉を開くと、クラスの女子達がとんでもない話をしている。

 しらみ潰しって……そこまでして家を知りたいのか。

 絶対に俺の正体はバレてはならない……俺は改めて身を引き締める。


「ちょっと……なんか鬼太郎メガネがこっち見てんだけど」

「はぁ、マジでキモいわ……」


 思わず足を止めて彼女達の方を見つめてしまっていたみたいだ。

 俺に聞こえる小声で罵倒されている。

 ちなみに『鬼太郎メガネ』はクラスでの俺のあだ名である。

 顔が見えないくらいの長髪にビン底メガネをかけているからという分かりやすいセンスだ。

 さすがに妖怪扱い……はされていないと信じたい。


「ちょっと、あんた達! 話してないで、こっちの作業手伝ってよ!」

「次のライブの応援うちわとハッピ、人数分作らなくちゃならないんだから!」


 教室の床ではこれまた女子達がペルソニアのライブに向けての準備をしていた。

『シオンLOVE!!』『素顔を見せて!!』『大好き!!』などの文字とハートが散りばめられたグッズが並べられている。

 ――俺の机と椅子の上にも。

 単純に床に置きたくないので俺の場所が使われているのだろう。

 助けを求めるような視線を軽く周囲に向けてみるが、当然誰も俺に気がついていない。

 目立たないようにするためとはいえ、クラスに友達を1人も作らなかったのはこういう時に辛い。

 というか、作れなかっただけなんですけどね。


「…………」


 ホームルームの時間になれば流石に彼女達も片付けざるを得ないだろう。

 俺は居たたまれない時間を消費するためにトイレに向かった。

 わざとゆっくりと、ちょうどよい時間に帰ってこれるよう廊下を歩く。


 道すがら、他のクラスに目をやると同じような光景が広がっていた。

 男子はペルソニアの新曲やMV、コピーバンドをしようなんて話。

 おとなしそうに席に座っている女子もよく見たらファンレターを綴っている。

 内容は……『シオンシオンシオンシオン~~』……何これ怖い。


(……とりあえず、俺の住んでる地方をバラした鈴木は楽屋で叱ろう。いや、もういっそ無理やりライブで歌わせてみるか)


 いつもながらの異様な光景に若干慣れつつ、俺はマネージャーへの制裁を決意した。

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