第7話 琳加はワクワクしているようだ

 

 映画の約束を取り付けて、琳加は嬉しそうにしている。

 念の為、俺はもう一度確認を取った。


「本当に良いのか? 俺なんかと歩いてる所を誰かに見られたらまずいんじゃないか?」

「渋谷なんて地元でもないから大丈夫でしょ。誰とも会わないって」

「いやでも、万が一……いや、やっぱり俺が心配性すぎるのか?」


 よく妹に言われる事を考えて、俺は首を捻る。


「リツキがメガネを外せば誰も鬼太郎だとは思わないよ。み、見えないなら、私がリツキの腕を組んで歩くから……」

「いや、俺は視力が悪くないから大丈夫だ。ダテ眼鏡なんだ、かけると頭が良くなるからな」

「なんだそれ~。で、でも腕は組んで良いんじゃない? ほ、ほら、転ぶと危ないし」

「俺は子供かな? あいにく、歩くのは得意なんだ」


 眼鏡を外した方が良いという琳加の提案に思わずうなずく。

 確かに、こんなビン底眼鏡を外せば少なくとも俺が鬼太郎だとはバレないだろう。


 というか、今思ったが琳加に素顔を見られてしまったのは少しまずい。

 これで、もしシオンの素顔が世間にリークされたら琳加にはバレてしまう。

 仮面バンドとはいえ、隠してるのは目元だけだし。

 関係者は俺の素顔が映ってる写真とか持ってるし油断はできない。

 あと、なんでそんなに腕組みたいの?

 俺が逃げられないように?

 友達への執着心が凄いな。


「で、待ち合わせはどうする?」

「私の家に来て! 場所はスマホで送るから。だ、だから、RINEアドレスを交換して!」

「お、おう……」


 まさか、学校の女子の連絡先を手に入れてしまうことになるとは……。

 大丈夫、これ? 映画が終わったらブロックされたりしない?

 電子マネーを買うように指示されたりしない?


「ふ、ふふ、ふふふふふ……」


 俺と連絡先を交換すると、琳加は不気味な笑い声でスマホをみつめ始めた。

 こんなに嬉しそうにして……。

 こいつ、本当に取り巻き以外の友達がいないんだろうなぁ。

 学校外では良いボッチ友達になれそう。


「ね、ねぇ……ちなみにリツキは学校で他の女子のアドレスを持ってたりするの?」

「家族以外はいないよ。俺の陰キャっぷりは何となく分かるだろ?」

「ふふ、そっか~。リツキの顔の事に気がついてるのは私だけかぁ~、そうなんだ~」


 琳加はニヤケ顔を隠しきれないような様子で俺を見てきた。

 こ、こいつ……俺の何かに気づいているんだろうか。

 いや、シオンは顔を公表していないんだ。

 出演する時は目元を仮面ペルソナで隠してるし。

 その他にも工夫をしている。

 バレっこないさ。


 ちなみに、俺のスマホに女子のアドレスは無いがシオンのスマホは女子だらけだ。

 アイドル、女子アナ、女優、人気子役、さらには海外セレブまで。

 毎日のようにメッセージを送りつけられている。

 アドレスを教えないと、彼女らが楽屋まで付きまとって来るからだ。



「じゃあ、リツキ! 当日はうちに午前9時に集合だよ~!」

「はいはい」


 ピョンピョンと飛び跳ねてこちらに何度も手をふる琳加を俺は見送る。


 ……めっちゃ揺れてるな、何がとは言わないけど。


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