第17話 少し言葉が足りません

 

「よーし、じゃあまずはそれぞれで勝手に準備運動をしてラリーをしてくれ! しばらくしたら試合をするぞ~!」


 剛田の大声が体育館に響く。

 こいつ、空き地でリサイタルとか開いてないだろうな。


「準備運動だって」

「なんだ、その差し出した手は? 一緒にはやらないぞ、めちゃくちゃ目立つじゃねぇか」

「チッ……」

「舌打ちやめて……トラウマ思い出すから」


 別々で準備運動を終えると、俺は2人分の道具を取りに行く。

 俺はバドミントンのシャトルを左手に持ち、右手でラケットを構えた。

 まずはラリーだ。


 しかし、椎名はラケットを持ったまま棒立ちのままだった。

 こいつは何を考えているんだろうか。

 俺は椎名に近づいた。


「どうしたの椎名さん、構えなくちゃ」


 俺は椎名に"須田 凛月"として話しかけた。

 椎名は小声で「喋り方きしょ……」とか言った気がする。

 死のうかな。


「無理……構えられない」

「なぜ?」

「昨日の夜(のバンド練習)、シオンが激しく(ドラム練習)させたから腰が痛くて……」

「お、おま――!」


 俺はすぐに周囲を見回した。

 大丈夫だ、近くには話を聞いていそうな奴はいない。

 なぜか遠巻きにはめっちゃ見られてる気がするけど。

 こいつは言葉足らず過ぎていつも危険だ。

 というか、シオン呼びは勘弁してください。


「し、椎名さん……俺は須田すだですよ~。名前だけでも覚えていってくださいね~」


 俺は若手芸人の挨拶のようなノリで椎名にアプローチをかけた。


「須田……結衣、うん、ゴロが悪い。椎名 凛月の方が良いと思わない?」

「今は名前を合体させるゲームじゃなくてバドミントンをやりませんか?」

「無理、マジで腕も上がらないから」

「マジか……」

「ドラムの腕は上がったけどね」

「くそっ、ちょっと上手いと思っちまった……」


 謎の敗北感と共に俺は腕を組んで考える。


「この後、ダブルスの試合形式でやるんだよな?」

「みたいだね」

「どうする?」

「須田君が頑張る」

「椎名さんは?」

「もう昨日頑張った」

「昨日は俺も頑張ったんだけど?」

「頑張ったのはシオン、貴方は須田君なんでしょ?」


 いやいやいや、シャトルじゃなくて言葉のラリーをしてどうするんだ俺。

 しかも最後にポイント決められちゃったよ!?

 物凄いトリックプレーだったよ!?


「なぁ、どうにかラケットを振る事は出来ないのか?」

「須田くんが私を揉んでくれたら……」

「『――の腕を』を付けてくれ、お前の言い方はいちいち誤解を生みかねん」

「腕じゃなくても良いけど?」

「俺の気を揉ませないでくれ」


「――よーし! それじゃあ、時間もないから試合を回していくぞ~!」


 剛田の声が体育館内に響く。


 結局俺たちは一度もラリーをしないまま試合の時間になってしまった。

 いや、どうすんだよこれ……。


「鬼太郎と椎名さん、何かぼそぼそと話し合ってただけだったな」

「あの鬼太郎が椎名さんなんて高嶺の花と上手くいくわけないだろ」

「ラリーすらさせてもらえない鬼太郎……哀れだな」

「きっと揉めてたんじゃないか? 『一緒にやりたくないです』とか言われてたりして」


 遠巻きに見ていた男子達が笑いながら話す声が聞こえた。


 俺は"揉めて"ないです、冤罪です。

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