特別編 噂の陰キャ兄貴を馬鹿にしに行く その4

 

「そ、粗茶ですが……」

「「ありがとうございまーす!」」


 居間に通して、小さなちゃぶ台の周りにみんなで座ってもらった。

 俺はこれから彼女たちにどんな罵詈雑言を浴びせられてしまうのかとゾクゾ――ビクビクしながら麦茶をグラスに注いでいく。

 断じて興奮とかはしていない。


「…………」

「…………」


 全員の前に麦茶の入ったグラスが並べられると沈黙が訪れた。


 ――えっ、これ俺から話を始めないとダメなの?

 無理だよ? 後輩とはいえ俺から女の子に話しかけるなんて。


 しかし、無情にも会話は始まらない。

 彼女たち3人は全員で顔を赤くしながらチラチラと俺の顔を見ているだけだった。

 あかねが俺にうんざりさせられていることを相談されて、内心では顔が赤くなるほどに怒っているのかもしれない。


 このままじゃだめだ、もうすでに勝負は始まっているのだ。

 まずは俺から言葉のジャブを打って牽制していかないと……!

 ――というか、普通に気まずい。


「え、えっと……それで俺に用事っていうのは――」

「お兄さんは彼女さんとかいらっしゃるんですか~?」


 木村さんにカウンターでボディーブローを打ち込まれた。

 鋭く肝臓レバーに突き刺さり、一瞬呼吸が止まる。

 俺に彼女なんているはずがない。

 毎年"クリスマス男子シングル"に出場している強豪の常連選手だ。

 しかし、これでダウンするわけにはいかない。

 俺は平静を装いながら笑った。


「あ、あはは……どうだろうね~?」

「え~? どうなんですか~? 教えて下さいよ~」


 どうにかはぐらかしてコーナーに逃れようとするも、守谷さんは俺を追い込んでくる。

 ダメだ、このままじゃKOするまで徹底的に言葉のサンドバッグにされる。

 というか、なんで3人はワイシャツのボタン緩めてるの?

 俺が麦茶とグラスを取りに行く前はしっかり閉めてたよね?

 3人とも胸元の発育が凄いからワイシャツなんて緩めたら――


「あっ! ギターが置いてある! もしかして音楽もやってるんですか!?」


 俺が下心に呑まれようとしていると、山本さんが瞳を輝かせて急にそんな事を言った。


 その視線の先には。

 俺が作曲で使っていて置きっぱなしにしてあるアコースティックギターがテレビの横に立て掛けてあった。

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