第16話 残り物同士で仲良くね
「よし! それじゃあ2人1組でペアを作ってくれ~!」
やめてください、死んでしまいます。
俺はジャージに身を包み、体育館で膝を抱えて震えていた。
この地獄のような言葉を何の悪意もなく言い放ったのは体育教師の剛田だ。
こいつにボッチの気持ちは一生分からないのだろう。
「2クラス合わせて、欠席は3名。人数は偶数になるはずだ~! そのペアでバドミントンの試合をするからな~! 強いパートナーを選ぶんだぞ~!」
そう、今日は他クラスとの合同体育だ。
ガハハと男らしい声を上げて無邪気に笑う剛田。
こういう悪意のない刃は俺によく刺さる。
やがて、仲の良いやつら同士がペアを作り始めた。
俺一人を残して。
「よし、パートナーが見つかっていない奴はもういないか?
はい、最後に晒し者にするフルコースですね。
今夜は眠れなくなりそうだ。
俺はめまいを起こしながら前に歩いて行った。
すると、周囲がざわめき始める。
えっ、何? そんなにボッチが珍しいの?
と、思ったらどうやらこのざわめきは俺へのものではないらしい。
自意識過剰でキモいですね。
ついに内なる自分までが俺を罵倒し始めたタイミングで俺はようやくうつむいていた顔を上げた。
目の前には小柄な銀髪の少女がいた。
中――いや、正直小学生にしか見えない。
「じゃあ、余り物の須田と
また剛田が余計な一言を言った。
しかし、周囲はチャチャを入れるどころか常にざわざわとしているだけだ。
「あれ、椎名さん……俺が誘った時は『相手が居るから』って」
「お前も!? お、俺も誘ったんだけどそう言われたぞ」
「俺もだ。相手、居なかったのか……?」
聞こえてきた声でざわめいていた理由が分かった。
こいつ、友達がいないくせに見栄をはったな。
結果、本当はパートナーが居ない事を言い出せず最後まで残ってしまった……と。
これだけ可愛いんだから、男子も女子も選び放題だっただろうに、哀れな。
俺は同情にも似た気持ちを感じつつ椎名さんと2人でバドミントンのラケットを握った。
「え、えっと……椎名さん。よろしくね」
俺は何とか仲良くなろうと気さくに挨拶をする。
一見クールビューティな彼女も俺がフレンドリーに接すればこの体育の時間くらいは乗り越えられるだろう。
俺の挨拶を聞くと、椎名さんは僕を見上げて口を開いた。
「――シオン、何その気持ち悪い挨拶」
俺は急いでこいつの口を手で塞いだ。
周囲を見回して誰にも聞かれていない事を確認する。
こ、こいつ……
「おいこら、未来の天才ドラマー。学校では俺を芸名で呼ぶなって言ったろ」
「ごめん、こうすればシオンが私の口を手で塞いでくれると思ってつい……」
「なんで変なプレイに目覚めてるんですかね……」
そう、こいつは"関係者"だ。
一見小学生にすら見える小柄な彼女。
割と不思議ちゃんで、困ったちゃんな彼女こそが。
大人気仮面バンド、ペルソニアの"ドラム担当"。
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