第15話 アキラ、夜の学校に侵入する!

 八泉高校。小高い山の上にあるこの高校は、人家から少し離れた場所にあった。毎朝この山を登って登校してくる生徒たちは大変である。新入生がこの登校という名の登山により、新年度から息も切れ切れになるのはもはや毎年の恒例だ。


 そして、今は夜。学校に明かりはなく、不気味な鳥の鳴き声だけが敷地内に響いていた。駐車場を見ても車が一台もないということは、教員も全員が帰宅したということだろう。日付を越えてまで業務に勤しむ教師というのは今は昔ということか。


 そんな八泉高校の正門の前に、二つの影が現われた。一つは背の高い影。もう一つは子供のような小さな影だった。


 山中アキラと神風七夏である。



「そろそろ時間でござるな」


「うん、そうだね」



 この二人がこんな時間にここにいるのには理由がある。もちろん、夜のデートというわけではない。その理由とは――。



「今こそ学校に忍び込み、殿の生徒会役員応募用紙を見つけて改竄するでござる!」


「おおっ!」



 七夏が小声でアキラの掛け声に応えた。


 昼間にアキラが言っていた用事というのはこのことだ。今頃久菜は久々の一人の時間を満喫していることだろう。知らぬが仏。今まさに自分の運命を変えようと画策している人物たちがいるとは夢にも思っていまい。


 アキラが先頭に立ち、七夏があとにつづく。アキラは迷わず校舎の一階にあるとある窓に向かっていった。



「ここの窓が開いているでござる。ここから侵入するでござるよ」


「へぇ、昼間のうちに開けておいたの?」


「いや、それでは用務員殿に閉められて終わりでござる。よって、その用務員殿を調略したでござるよ」


「調略――って、まさか、買収でもしたってこと⁉」


「いかにも」



 なかなかアキラもやることがえげつない。まさか大人である用務員がアキラの買収工作にひっかかるとは。この男、なかなかやるようだ。



「よく用務員さんが許可してくれたわね。何で買収したの?」


「カップラーメン一個でござる」


「安っ!」


「今まで健康生活でコンビニに売っているようなものは一度も食べたことがないと言っていたでござるから、ここぞとばかりに交渉してみたでござる。『問題を起こさなければそのくらいのイタズラは大目に見よう』と言っていたでござるな。いやはや、なかなか話のわかる御仁であった」


「いや、その問題を今から起こそうとしてるんだけどね、あたしたち。まあ、バレなければいいけど」



 アキラと七夏は素早く用務員が開けておいてくれた窓から校舎内に侵入した。あらかじめ用意しておいた予備の上履きに履き替える。今まで履いていた靴はビニール袋の中だ。



「っていうか、アキラくん。その靴、草鞋じゃない?」


「いかにも。やはり私服ならば草鞋に限るでござるな」


「へぇー、いいなぁ。私も一度は履いてみたいかも」


「それならば一足プレゼントするでござるよ。家には予備の草鞋がたくさんあるでござるからな」


「えっ、いいの? やったぁ」



 七夏は草鞋のプレゼントがうれしいのか、その場で小さく跳ね上がった。綺麗な靴をプレゼントされて喜ぶ女子高生は多いだろうが、草鞋をプレゼントされて喜ぶ女子高生は七夏くらいだ。さすが歴史オタクの女子高生である。



「殿の応募用紙は職員室でござったな」


「うん。中川先生の机の中。上から二番目の引き出しにあるはずだよ」


「さすがの情報網でござる。では、いざ参らん!」


「参らん!」



 アキラと七夏は二つの拳をあげ、職員室に向かって歩き出した。コツコツと夜の闇の中に足音が吸い込まれていく。


 その二人の背中を、じっと見つめている瞳があった。その瞳は、まるで虎のように獰猛だったという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る